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素人の強者

ドワーフって、おじさんのイメージが強いですよね。

つまり、おじ様好きには堪らない存在なのです。

ルーシーと別れたトレバーは、1人寂しく街を歩いていた。

読者の皆様は1人で見知らぬお店に入る事が出来るだろうか?

常連ばかりが座する店、余所者の自分は入っても良いのかと1人で悩み、ついつい入店を諦めてしまう時は無いだろうか?

ひっそりと佇む個人店は、何とも言えない魅力がある。

秘密基地を見つけた子供の様な、特別な雰囲気をまとっている。

だが、大人になると最初の一歩が随分と重いものとなってしまう。

見た事も無い木の実は、手を伸ばしても届かない子供の目線でこそ美しく、必死に手に入れようとするのだ。


等と、様々な言い訳を述べたが、結局の所にコミニュケーション能力が低いだけである。


先程から様々なお店の前を通り、魅力に足を止めたトレバーであったが、結局店に入る事は出来なかった。

そんなトレバーが向かうのは、冒険者ギルドの受け付けであるフィーネから教わった、数少ない武器屋の1つである。

ベテラン冒険者となると街から出て行くので、この街で武器を買うのは新米ばかりであり、利益があまり得る事が出来ない。

それでもこんな街で店を構えるのは、最初に命を預ける武器に使ってもらう事に誇りを持っているのだろう。

命のやり取りの最中、武器が壊れて仕舞えば死ぬ。

そんな生死を分ける相棒である筈が、新米達は最初は武器にかける金が無く、ついつい安い鈍らを買ってしまう。

彼等に、安く良い剣を売っている変わり者のドワーフらしい。


トレバーが辿り着いた店は、入り口に盾と剣の看板が掲げられている。

何故武器屋と言えば剣と盾なのだろうかと考えたトレバーであったが、手斧や槍等実用的な武器は有るが、間合いや立ち回りの基本となる剣はやはり理に適っている。

いや、そもそも剣ってカッコイイからなと、あれこれ考えた結果、シンプルに好みでは無いかという答えに辿り着いた。


剣はカッコイイ、これはどの世界でもきっと共通で有るはずだ。

物語の主人公、あらゆる勇者も剣を握る。

手斧を持つ勇者、と言うものはあまりに目にした事が有るまい。

読者の皆様の中には、きっと思い思いに好きな武器が有るだろう、前記した手斧を持つ勇者の物語等を執筆すれば、あらゆる世界での武器屋や冒険者ギルドの看板を変える事が出来るかもしれない。


トレバーは扉を潜る。

並べられた商品を眺め、近くの片手用の剣の鞘を抜いた。

確かにこの武器達は新米達にはピッタリだと言えよう。

鍛えられた刃は、斬る事よりも折れない事に重きを置いた武器である。

例えどれ程斬れ味を上げようと、新米達は一撃で敵を倒す事は出来ない。

磨いた斬れ味は血糊で直ぐに落ちてしまうだろうし、一撃で倒さなければ反撃を貰う事になり、時に剣で防ぐ事も必要となる。

如何に長く戦えるか、それが生還に直結するのが最初に持つ武器に置いて要となる性能だ。


「素晴らしい剣だな」


「わかるのか?」


答えが返って来るとは思っていなかったトレバーが、驚きと共に振り向いた先に、声の主である小男がカウンターの向こうから此方を見ていた。

眉がない骨の驚きは悟られなかったであろう、同時に小男もトレバーの風貌に一瞬驚いていた。

髭は長く、低身長で有るには関わらずずんぐりとしてはいるが、その膨らみは脂肪では無く筋肉で有る事をトレバーは気が付いた。


「すまない、思わず見惚れてな」


「いいさ、自分の子を褒められて怒る親はいねーからな」


トレバーの外見に一瞬戸惑った小男だったが、自分の武器を褒められた事もあり直ぐに魔族である彼を受け入れた。

やはり、この街では種族差別は少ないのだろうと、トレバーは最初にこの街に来れた事に安堵していた。

最も、この街に来る前に訪れた村人達の態度を忘れた訳では無いのだが。

やはり、一線を引いておくべきだろうか?

