30.練習相手は誰にする?
ブクマ&評価&感想ありがとうございます。
なんだか久々の人物の登場です。
「はい、1、2、3 1、2、3 良いですよ。その調子で」
ダンスの先生が拍子をとる。
私は今ダンスの講義の真最中で、教えられたステップを復習しているところだ。
夜会への強制参加が決まった翌日には、マナーとダンスの講義を受ける予定が勝手に組まれていた。
ラジアスには自分の口からも事の次第を伝えるつもりだったのだが、食堂で朝食をとっているところにやってきた彼に先を越されてしまった。
「おはよう。2か月後の夜会に出るように陛下から直々に言われたぞ。今日から午後の時間はそれ関連の講義を行うから城に来るように、だそうだ。こちらの仕事は午前で切り上げて良いからな」
「え、もう副隊長に話いってるんですか?」
「昨日の午後に呼び出されてな」
「は、早い。・・・そういうことなので、すみませんがよろしくお願いします」
「ああ。ハルカは夜会などには出たことはあるのか?」
「あるわけないじゃないですか。私一般市民でしたし。ダンスとか・・・」
「それでか。陛下がハルカがどうなるかとても楽しみだと仰っていてな」
「・・・陛下っていつもあんな感じなんですか?」
「気さくな方だろう?この国の王族はみなあのような感じだ。だから貴族だけでなく市民にもとても親しまれているんだ」
ただなぁ、と続けるラジアスの顔には苦笑が浮かんでいる。
「良くも悪くも行動力が大変おありになるから、陛下の警護を担当している第一部隊の者たちはいろいろと振り回されて大変そうだがな」
「わかるような気がします」
まさに今私も振り回されているので良くわかりますとも。
「ハルカ様!考え事は後になさってください。背が曲がっていますよ!」
「は、はい!すみません」
なかなか厳しい指導を受け、本日の講義も無事終了した。
「お疲れ様でした。ステップはだいぶ身体に馴染んできましたね」
「ありがとうございます」
「短期間で覚えさせろとのお達しでしたのでどうなることかと思いましたが・・・優秀な生徒さんで安心しました」
「本当ですか?私は不安しかないのですが・・・」
一人で練習しているせいか自分の上達具合がよくわからない。不安がる私に先生は閃いたとばかりに顔の前で両手をパチンと合わせた。
「それならば隊の皆様と練習されてはいかがでしょう?」
「え?」
「第二部隊の方々は貴族の方も多いと聞いていますわ。皆様男性パートを踊れるはずですし、ダンスは相手がいたほうが格段に踊りやすいですよ」
ただのダンス講師である先生とペアで踊るのですら距離が近すぎて緊張するというのに、隊のみんなに頼むのはハードルが高い気がする。だが、不安を残したまま夜会に参加するのも嫌だ。
「そう言えばエスコート役は副隊長様でしたわね?せっかくだからご一緒に練習されたら宜しいのでは?」
それがいいと一人納得する先生を横目に、私はそれだけは無理だと思う。ラジアスと踊るにはいろいろと心の準備が必要だ。
とりあえず他の人で練習して慣れなければ。
きちんと踊れず当日ラジアスに迷惑を掛けたくないというのもあるし、せっかくなら良い思い出にしたいという気持ちもある。
こうなったらやるしかない。やってやろうじゃないか。私は何事も全力で取り組む人間だ。
私は軽く握り拳を作り一人気合を入れる、と若干の痛みが身体に走った。
いつも思うのだが、ダンスというのは普段使っていない筋肉を使うのかとても疲れるし、よくわからないところが筋肉痛になったりもする。
それを話せば「まだまだですね」と笑われるのだが一週間やそこらでまだまだ期を過ぎていたらそれはそれですごくないですかね、と心の中で思ったのは言うまでもない。
しかしそれと同時に、きちんと踊れるようになるには練習あるのみだなと改めて思った。
先生に挨拶を終え城を出る頃にはすでに陽が傾き、空は茜色から濃い紫色に染まっていた。
思っていたよりも遅くなってしまったので部屋には戻らずそのまま食堂に向かうことにした。
「こんばんは、ケッチャさん。日替わりセット一つお願いします」
「こんばんは、ハルカちゃん。今日のメインは鶏肉のトマト煮込みよ」
いつも通り美味しそうな料理に思わず笑みが零れる。
「うわぁ、今日も美味しそうですね」
「もちろんよー。そう言えば最近第二部隊のみんなとお夕飯は一緒じゃないのね」
「・・・今度夜会がありますよね。それに向けて個別特訓中なんです」
「あらあら。また新しいことを頑張っているのねぇ。たくさん食べて体力つけてちょうだいね」
「ありがとうございます」
ケッチャの優しい言葉に心が温まるのを感じながら私は席に着いて食事を始めた。
少しすると私の目の前に人影ができ、そこにはルバートがいた。
「こんばんは、ハルカ。ここの席座っても?」
「こんばんは。もちろんです」
「では失礼する」
「ルバート様お一人ですか?珍しいですね」
「ああ、今日の警備担当以外の者たちは皆街へ繰り出していきました。おかげで今夜は静かに食事が出来そうです」
そう言って優雅に食事をフォークで口に運んでいく。
その姿を見て私はルバートも貴族の出だったことを思い出し、ダンスの件を頼めないかと考えた。
「あの、付かぬことをお伺いしますが・・・ルバート様ってお付き合いしている方とかいらっしゃいますか?」
私のいきなりすぎる問いかけに一瞬だがルバートの動きが止まった。
「今はいませんが・・・いきなり何の話ですか?」
「実は今度の夜会に参加することになって、ダンスの練習中なんですが男性パートを踊れる練習相手を探しておりまして」
「・・・それで私ですか?」
「そうなんです。でも恋人がいる方にそんなことをお願いするのもどうかと思いますし、一応確認をと」
「なるほど」
「お時間ある時で構いませんのでお願いできませんか?」
「・・・まあ、構いませんが。当日のエスコートは副隊長がするんですよね?なのに練習相手が副隊長でなく私で良いんですか?」
当然の疑問だが聞かれたくはなかった。私が何も言えずにいるとルバートはわかっていると言いたげに軽く頷く。
「まあ初めから相手があの副隊長だと緊張しますよね」
「そう、そうなんです!緊張するんです」
「好きな相手だと緊張して練習にならないなんて、可愛らしい女心ですね」
「・・・え?」
私はルバートの放った言葉に驚き目を見開いた。
みなさん台風は大丈夫でしたか?
うちの方は避難勧告が発令されましたが、なんとか川も氾濫せずに済みました。
被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。
いやはや、自然災害って怖いですね。




