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自警団との出会い

小さな頃は、近くのお店が遠かったんですよね。

大人になってみると、歩いていける距離なんですけど、だからおつかいはとても特別なものでした。

グレフルの街に入る為の門、それより一回り高い見張り塔。

見張りとして働いているのは、街の安全を守る為に国に派遣された自警団の1人であるクリフだ。

彼は朝日を浴びて伸びをする。

日が昇る前に夜勤であった同僚と交代した。

昇る太陽を遮る雲は無く、徐々に空は青く染まっていく。

漂う空気は湿っていて、まだ少し肌寒くはあるが、朝日を浴びているクリフは身も心も暖かかった。


「さて、今日も頑張りますか」


グレフルは森の近くに創られた街である為、森からの襲撃者を見張る必要があり、それがクリフの仕事である。

振り返れば朝日を反射した街並みは、黄金で作られたかの様に見えてとても美しい。

最初に見張りの仕事を任せられた時、自警団をまとめるバレル隊長に見せられた景色である。

毎朝この景色を見て、気合を入れ直すのが彼の日課であった。


最近は森の中で、魔物による襲撃が増えたと聞く。

魔物の大量発生により、食料を求めて街へ襲撃される事を懸念されている。

より気を引き締めて監視をしなければならない、そうクリフは考えて佇まいを正した。


ただ、クリフがいる見張り塔は街の東にそびえ立つのだが、街を出入りする人が多いのは西側の門である。

西側の門はこの国の王都へと繋がっており、もっぱら商人や冒険者等の来訪者は其方で出入りしている。

その為、クリフは暇な時間が長い。

毎日、毎日代わり映えのしない日常に嫌気がさしていた事も事実なのだ。

平和な事は素晴らしい。

平和を守る事が自警団の誇り高き仕事。

確かにその通りであり理解もしている。

だが、日頃の訓練を生かしたいという気持ちも事実であり、魔物達が街を攻めて来ないかなと考えてしまうのも仕方ないのだ。


誰もが授業中、テロリストが攻めて来たシュチュレーションを想定する様に、まだ若いクリフは格好良く魔物を倒し、英雄と呼ばれ持て(はや)され、美女に囲まれたいと考えてしまうのは仕方がないのだ!!

突如として覚醒する魔力や身体能力にクリフは憧れるのだ!!


さて、仕事の話に戻ろう。

太陽が昇り始めて数刻、クリフは眉をひそめ森を睨んでいる。

森から何か異音がするのだ。

今まで聞いた事も無い、動物の鳴き声の様な音が、徐々に街に近づいて来ている。

警鐘を鳴らすべきかと、備え付けられた鐘を睨む。

しかし、クリフは若造である。

クリフは新米でもある。

聞き間違いで済む問題では無く、ヘタをすれば減俸だ。

責任を取りたくない一心で、彼は警鐘を叩く事は辞めた。

街の安全より、身の安全だ。

なので、責任を取ってくれるバレル隊長(スケープゴート)の判断を煽ぐ事にした。

クリフは、ほうれん草が出来る男なのだ!


「あの、隊長!」


クリフの周囲に人はおらず、もしや彼は頭がおかしいのでは?

そう心配している人達は安心して欲しい。

彼が喋りかけたのは、見張り塔に備え付けられた伝声管だ。

先端がラッパの様な形をして、銅管等を用いてで作られている、電気を使わない無線機だと考えて貰えると良い。

この伝声管は、見張り塔の下に繋がっており、門を守る人間と直接声のやり取りをする事を目的に開発された。

交互に話さなければやり取りをはできないが、それでも態々見張り塔を登り下りしなくて済むのだ、画期的な発明と言えよう。


え?

2本備え付ければ交互にやり取りをする必要が無いのではないかって?