そうトレバーが悩んでいると、小男はカウンターから出て此方に歩み寄って来る。


トレバーの身長は190センチであり、モデル体型の八頭身である。

勿論骨であり、モデルの仕事は学校の骨格標本か、ゴシックやホラーな雰囲気の小物役であろうが。

さて、読者の皆様もときめく八頭身190センチのトレバーから見て、小男は150程だ。

これが女の子であれば守ってあげたくなる身長だろうが、目の前の現実は髭の生えたおっさんである。

因みに、ルーシーの身長は139センチだ。

年齢的には10才前後の体格である。


「お前さん、何を買いに来たんだ?」


「ああ、冒険者ギルドでこの店を紹介されてな。探しに来たと言うのは正しく無いな、俺は武器を見るのが好きなだけで・・・冷やかしだな」


トレバーが肩を竦めると、小男は何が楽しいのニヤリと笑った。


「お前さん、かなりの腕を持っているな」


「解るのか?」


今度はトレバーが尋ねる番であった。


「勿論だ。この街は冒険者にとって始まりだぜ、多くの人間を相手して来たのさ。だから、お前さんは強いって事は解る・・・が、素人みてえな雰囲気も纏っているから奇妙なのさ」


「ほう」


「例えば、立ち方一つ取ってもベテランの冒険者達は隙が無い。だが、お前さんは隙だらけ、それでも勝てない、圧倒的な強者の風格を持っている。ちぐはぐなのさ、色々とな」


トレバーは非常に驚いた。

実際に自分はWider worldの世界では強者であるが、この世界に来てからは自分の意思で命を奪った事は無い(魔導車の事故はルーシーナビの所為である)。

自分の手で、剣を握って、自分の意思で、敵を斬る。

平和ボケした日本出身の自分は、した事が無い。

VRゲームとは言え、やはり現実とは違うのだ。


ジワリと、握った手に汗がにじむ様に錯覚する。

トレバーは発汗する事は無くなった、それでも人間だった時の感覚が残っている。


「そうだ、俺は、確かに誰にも負けないと自負する程度には強いが・・・」


ガチリ、とトレバーの歯が鳴る。

まだ、ゲームの様に思っていた、甘い考えの自分を叱責する様に、心に刻む。

真っ黒な空洞ではあるが、それでも小男に目を合わせて答える。


素人(ビギナー)だ」


小男はニヤリと笑った。

どうやら。お眼鏡に適った答えの様である。

ゲーム時代に使った武器は、暫くは封印する事を決意する。

武器や鍛え上げたレベルによる物では無く、実戦の技術を会得しなければ生き残れないと判断したのだ。

当分はこの店の商品を使うか、そうトレバーは心に決めた。


「なら、儂の客じゃねーか」


「そうだな、俺はトレバーという者だ」


「挨拶がまだだったか、俺の名前フォルジュロン、街の奴らはジュロって呼んでいる」


ジュロか、中々覚え易そうだな。

コミニケーション能力が低いトレバーは、変な所に安堵した。


「失礼な質問になるが、ジュロ殿はドワーフなのか?」


「ジュロで良い、ドワーフなのは確かだが、何でだ?」


「いや、ドワーフなのか自信が無くてな・・・というか、いいや、ジュロには素で話すぞ?」


トレバーは肩の力を抜いた、自分が命を預ける武器を買うのだ。

腹を割るべきだろうと考えたのだ、第一印象から信頼できると判断したという事も有るが。


「なんでぇ、大物ぶった態度の割に取っつきやすい奴じゃねーかよ」


「まぁな、というか剣も盾も鎧も自前の物はあるんだが、此方の事情があって知識や技術を持っていても、実戦経験が足りない状況だ。だから、取り敢えずはここの武器で実戦経験を積みたいんだが」


