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王立騎士団の花形職  作者: 眼鏡ぐま
本編

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10/107

10.強くあろうとする心  ※ラジアス視点

ラジアス視点の続きです。

 ハルカを部屋に連れて行った後、ルバートとセリアンと共に鍛錬場に行くとわらわらと人が集まってきた。


「副隊長! 流民が保護されたんですよね?!」

「男ですか? もしかして女性ですか?!」

「おい、セリアンたちも見たんだろ? どんなやつだった?」

「第三なんかに預けずにうちで引き取りましょうよー」


 この短時間ですっかり流民の存在が知れ渡っているようで次から次へと質問が続く。実にうるさい。


「女性でしたよ」


 ルバートの答えにウォー! とむさ苦しい隊員たちの声が響く。

 一見華やかな肩書の王立騎士団だが実際はほとんどが独身の男たちの集まりだ。

 流民が女性だったというだけでこの盛り上がりもわからなくもない。


「名前は?」

「どんな感じの人だ?」

「いくつぐらいだった? おい、セリアン隠してないで答えろ!」


「確かに女だったけど……くっ、俺はお前たちの夢を壊すことは出来ない!」


「はあ?」

「副隊長! どういう意味ですか?」

「ルバートとセリアンばっかりずるいですよ!」

「あー、わかったわかった! 今度ちゃんとお前たちにも会わせてやるから今日は解散! 鍛錬を終えた者からさっさと宿舎に戻れ!」


 俺の声に絶対ですよと念を押してそれぞれ宿舎に戻っていった。

 まだハルカとちゃんと話も出来ていないというのにあいつらときたら浮かれおって。あいつらの明日のメニューもきつめに設定するとしよう。




 一通り仕事を終え部屋に戻る頃にはすっかり空は暗くなっていた。

 寝る準備を終えベッドに横になり、隣の部屋のハルカはしっかり休めているかと考えていると、まさにその隣の部屋から微かに声が聞こえてきた。


(声――いや、泣き声か)


 初めはくぐもったような泣き声だったが、次第に我慢できなくなったのかしっかりとした泣き声になっていった。

 ああ、考えてみれば彼女はこの世界に来てから一度も泣いていなかったのではないだろうか。帰れないと告げてからも顔色こそ悪くなったが泣きはしなかった。

 年若い女性がいきなり今までの全てと切り離され、一人こちらに流されて来てしまったのだから辛いに決まっているのに。


(ハルカは強い……違うな。強くあろうとしている、と言ったほうが正しいか――)


 当たり前だが、出会ったばかりの俺たちはまだ弱みを見せられるほど信用されてはいないのだろう。だからこそ一人になった時に現実と向き合って泣くのだろう。

 今自分に出来ることはそんな彼女が少しでも早くこちらの世界に馴染めるように手助けをすることくらいだ。


(まずは明日、話し合ってからだな)


 そう考える頃にはハルカの泣き声もすっかり聞こえなくなっていた。






 翌朝早くからのアラン隊長の呼び出しにもハルカは準備万端だった。


「よく眠れたか?」

「はい、あー、まあほどほどに。お気遣いありがとうございます」


 そう言って笑うハルカは瞼がやや赤く腫れているものの、昨日と違いずいぶんとスッキリした顔をしていた。


(昨夜あんなに泣いていたのに、もう何事も無いように、大丈夫だとでもいうように君は笑うんだな)


 そんなことを考えながら無意識にハルカの頭に向かっていた自分の右手に気が付いて慌てて引っ込めた。

 この右手はいったい何をしようとしていたのか。まさか頭を撫でようとでもしていたのだろうか。昨日セリアンを叱ったばかりだというのに自分はいったい何をしているんだ……。

 手助けしてあげたいとは考えていたが、そもそもハルカは第三部隊預かりになる予定だから今後は頻繁に会うことも無くなるだろうと思ったところでふと、このままハルカを第二部隊で預かれないかという考えが浮かぶ。

 ユーリじゃないが俺も結構ハルカのことを気に入ってしまっているようだ。

 それはアラン隊長も同じで、初めは通例に従って第三部隊にハルカを任せるつもりだったようだが、話をしていくうちに短い時間の中でハルカのことを気に入ったらしく第二部隊で預かることを決めた。

 異論はあるかと聞かれたがもちろん無い。

 むしろあのまま第三でと言われていたらうちで預かれませんかと止めてしまっていたかもしれない。


 しかし、今後どうするかを話し合う前にハルカの方から言われた言葉には驚いた。


「何か私に出来ることがあれば教えてください。雑用でもなんでもやれることがあるならやります。お願いします!」


 こう言ったハルカの瞳には、なにかこう、決意というか覚悟が感じられた。

 昨日の今日だというのにこのハルカという人物は――。

 何も知らない人から見ればとても強い女性だと思われるだろう。

 自身もきっとそう思っただろう。ただ俺は昨日の夜、ひとり泣いていたハルカを知っている。

 きっと人には知られたくないはずだから誰にも言うつもりはないが、強くあろうとする彼女に手を差し伸べ、時に弱音を吐ける場所を作ってあげたいとこのとき俺は強く思ったのだった。


やっとこさ10話までやってきましたー。

1話1話が短いって? それは……うん、私もなんとなく感じております。

でもなんとなく区切りが良いかなと思うとこのくらいになってしまうんですよね( ̄▽ ̄;)


評価や感想などいただけると幸せになります(作者がね!)

これからもお付き合いください。

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挿絵(By みてみん)



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