そこに気がつくとは、君は天才であろう。

だが、街ぐるみで資金を調達しても、1つの見張り塔に2本の伝声管を配置する程の資金は集まらない事になっている。

コスト軽減の為、交互にやり取りをすれば問題無いだろうと、負担は何時でも現場で働く者が割りを食うのが世の常なのだ。

設置費用だけでなく、メンテナンスにかかる費用も2倍となり、2本の導入は大変難しいとは街を治める領主のお言葉である。


「此方、バレル。どうしたクリフ?」


バレルはクリフの上司であり、自警団を纏める隊長でもある。

その顔は熊の様にヒゲが伸びており、幼子だけでなく、部下達からも恐れられている風貌である。

最近行き着けの飲み屋は、子持ちの未亡人が営むお店だ。


伝声管から聞こえてくるのは、只さえ低く威圧的な声がくぐもり、まるで地の底から響いてくる様だとクリフは身震いしてしまう。


「いえ、森から異音が聞こえるのです。徐々に近づいている様で、指示を仰ごうと」


「そうか、音の発生源確認できるか?」


「いいえ、姿は確認できません。音だけですので」


「ふむ、魔物でなければ鐘は鳴らさなくて良い。追って指示を出す、伝声管に注意しておけ」


「了解しました!」


大柄なバレルにとっては狭い室内で、伝声管から顔を離し、顎髭を撫りながら考える。

クリフの言っている異音と言うものは未だ聞こえておらず、耳鳴りや何かを勘違いしている可能性もある。

しかし、バレルは彼の目や耳の良さを評価して、自分の部隊に引き入れたのだ。

ならば部下の事を信じ、隊長である自分が責任を取るべきであろう。

何事も無かったならそれで良いのだから。


多くの人々は西側の門を通るが、誰も東側の門を使わないと言うわけでは無い。

王都ではなく、グレフルに暮らす冒険者にとっての食い扶持は、東側に隣接する森の魔物や薬草なのだ。

ただ、森の浅瀬にはそれ程強い魔物や高価な薬草は有らず、かと言って奥に行っても危険に対して得るモノは少ない。

更に、森を超えた先の国は、人族(ヒューマン)至高主義の差別国家、ロレンス聖国があるので、ほとんどの者は森を抜ける事は無いのだ。

そして、多くの冒険者達は初心者を抜け出すと、王都へと旅立つので、グレフルには基本的に強い冒険者が滞在する事は少ない。


バレルが部屋を出て門へ向かうと、門番に話をしているハンケルに声を掛けられた。

その首には、いる初級冒険者の証である鉄のタグを首から提げている。

ハンケルは2年前にこの街に来て冒険者となり、東の門の兵士達とは顔見知りの中でバレルとも親しい。

彼は前衛の剣士であり、仲間には魔術を使う青年と、斥候をこなす軽戦士の青年、むさ苦しいと思う事なかれ。

パーティー内の恋愛は、友情を壊してしまうのだから。


「あれ?バレルの旦那じゃないですか。どうしたんですか?」


「ハンケルか......実は、私の部下が森から異音を聞いたらしくてな」


「異音?まさか、魔物ですか!?」


「それを確かめようと思っているのだ」


「バレルさん、俺達も手伝いましょうか?魔物の相手は、俺達冒険者の仕事です」


「協力感謝する」


バレルは門の部下達に警戒を強める様指示を出し、ハンケル達を引き連れ森へ向かおうと門を出た。

クリフが見張り塔の上でソレ(・・)を見つけたのは、その時であった。


まるで青空を切り取ったかのような外装、美しい魔導車は森を抜けて街へと続く平原の道を走る。

中に乗るのはアンデットのスケルトン種であるトレバーと、後部座席でウサギのぬいぐるみを膝に乗せたルーシーの2人である。


魔導車には、絶滅したカセットテープの挿入口があった。

また、カセットテープ自体は魔導車のダッシュボードでトレバーが発見し、早速挿入している。

現在2人は、カセットテープが使われた時代に流行った曲を再生して、ノリノリで身体を揺らしていた。


「ルーシー!俺はアイドルを目指すぜ!!昭和の様に、歌声力のあるアイドルをなっ!!」


「センパイ、アイドルは恋愛できませんよ〜」


「やっぱり辞めるわっ!俺は綺麗なお姉さんといちゃいちゃしたいっ!!」