「ふーむ、新米騎士の様な事を言いおるな。取り敢えず、この辺の棚に置いてあるのは恐らくお前さんには向いてない」


「素人の俺には良いんじゃないのか?」


首を傾げたトレバーをジュロは半目で睨む。

内心ドキドキとしていたトレバー、この店に来てから小心者の心臓には多大な負荷が掛かっているのだ。

助骨に守られる心臓は無いが。

無造作にジュロは売り物の片手剣を掴み、トレバーを店の奥に案内する。


店の奥には整えられた土のスペースがあり、中心には藁を木に括り付けた人形擬きが置いてあり、恐らく試し切りが出来るのだろう。

ジュロは持って来た片手剣をトレバーに投げる。


「試し切りは、銀貨1枚だ。武器を買ったら無料になるけどな」


「確かに、初めて自分の武器を手に持つと、ついつい試し切りしたくなるよなー」


「取り敢えず、切ってみろ」


「あー、分かった」


トレバーは装飾の無い、無骨な片手剣をスラリと引き抜く。

両刃のそれはキラリと光を反射するが、自分の顔を写す程は磨かれてはいない。

刃はあるが、剣の厚みで殴る目的のソレは、斬ると言うより叩き付けるという目的が近いだろう。


実物の剣は、重かった。


鞘を左手に持ち、素振りをする。

空を斬る音が響く。

トレバーは、Wider worldで聖騎士NPCの1人に弟子入りしており、型や技、戦い方の思想を叩き込まれた。

Wider worldの中では、武器や道具を扱うスキルの中には、解放条件を達成する事で会得可能となるスキルがある。

このプレイヤーの技術によって解放されるスキルを、Wider worldのプレイヤー達は上位スキルと呼ぶ。

トレバーが会得した上位スキルの解放条件等は、関連スキルを極めたNPCに弟子入りする事から始まる。

その後は剣術等の武器系統で有れば素振り、型の習得、実戦経験の中でNPCに認められる事で、ようやく会得可能となる。

会得可能となると言っても、レベルアップによるスキルポイントが必要となり、せちがいと多くのプレイヤーは嘆いていた。


面倒では有るが強力なスキルが多い為、世界ランキングに在する者たちは、必ずと言って良い程弟子入りしている。

弟子入りし、実際に戦い方を指導される事で、身体の動かし方も学び、NPCの指導の下でプレイヤースキルも磨く事ができるのだ。

Wider worldの世界ランキングは、一対一による対人によって決められる。

たとえ現実で武道を習っていたプレイヤーだとしても、ゲームの中で勝利を掴むには、ゲームの中で反復する鍛錬しかないのだ。


都合よくユニークスキルや、イベントによるバランス崩壊武器や防具、ソロ討伐によって更に強くなる等といった事は無く、勝つ為の努力をした者達に世界ランキングの結果は答える。

例え超人だとしても、Wider worldのタイトル通りこの広い世界には超人等ザラであり、狭い世界での天才は努力をした凡才に負ける。


だから、トレバーは努力をした。

自分が唯の凡才の一般人で有る事を理解していたから。

ゲームの中とは言え、人一倍剣を振ったトレバーの型は、実戦経験皆無の素人にして強者の剣。

トレバーが会得した上位スキルの名は“聖剣術”。

敵を倒す事よりも、護りに向いた技が実に9割を占めている。

そして、このスキルの会得条件は、関連NPCを己の剣術のみで打倒する事である。


素振りに満足したトレバーは、試し切り用の人形擬きを、右上から斜めに剣を叩き付ける。

圧倒的な速度と腕力で放たれた一撃は、バスッとバキッを混ぜたような破壊音と共に深々と喰い込む。

藁に覆われた太い丸太の実に半分程まで入った所で、その剣は役目を果たし留まろうとする。

だが、圧倒的な髄力によって放たれた一撃はその程度で止まる筈も無く、丸太に刃を残したままに、柄と僅かな刀身と共に振り切られる。

初心者用の片手剣は、パキンッと甲高い音を立てた。


そう、折れたのだ。


剣が斧より伐採に向いているならば、木こり達は皆剣を持つだろう。


「えっ?」


間抜けな声で呆けた様に口を開いたまま、トレバーは己の手元の剣に目を向ける。

見事に真っ二つに折れていた。

先の刀身は、人形擬きの藁に包まれた丸太の中に残されているだろう。

チラリとジュロを見てみれば、怒っているのでは無く、完全に飽きれていた。


試し切り用の人形擬き、普通と括られる人種は表面の皮である藁のみを斬るだろう。

そもそも、藁に包まれた丸太に刃をめり込ませる程の髄力がある者は、普通は厚く重く作られた大剣を使うのだから、折れる事は無い。

というか、折れる程丸太に刃をめり込ませる事は不可能なのだ。

耐久に重きを置いているとは言え、大木の丸太に深々と刃を入れたままに振り切られるとは、片手剣自身も思っていなかっただろう。


トレバー(・・・・)よぉ、武器には耐久ってもんが有るんだよ」


「す、スマン・・・」


トレバーは俯いて謝る、目の前の男が丹精込めて育て打った剣を、実戦経験させる前に叩き折ったのだ。

怒鳴られても仕方あるまい。


「良い剣士って奴はな、持った瞬間にこの剣の耐久ならどれ程の力で戦えるのか分かるそうだ。剣が折れたら剣士は死ぬ、だから戦い続ける為に剣を生かす。全ての振りに全力をかける剣士はいねぇだろ?」


