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王立騎士団の花形職  作者: 眼鏡ぐま
番外編

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番外編 年末

お久しぶりです。

久々の番外編です。

 

 うーん、重い。

 何が重いって私が今運んでいるこの樽が。

 私は普通に持てるけれど、普通の女性は引きずるレベルの重さだ。


「中身何入ってるんだろ」


 食堂まで運ぶようにと言われた樽の中身は知らないが、食堂へということはおそらく食べ物か飲み物かなのだろう。

 すれ違う人たち、主に騎士団の仲間からは「今年もこの季節がやって来たか」や「絶対に落とすなよ!」と声をかけられる。

 誰も代わりに持とうかと言わないあたり、悲しいような、みんなと同等に扱ってもらえて嬉しいような。

 そんなことを考えながら歩いていると、目当ての食堂に到着した。


「すみませーん。お届け物です。ここに運ぶように言われたのですが」


 そう声をかけると中から「はいはーい!ちょっと待ってねー!」とケッチャさんの元気な声が返って来た。


「おや、ハルカちゃんじゃないか。おっ、ルグルかい! これが来るといよいよって感じがするねぇ」

「ルグル? いよいよ?」

「そうだよ! これを飲むと、さあ年越しだって感じがするんだよね」

「飲むってことはお酒か何かですか?」


 そう聞き返した私に、ケッチャさんは少し驚いたような顔をした。


「ハルカちゃん、ルグル酒って知らないかい? 年末年始に飲むお酒なんだよ」

「初めて聞きました」


 ルグル酒の存在を知らないという私にケッチャさんはそれが何なのかを教えてくれた。

 なんでも、ルグル酒とは麦から作る非常に度数の高いお酒なんだそう。

 基本的には年末年始にしか飲まれないもので、レンバック王国の人たちは家族や仲間とこのお酒を酌み交わしながら年を越すらしい。

 度数が高いため撃沈する者も多いらしく、翌日が休みの時にしか飲まないのだそうだ。


「翌日にお酒を残さないという選択肢はないのでしょうかね……」

「それが一番なんだけどね。度数の割に飲みやすくてどんどんすすんじゃうのがルグルの怖いところなのさ……」


 そう言って遠くを見つめたケッチャさんもきっと、ルグル酒で潰れたことのある一人なのだろう。


「騎士団のみんなもここに残る子たちは毎年食堂で騒いでるよ。みんなに聞いてみるといいかもね」

「そうしてみます」




「――という話をケッチャさんから聞いたんですけど。ラジアス様も飲むんですか?」

「飲むが……言わなかったか?」

「聞いてませんよ。聞いたのは3日間ずつ交代制で休みを取るってことだけです」


 恒例の1日終わりの報告会。

 以前は執務室で行っていたが、今は私かラジアス様の部屋のどちらかで行うことが多くなった。ちなみに今日はラジアス様の部屋でソファに並んで座っている。

 この世界に来て初めて迎える年越し。

 騎士団では年末年始を含めた3日間と、その後の3日間の2部制で休暇が与えられる。

 文官やメイドなどはくじ引きで当たりを引いた者だけが城に残り、他の者はほとんどが自宅に帰るらしい。

 ただし、騎士団はそうもいかないので半々に分けられる。

 昨年が年末年始が休みだった者は、今年は年越しをしてからの3日間の休暇となるのだそうだ。


「俺は昨年が年末年始だったから、今回は年明けの3日間が休みだな」

「あの、私は?」


 当たり前のように話しているが、私にとって初めて聞く話だ。

 日本だったらお正月だなくらいにしか思っていなかった。


「ハルカは年明けの3日間だ。当たり前だろう?」

「当たり前なんですか?」

「俺が休みなんだから当然じゃないか。それともハルカはすぐ傍に恋人がいるのに一人で3日を過ごせと言うのか。そんなこと言われたらさすがにへこむぞ」

「こっ、恋っ」


 にやりと笑いながらわざとらしくラジアス様が言った言葉に思わず言葉が詰まる。

 ラジアス様と両想いになってだいぶ経ったが、未だにこんなことでドギマギしてしまう。

 くう、負けてたまるか!


「……恋人ですからね! 一緒に過ごしてあげます!」

「相変わらずハルカは可愛いなあ」


 ラジアス様はそう言って笑うと隣に座る私の肩を抱き寄せ、大きな手で私の頭をくしゃっと撫でた。


(うわー! うわーっ!)