「ほらほら、見えて来ましたよ街がー」


「分かってるなルーシー?」


「|見敵必殺《サーチ&デストロイ》ですね」


「違います」


爽快なエンジン音を立てながら街に近づく魔導車、門の近くでバレル達に気がつき、2人は下車した。

見上げる街壁は朝日に輝いている。


「センパイ、魔導車は仕舞いますよ?」


「ああ、目立つからな」


目の前の慌ただしさから既に手遅れな気もするが、2人はうっかりさんなので気がつかないのだ。

2度めの人間との触れ合いに、緊張感でガチガチに固まるトレバー、これは1人で初めて訪れた飲食店に入る時の様である。

トレバーは1人でウロウロして結局諦め、毎回ルーシーを呼んでいた恥ずかしがり屋なのだ。


「る、ルーシー、手を繋いでも良いですか?」


「え?キモいから嫌です」


「そんなー!」


お尻を蹴飛ばされ歩き出すトレバー、門は既に開いており歓迎はされてそうだ。

徐々に周辺で警備していた自警団が入り口に集まっているのも、きっと歓迎してくれてるのだ!!

トレバーがバレル達の前に立つと、バレルは驚きの硬直からようやく解放された。


「ふむ、私はトレバーというものだ。彼女はルーシー、私達は旅をしていてね。近隣の村で、この街の事を聞いて訪れさせてもらった」


トレバーの言葉に周囲は戸惑う、彼の容姿に対してでは無い。

そもそも、閉鎖的なロレンス聖国圏内の村とは違い、グレフルは王都から人々が行き交う街である。

トレバーの様に、一見すると魔物と間違えられる種族も多々おり、知性のある彼等を人々は魔族と呼び親しんでいた。

魔族は他種族に比べて数は少ないものの、各国では十分受け入れられているのだ。

ただ、多種多様な種族が溢れる場所とは違い、閉鎖的な村々や、人族至高思想といった偏った人々は除いてだが。


「君は、魔族か。失礼した、部下が君の乗り物から響く音を聞きつけてね、森で何かあったのかと警戒していた所なのだ」


「ああ、それは悪い事をした」


「ふむ、本当は色々訪ねたいのだが......旅人には無粋な話だ。ようこそグレフルへ、簡単な入街審査をさせて貰う、付いてきてくれ。お前達っ!元の持ち場へ戻れっ!!」


自警団を散らしたバレルがトレバー達を案内したのは、門の脇にある建物の一室であった。

取り調べ室の様な物々しさが感じられるが、怪しい人物を発見した際に案内されるのだろうとトレバーは納得する。

そして、骨だけの自分の怪しさを自覚し驚愕してしまった。


「意外、だな」


「何がだ?」


「いやな、此処に来る前に訪れた村で、住民達は私を討伐して金目の物を奪おうとしていてね。失礼だが、この辺りの人間はそういうものだと思っていたのさ」


肩を竦めてトレバーが答えると、バレルの顔が曇る。

怒らせてしまったかと内心冷や汗もののトレバーは恐怖のあまり口元を手で覆い、バレルの事をビクビクしながら見るが、彼は違う事に怒っているようだった。


「何処の村ですか?旅人を襲う、そんな盗賊共を野放しにはできない」


「おや?君は私を人扱いしてくれるのかな?」


「勿論です。私は魔族の方を魔物扱いする様な、失礼さは持ち合わせておりません!」


それでも、心無いの人族は同一視していますがと続いたが、トレバーは驚きのあまりに固まってしまった。

よく分からないが、魔族という認識をされれば、討伐対象にならないのでは?

そう、希望が見えたのだ。


「それより、村の場所を詳しく教えて頂けますか?」


「ああ、あの森を抜けてしばらく道沿いに走った所だ」


トレバーの言葉に、バレルは驚き目を開いた。

そして、少し置いてゆっくりと息を吐いた。


「よくぞ、よくぞ無事にこの街に来られましたね。いえ、確かに森を抜けた先は彼の国しか無い……」


「ん?ここは別の国なのか?」


「ええ、森を境目に人族(ヒューマン)至高主義の差別国家であるロレンス聖国となっているのです。彼の国は、人族以外を家畜と見下し奴隷に落とし、魔族を悪とし問答無用で剣を向ける困った国ですよ」


