書籍化記念SS ラジアスとユーリの出会い
小説『王立騎士団の花形職 ~転移先で授かったのは、聖獣に愛される規格外な魔力と供給スキルでした~ 1』が、10月12日(水)に発売です。
どうぞよろしくお願いします!
「ラジアス様」
「ん? どうした?」
とある日の夜。
私はラジアス様にずっと気になっていたことを聞いた。
「ユーリって今まではあまり姿を現さなかったって聞きますけど、なんでラジアス様だけは仲良しなんですか?」
ラジアス様と陛下以外の人はそもそもユーリのことを名前で呼んだりしない。
もちろんユーリティウスベルティって名前をみんな知っているけれど、大体が「聖獣様」と呼んでいる。
接し方だって全然違う。
ユーリと気軽な口調で話しているのはラジアス様と陛下くらいなものだ。
第二部隊のみんなはラジアス様がいるから他の人たちに比べるとユーリに慣れてはいるものの、それでも口調や接し方は丁寧だ。
セリアン様や他の隊員からも「お前よくそんな軽口叩けるな。相手は聖獣様だぞ?」と言われたこともある。
だからこそなぜラジアス様だけがユーリとあんなにも気軽に接しているのかが気になっていた。
他の人に聞いても良かったが、やはりラジアス様のことは彼に直接聞きたいと思った。
「そうか。ハルカには話したことがなかったか。俺がまだ子供だった頃にユーリと出会ってな。まあそれからの縁だな」
「へ~。…………って、それだけ?」
「ん?」
「いやいやいや、その出会いについて聞きたいんですよ。何かあるでしょう?」
「そんなに聞きたいのか?」
「聞きたいです!」
食い気味にそう返した私にラジアス様は苦笑しながらも、仕方ないなという感じで話し始めた。
「あれは、そうだな。俺がまだ5歳にもなっていなかった頃だな――」
当時、ラジアス様のお父さんは王城で働いていたらしい。
「その日俺は父について王城に来ていたんだ。そしてどういうわけか父と別れて俺は一人王城裏の森に入り込んでしまった。だいぶ前のことだから細かいところまで覚えてはいないんだ。悪いな」
5歳にも満たない子供が一人で森へ。
いや~、嫌な予感がプンプンしますね。
「母の話によると、当時の俺は子供向けの冒険譚に夢中になっていたらしくてな。冒険のつもりで意気揚々と森に行ったのではないかと」
そうラジアス様は苦笑を浮かべて言う。
森で拾った木の枝をブンブンと振り回しながら森の奥へと進んで行ったらしい。
「ラジアス様にもそんな可愛らしい時代があったんですねぇ」
「……お前は俺を何だと思ってるんだ」
「落ち着いていて穏やかで、その上強くて優しい頼りになる我らが副隊長です!」
「ゴホッ!……持ち上げなくていいから」
大真面目に答えたのになぜか紅茶を飲んでいたラジアス様がむせた。
心なしか顔が赤い。
「まあ、とにかくだな。周りも見ずにそんなことをしていた俺がどうなったかは想像できるだろう?」
「迷子になった」
「その通り」
「森に入った時は太陽は真上にあって明るかったはずなのに、気づいたら日は傾き始めていた」
もちろん森の中だ。灯りなんてない。道もわからない。
自分の体力など考えずに歩き回ったラジアス様は疲れ果て、木に寄り掛かって座り込んでしまったらしい。
「最後の意地だか何だかわからないが、泣きそうになる自分を鼓舞して父や母、兄たちの名前を呼んで助けを求めてみたが誰も来なかった」
辺りはどんどん薄暗さを増し、静まり返った森が不安を煽っていく。
強がっていてもまだまだ小さな子供だ。
「このまま自分は誰にも見つけてもらえないんじゃないかと思うと、我慢していた涙を堪え切れなくなったんだろうな。不覚にも泣きながら誰か助けてくれと口にしていた」
『うわ~ん……ちちうえ~、ははうえ~! どこにいるのですか!? 助けてください!』
怖くて寂しくて、不安だったそんなラジアス様の前に現れたのがユーリだったらしい。
「本当はもっと早くに俺の存在には気付いていたらしいが、面倒だからと放っておかれたらしい」
けれど、放っておいた子供が泣き叫び始めた。
煩いし、さらに面倒になったと思ったユーリはこの時になってやっと姿を見せたということだ。
「うわ~、ユーリらしい」
「俺もそう思う。そしてユーリは言ったんだ『こんな所で泣くな、鬱陶しい。さっさと親もとへ帰れ』ってな」
「し、辛辣!」
「ははっ!どこまでもユーリらしいだろう? ただあの時の俺は初めて言葉が通じる者に出会って心からほっとしたんだ。ユーリを目の前にしても怖さなんて微塵も感じていなかった」
大きくて美しい犬。喋れる犬。かっこいい!