 無理だ。

 慣れない、慣れない。

 こんなの何回やられてもドキドキする。


「そ、そういえばラジアス様は家に帰らなくてもいいんですか!?」

「いいんじゃないか?」

「で、でも、ルシエラ様なら私を連れて帰ってこいくらい言いそうですよね!」

「ああ……まあ確かにハルカを連れて帰って来いと言われたな」

「え……本当に言われたんですか? それなのに帰らなくていいんですか?」


 しかも私誘われたのか。

 それも初耳なんですが。

 ラジアス様を見上げれば、彼の琥珀色の瞳がふっと優し気に細められた。


「あの家じゃハルカと二人きりになれないだろ? ハルカと恋人になって初めての年越しだぞ? 俺は邪魔されたくない」

「……は? ……え? ……はぁ!?」


 顔を赤くして狼狽える私に満足そうに笑みを深めてラジアス様は私の頭に口づけたのだった。




 ◇◆◇◆



「だはは! おーい、もっとルグルくれ!」

「今年もお疲れ!」


「うう……今年も独りの年越しかよ」

「泣くな、泣くな! 俺たちがいるじゃねえか!」

「何で私はモテないのだ……」

「まあまあ! ルグル飲んで忘れろ!」


「よーし! いけいけ!」

「腕相撲でまで負けられるかよ!」

「まあ勝つのは私ですがね」

「負けるな! おい、堪えろ!」


 食堂のいたるところで騒ぐ声が聞こえる。

 セリアン様はともかく普段礼儀正しい騎士たちまでも大声で笑ったり叫んだり。


「驚いたか?」

「すごい……これがルグル酒の力……」


 酒は飲んでも飲まれるな。

 目の前の光景を見て私はそう思った。

 ラジアス様に面白いものが見られるぞと言われてやってきた食堂。入口のところからこそこそと中を覗いていた。

 ちなみに今はまだ夕方だ。夜にすらなっていない。


「これからもっと荒れるだろうな」

「これ以上に!?」

「毎年何人かここでこのまま朝を迎える」

「うわぁ、駄目な大人だ……」


 こうはなりたくない。

 とは言っても私はまだお酒を飲む気は無いけれど。


「そう言ってやるな。この時期しかルグル酒は出回らないからな。今年を労う意味もあるし多めに見てやってくれ」

「……まさかラジアス様もこうなっちゃいます?」

「さすがにここまではならない。というか、今年はハルカがいるからそこまで飲むつもりはない」

「いや、飲みたいなら飲んでもらってもいいですよ?」

「せっかくハルカと一緒にいるのに前後不覚になったらもったいないだろうが」

「……ソウデスカ」


 この人はまたサラッとこういうことを言う。

 みんながいるところでやめてほしい。

 赤くなりそうな頬を両手でむにむにと揉み誤魔化す。


「どうした?」

「……わかってるくせにそういう聞き方するの、ほんっと意地悪ですよね」


 私が口を尖らせて文句を言うと、ラジアス様はぶはっと噴き出して笑う。


「揶揄っているわけじゃなく、本当にそう思っているんだぞ?」


 私の顔を覗き込んでラジアス様がそう言うと、食堂の奥からセリアン様の大きな声が聞こえてきた。


「あー!! 副隊長とハルカがまたイチャついてる!」


 非常に面倒そうな男に見つかった。


「何だよ、見せつけか? 俺への当てつけか? そうなんだろ?」


 ルグル酒の入ったカップを片手にセリアン様が近づいてくる。

 絡み酒かい。最悪だ。


「うわ、うざぁ……」


 思わずそう呟く。

 いかん、いかん。つい本音が出てしまった。

 ラジアス様はどんどん近づいてくるセリアン様と私の間に身体を割り込ませるとすうっと息を吸った。


「止まれ、セリアン・バッカス!」


 セリアン様がピタッと止まる。


「回れ右! 進め!」


 そうラジアス様が言うと、その号令通りにセリアン様が去って行った。


「あはは、何ですかあれ」


 思わず笑ってしまう。


「身体に染みついた習慣というのはすごいよな。さあ、これ以上絡まれる前に行くか」

「はーい」


 ラジアス様に部屋まで送ってもらう。

 彼はこのまま夜の王城警備に行くらしい。


「じゃあ、行ってくる。いいか、酔ったあいつらが来ても絶対に部屋に入れるなよ?」

「はい」

「絶対だぞ。たとえ廊下でのびてようが放置でいいからな。鍵も閉め忘れるなよ」

「わかりましたって。ラジアス様って時々保護者みたいになりますよね」


 私が苦笑交じりにそういえば、ラジアス様は少しムッとしたように眉間に皺を寄せた。

 そして目が合ったかと思った瞬間にチュッと私の唇にキスをした。

 そして「保護者はこんなことしないだろ?」言って私の背中を押して部屋に押し込むと「じゃあな」と扉を閉めた。


 その後、事態を理解して私が羞恥心から顔を赤く染めたのは言うまでもない。


今回は1時間で書けたら投稿しようと決めて書きました。

何とか書けたので良かった(´▽`)

なので物足りなかったらすみません。


さてさて、今年も今日で終わりですねー。

歳をとると1年が早い、早い。

今年は『王立騎士団の花形職』を書籍化していただけたありがたい年でした。

読んでいただいている皆様にも感謝を。

本当にありがとうございます(*´▽`*)

来年もまたよろしくお願いいたします。

皆様良いお年を~!

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☆3巻電子で発売中☆

挿絵(By みてみん)



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