27.侍女、大満足
切れ目が無くて少し長くなりました。
部屋の方までやってくると廊下の掃除をしているところだったジェシーにラジアスが声を掛けた。
「ジェシー」
「あら、ラジアス副隊長・・・ってハルカ?!まあまあどうしたの?!」
「一度に魔力を使い過ぎて体に限界が来たらしい。今日はもう休ませるからいろいろ手伝ってやってくれないか」
「わかりましたわ。ハルカったらまた無茶をしたのね」
「・・・そんなつもりはなかったんですけど」
苦笑する私に「だから自覚が足りないと言ったでしょう」と言って食堂へと向かって行った。
部屋に入るとラジアスは私をベッドの上にそっと下ろす。
「ジェシーはなぜ食堂に行ったんだ?」
「あー、たぶん私がお昼ごはん食べていないのをお見通しなんだと思います。副隊長、ここまでありがとうございました」
「・・・ちょっと待て。今の言い方だといつも昼を食べてないように聞こえるんだが」
誤魔化されてはくれなかった。じろっとラジアスに見られて、思わず視線を逸らす。
「・・・毎日じゃないですよ」
「お前はなー・・・。はあ、食事はしっかりとれ。頑張るのは良いが体調管理も仕事のうちだぞ」
「・・・はい、すみません」
「また夜に様子を見に来る。しっかり休めよ」
出ていくラジアスとほぼ同時にジェシーが戻ってきた。
その手にはバスケットがあり、中には簡単に食べられるサンドウィッチとお茶のセットが入っていた。
「ケッチャさんたちもとても心配していたわよ。頑張るのは良いけれど無理はいけないわ」
「・・・気を付けます。でもずっと試していたことが成功したからこれからは本当に大丈夫です」
「まあ!それは良かったわね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「じゃあ今度お祝いしましょうか。そのためにも今日はゆっくりして体調を戻さなくてはね」
私の成功を喜んでくれるジェシーさんは、本当に嬉しそうにお茶の準備をしてくれている。
自分で思っていた以上に疲れている身体には美味しい紅茶と愛情の詰まった食事は最高のご褒美だ。
「ふ~沁みる、生き返るー」
「ふふ。なぁに、その言い方」
少しおじさん臭い言い方にジェシーが面白がって微笑む。
「そうだわ。生き返りついでに食べ終わったら湯浴みも済ませてしまいなさいな」
「え?ちょっと早くないですか?」
「だってハルカ眠そうだもの。このまま一人で置いて行ったら絶対そのまま眠ってしまうわよ」
「・・・たしかに」
私はもぐもぐと口を動かしてはいるが、指摘された通りかなり眠かった。話し相手がいなければ食べながら眠ってしまっていたかもしれない。
でもこの状態でお風呂に入ったら浴槽の中で眠ってしまいそうだなと思っているとジェシーが驚きの言葉を放った。
「今日はまだ身体がちゃんと動かなそうだから湯浴みも手伝ってあげるわ。せっかくだからミリアも呼んでマッサージまでやってしまいましょう」
この言葉に慌てたのは言うまでもない。
「え?!いやいやいや、それは結構です!一人で入れますって」
温泉の大浴場に入るのと一人の入浴を手伝ってもらうのとでは訳が違う。恥ずかしすぎる。
ここは日本ではないとわかってはいるつもりだったが、貴族のご令嬢はそれが普通だと言われても納得できない。
「いや、私貴族じゃないですからね?!」
「立場的には貴族と一緒かそれ以上じゃないの。今のうちから慣れておいて損はないわ!」
「そんな無理矢理な言い訳ないですよ!」
「ああもう往生際が悪いわね!ちょっとハルカの身体いじってみたかったのよ。なら今日がチャンスじゃない!」
「はぁ?それが本音ですか?!」
「覚悟なさい!しっかり磨いてあげるんだから!ああ、楽しみだわ。さっそくミリアにも伝えなくっちゃ」
手を胸の前で合わせてとても楽しそうに話すジェシーに押し切られる形となった。普段ならこんなことを言われたら窓からでも逃げ出そうとするが、生憎今日はそこまでの力が残っていないので諦めるしかなかった。
最後の一口となっていた紅茶の味がしなくなった瞬間だった。
しばらくして部屋にやってきたミリアはジェシーがやってきた時と同じようにバスケットを携えていた。しかし中身は違う。
ハーブや香油や石鹸がこれでもかと言うほど入っていた。
「どれが好みかわからなかったからいろいろ揃えてみたわ。ハルカはどんな香りが好みかしら?」
目の前に広げられたものの多さに頬が若干引き攣るのを感じる。
「この手のもの自体がよくわからないのですが・・・」
「難しく考えなくても良いのよ。例えば甘い香りが好きだとか、そういったことで良いのよ」
「甘ったるいのはちょっと・・・爽やかな香りの方が好きです」
それだけ告げるとジェシーとミリアは用意してきたものの中から私の希望に合うものを探し出した。
「ではこれとかはどうかしら?レモンの香りがするのよ」
「これも一緒に合わせてはどうかしら?森の中にいるような気分になるでしょう?」