『うわぁ! うわぁ! かっこいい! かっこよくて綺麗な犬だ!』
今の今まで泣いていたのは何だったのかと言うくらい気分が浮上し、立ち上がるとユーリに向かって走って飛び込んで行ったらしい。
「っぶ、ふふ、ユーリ怒ったでしょうね」
「ああ。『犬だと!? 貴様、私は犬ではない、狼だ! ええい! 放せ! 何だこの小さな人間は!』と言われて振り落とされたな」
さすがユーリ。子供に対しても容赦なし。
けれどラジアス様もまだ子供。まったく遠慮というものを知らなかった。
君は誰? 君も一人なの?
僕ラジアス・ガンテルグ。ラジアスって呼んでいいよ。
ねえ、君の名前は? えー、教えてよ。教えて、教えて!
ユーリティ……も、もう一回。もう一回教えて! ……もうユーリでいいか。
本当にかっこいいなぁ。あの本に出てくる聖獣様みたいだ。
もしかして聖獣様なの? 違うかぁ、聖獣様は優しくてもっと大きい銀狼って書いてあった。
ねえ、こんな所で何をしているの? 僕と遊んでよ。
嫌? どうして? 僕たちもうお友達でしょう?
え? 違うの? どうして? 嫌だ、もうお友達って決めたんだ。
早く帰れなんて言わないでよ。え? 待ってよ、行かないで!
僕、僕……帰り方わかんない、帰れない、ぐすっぐす……ここどこ? 帰りたい、僕お屋敷に帰りたいよ……うう、ひっく、えぐ。
「ユーリが言うには一人で喋って、勝手にまた泣き始めて最悪だったと」
ユーリのその時の顔が想像できる。
絶対眉間に皺を寄せていたに違いない。
ただ面倒だと思っても実際には見捨てられないのがユーリだ。
「結局は何だかんだと文句を言いながらも俺を背に乗せて王城まで届けてくれたんだ」
ユーリの背に乗って現れたラジアス様に、ラジアス様を探していた人たちは二つの意味で驚いた。
聖獣がいなくなった子供を連れて来てくれた。
そしてその子供は聖獣の背に乗っている。なんてところにいるんだ、君は! となったらしい。
「慌てふためく大人たちの中に父もいて青い顔をしていたな。その父に俺は無邪気にもユーリと友達になったのだと告げたらしい」
「子供って無邪気で素直で欲望に忠実ですもんね……」
「……だな」
もう二度と森に入るなと言ったユーリに、ラジアス様は「うん、わかった! また来るね!」と言って帰ったらしい。
子供ってすごい。
(絶対ユーリこの時、変な顔してただろうな)
それからというものユーリを大いに気に入り森に行きたいと言うラジアス様と、それを止めるガンテルグ侯爵。
諦めきれずにお屋敷を抜け出して勝手に馬車に乗り王城に行こうとするラジアス様。
(な、何という行動力。まだ5歳いってなかったんでしょ!?)
探し回る使用人。
その話を聞いて面白がる国王陛下。
などなど色々な攻防が繰り広げられ、最終的にはラジアス様が森に入ってユーリが出てくるまで名前を叫び続けるということがしばらく続いたらしい。
そして結局ユーリが折れた。
とりあえず一回でも顔を出せば静かになるならそれでいいということになったらしい。
ラジアス様の粘り勝ちだ。執念である。
「考えたら俺はあの頃から自分が気に入ったものにたいしては執着が激しかったんだな」
「え? 何か言いました?」
「いや、何でもない。とにかくそういう時を経て今の俺とユーリの関係が出来上がったと言うわけだ」
「なるほど。よく分かりました。ありがとうございます。でも何で最初話したがらなかったんですか?」
そんなに隠すような内容でもなかったと思うのだけれど。
「俺が泣いた話や自分勝手極まりない話をしなければならないだろう」
「……そんなこと? 子供の頃の話じゃないですか」
「……好きな相手にかっこ悪いところを見せたがる男はいない」
「え? 何ですか? 小声過ぎてなんて言ったかわからなかったんですけど」
「何でもない。さあ、もうこの話は終わりだ」
そういってラジアス様は席を立つ。
報告会の終わりの合図だ。
「じゃあ、また明日な。ちゃんと鍵は掛けるんだぞ」
「またそれですか? 子供じゃないんだからそう毎回言われなくてもわかってますよ。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
それぞれの部屋の前で最後に挨拶を交わす。
私が部屋に入って鍵を掛ける音がするまでラジアス様が自分の部屋に入らないのはいつものことだ。
本当に過保護なんだからと私は思う。
それが少し嬉しくて、でも妹扱いもやっぱりすこし悲しくて、複雑な気持ちを抱えながら私は眠りについた。
「子供ではないと分かっているから心配なんだろうが」
その頃ラジアス様がそんなことを口にしているなど、この時の私は知る由もない。
本編45話くらいの時期のお話でした。
そしてこのSSが記念すべき100話目でした!
読んでいただきありがとうございます(*´▽`*)
活動報告に書籍の発売日までにSSアップしたい、と書いていたので間にあって良かったです。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しく思います!