彼等の敬う神の教えらしいですけど、とバレルはため息と共に搾り出す。

トレバーは、自分の人生がルナティックなのは森の向こうの国という希望に、胸の重しが取れた。

骨の重量しか無いが、きっと骨密度が高いのだろう。


「おじさん、質問よろしいですか?」


こてんと可愛らしく小首を傾げながら言うルーシーに、バレルは優しく笑ってうなづく。

子供に向けた笑顔だが、凶悪な山賊が獰猛に笑っている様にしか見えない。

因みに、ルーシーの可愛らしい仕草は計算尽くのものだ、騙されてはいけないぞ!


「魔物と魔族の違いは、どう判断されるですか?」


「おや?知らないのかい?」


「ああ、私達は遠い所から旅をしてきてね。ここらの事は知らないのさ」


トレバーが肩を竦めると、バレルは納得した様な表情で頷いた。


「基本的には知性が確認されたら、魔族という割と大雑把なものだ。凶暴であったりすればその類では無いが......」


どうやら、コミュニケーションを取ることが出来ない場合等、知性を計れなければ魔物になってしまうのか。

俺は喋れる種族でよかったぜ。

骨のトレバーは、そう安堵して見えない冷や汗を拭った。


「では、魔族は討伐対象に含まれ無い?」


「普通はそうだ」


取り調べ室の様な部屋の机には水晶玉が置かれており、如何にもこの水晶玉で何かしますよと言う雰囲気が醸し出されている。


トレバー達はWider worldの記憶を探るが、目の前に置いてある水晶玉の知識は出てこない。

せいぜいルームアイテムとして、部屋に飾る程度だ。

2人は、この世界が既にWider worldとは違うと考えており、この世界独自の技術が作られている事を警戒していた。


「先ずは自己紹介から行こう、私の名前はバレル。このグレフル東門を守る自警団の隊長を務めている」


「私の名前はトレバー、此方のルーシーと旅をしている。冒険者ギルドに登録すれば身分証明書を得れると聞いてね、寄らせて貰ったのだ」


ルーシーは特に何も言わず、足をブラブラと揺らしており、とても退屈そうであった。

子供好きなのか、彼女をチラチラと見たバレルは、近くで女性の部下を呼び止め面倒を見る様に指示をだしていた。

人形の様に愛らしい外見のルーシーは、女性の自警団達が群がり、お菓子を与えたりと可愛がられ始める。

女性に囲まれたルーシーに嫉妬の視線を投げるトレバー、とても羨ましくカタカタと歯軋りが響く。


「では簡単な質問をする、水晶に手を置いてくれ」


「これは、危険が無いのか?」


「む?トレバー殿は真偽の水晶をご存知では無いのか?」


「無知ですまないが、生憎随分と遠くからやって来たのでね」


バレルは自らが手を置くと、危険がない事を説明する。


「これは真偽の水晶と言ってな、手を置いた者の魔力の揺らぎを感知し、真実なら青く、虚偽ならば赤く発光する」


「私達の安全を保障するか?」


「勿論だとも」


水晶は青く発光する。

その光に満足そうにトレバーは頷き、審議に答えると了承した。

勿論、前提が間違っている可能性もあるが。


「では、質問に答えてくれ」


「うむ、何だ?」


「トレバー殿、この街の市民を害する気はあるか?」


「自分からそんな事はしない」


トレバーの手元で水晶が青く光る。

バレルは満足げに頷き、ニッコリと手を差し出す。

自衛の為にはするけどな。

そうトレバーは心の中で呟いた。


「ようこそグレフルへ。この街の一員として君達を歓迎するよ」


笑顔で握手を求められ返すトレバー。

何事も無く街へ入る事ができたトレバー、この後2人は冒険者ギルドを目指す。


どうせ握手するなら、美女とがよかった。

羨ましげにトレバーが投げかけた視線の先では、相変わらずルーシーが女性自警団に囲まれてお菓子をもらっていた。

用水路やあぜ道って、何処に繋がっているのか。

小さい頃は行けた道を、大人になって通ると通報されてしまうんです。

せちがいのだー!

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