「確かに良い匂いですね。これ好きです」
「決まりね!用意するから少し待っていて」
私がこの世界にもレモンあるんだなとか、時々通じない言葉もあるけど大体の名前とかは私の世界と変わらないって不思議だな、などと考えているうちにお風呂の準備が整ったようだ。
お風呂場の中には爽やかな香りが広がっている。
「さあさあ。早くお洋服を脱いでちょうだい」
「・・・本当に私一人でももう大丈夫ですけど・・」
「あらあら。困った子ねぇ。ジェシーどうしましょう」
「そうねぇ。これ以上駄々をこねられては面倒だから・・・ミリア、やってしまいましょう」
「駄々って・・・うわっ!」
ジェシーの合図とともにミリアが私の両腕をとり背後から羽交い絞めにしてきた。
「ちょっと!何するんですか!」
正直なところ本気を出せば簡単に抜け出せるが、女性に対して手荒くすることは出来ずどうにもできない。その間にもジェシーはシャツのボタンを外していく。
「女同士なのだから恥ずかしがらなくてもよくってよ。・・・ってあら?ハルカこれはなあに?」
ジェシーとミリアは不思議そうに布が巻かれた私の胸元を見ていた。
「・・・さらしの代わりと言うか。こっちの下着だと心許ないのでこれで胸押さえてるだけです・・・」
「毎日こんなもの巻いているの?苦しくないの?」
「慣れればどうってことないですよ」
「そう・・・ではこれも湯浴みには必要ないものね。剥いでしまいましょう」
「もう好きにしてください・・・」
にこにこと笑いながらその手を緩めない二人に私は諦めるということを選択した。
もう疲れた。どうにでもして。
お湯に浸かると温かさと良い香りが疲れた身体に染み渡り、ついうとうとしてしまう。
「ほらね、やっぱり私たちが手伝って良かったでしょう?」
そう言いながら手を止めない二人に私はされるがままになっていた。人に髪を洗ってもらうなんて一体いつ振りだろ。
気持ち良さにぼうっとしているといつの間にか魔法で髪も乾かされベッドへと連れて行かれる。
ちょっと待て。タオルを巻いているが私は今真っ裸ではないか。
私の目がきょろきょろと服を探していることに気が付いたミリアたちは、まだこれからだと言わんばかりに私のタオルを剥ぎ取った。
もう一度言おう。私は今裸である。
「ちょっっタオル!」
「何を言ってるの?仕上げはこれからよ!ずっとやってあげたかったんですもの」
「腕がなるわ~。さあ大人しくなさい!」
二人は腕まくりをし、両手をワキワキさせながらとても楽しそうだ。ベッドに倒された私は問答無用で二人に身体中を揉みしだかれていく。
(恥ずかしい・・・恥ずかしいけど・・なにこれー!すごい気持ちいい)
「マッサージのスペシャリストか・・・」
受けたことはないがこれは所謂エステと言うやつか。世の綺麗なお姉さん方が行くというあれか。あまりの気持ち良さに眠気が加速するが、ジェシーとミリアの作業はどんどん進み私が完全に寝落ちする前にマッサージは終了した。
「もう服を着ても良いわよ」
「あとは髪だけね」
「ありがとうございましたー。なんか身体がすっごい楽です」
「ふふっ。私たちの手にかかればこんなものよ。髪も任せなさい」
嬉しそうに言いながら髪に数滴の香油を馴染ませていく。ふわっと柑橘系の香りが鼻に届いた。
「これも良い匂いですね」
「でしょう?これハルカにあげるからちゃんと毎日お手入れしなさいね」
「そうよ。せっかく綺麗な髪をしているんだもの。きちんとやらなければもったいないわ」
「髪も少しずつ伸びてきているし、もう少ししたら結えるかしら」
「いいわねぇ。結うのはもちろん私たちにやらせてね。ふふ、今から楽しみね」
本当に楽しそうに話す二人を見て私も自然と笑みが零れた。
「どうしたの?」
「いえ、私兄が3人いるんですけどやっぱり男兄弟だとこんな会話にならなくて。姉がいたらこんな感じなのかなって思ってしまいました」
「・・・ハルカの姉だなんて光栄だわ。お姉様って呼んでくれても良いのよ?」
「まあミリア。抜け駆けはなしよ。私のこともお姉様って呼んでくれて構わなくてよ」
「こんな素敵な姉が2人もいるなんて最高ですね。みんなに羨まれそうです」
「相変わらず口が上手ね」
「本心ですから」
3人で顔を合わせて笑い声が上がる。
家族に会えなくて寂しいし、元の世界に帰れないことにやり切れない気持ちになることもある。けれど、優しい人たちに支えられている幸福は素直に受け取りたいとも思うのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブクマもありがとうございます。
嬉しいです(^▽^)
急に思いついた設定があったので、短編を一作品勢いで書き上げました。
「私の名はマルカ」
もし良ければこちらの作品も読んでいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。