「確かにそうだな、剣の耐久力を考えて扱うべきだった」


「だけどよぉ、剣の事ばかり大事にして自分の命を粗末に扱うモンでもねぇ。だからこそ、自分の実力に見合った剣を持たないと生き残れないのさ。一流の剣士だからって、鈍で大木は切れないってこった」


鼻を鳴らしたジュロを見て、トレバーは自分の手元に目を戻す。

折れたとは言え、刃は僅かに残っている。


「いや、斬れるさ・・・“|強斬撃≪スラッシュ≫”!」


トレバーはもう一度先程と同じ様に構える、右上から斜めに剣を叩き付ける。

先程との違いは、剣術2段位で覚える技を放った事である。

苦労して覚えた“聖剣術”では無く、最初から覚える事が可能な“剣術”。

今回“剣術”を選択したのは、武器で斬るという結果を見せたかったからだ。

“聖剣術”の謎の発光エフェクトが、ゲームと同じ様に発動したら無駄に派手になる上、剣で切ったと言えないのではと考えた為だ。


刃を僅かに残す折れた剣は、見事藁に包まれた丸太ごと斜めに引き裂いた。

とは言え、折れた分刃渡りは短くなり、引き裂かれた後も随分と浅いのだが。


攻撃スキルの中で、今回の様に魔法では無い一部の攻撃スキルは魔力では無く|体力≪HP≫を消費する。

スタミナの消費を再現しているのだ。

敵の|注意≪ヘイト≫を受ける盾役は、HPを消費してスキルを発動する為、リキャスト時間や敵の攻撃によってかなりHP管理が大変になる。

最も、VRゲームの技術が進むに連れて、受ける盾役は減り、プレイヤースキルでの避ける盾役等の様々なプレイスタイルが生まれているのだが。


「やっぱり使えるか」


呆けた口のまま此方を見るジュロを意識から外し、自分がスキルによる攻撃技が使える事に感動と、驚きを覚えるトレバー。

強さはゲーム時代のまま、これから旅をする上でのアドバンテージになる筈であり、後輩をしっかり護る事が出来るはずだと、ルーシーの顔を思い浮かべる。

後輩のケツを持つ、今の幼女姿相手に使うと通報されそうな表現である。


「トレバー!お前さん|技≪アーツ≫が使えるのか!?」


「え?何で急に横文?いや、翻訳か?」


急に出たカッコ良い横文の表現、トレバーは期待に胸を高める。

何故なら横文だから、どんな小説や設定も取り敢えず横文にしようと誰もが思うだろう、読者の皆様の中にも横文に憧れる人もいるだろう。

もしかしたら、自分の名前を横文にしたり、それをゲームのキャラクターの名前にした人もいる事でしょう。

それ程に横文はロマンなのだ。


「ジュロ、|技≪アーツ≫ってなんだ?」


「今お前さんが使ったじゃねーか、一流の冒険者が修行の末に編み出す必殺だ。かなりの体力を使うらしくて乱発できないみたいだが、それに見合った威力がうるとは聞いちゃいたが・・・」


ジュロは再び人形擬きに目を戻す、人形擬きは折れた剣で斬られている。

少なくとも、ジュロの常識ではあり得ない。


「斬れ味を上げる能力って所か?」


そう尋ねられたトレバーは焦る。

知らねーよと、何故ならWide Worldでの|強斬撃≪スラッシュ≫は、ただ威力を底上げするというだけだ。

前記した様に、剣術2段位で使用可能な為、正直ショボい技である。


ルーシーが使った底段位の魔法とは異なり、物理攻撃のスキルは基本的に高段位になる程有能になる。

単純に言えば、早く、威力も高く、追加効果も加わる物もある。

勿論高段位の技は、効果に見合った消費HPとなる。

聡明な読者の皆様の中には、素早さに特化して、低い消費HPの底段位の技を連発すれば強いのでは無いかと考えるだろうし、実際にそう言ったスタイルにスキルを構成する者もいる。

ただし、スキルにはリキャストタイムがあるので連発には様々なスキルを底段位とる必要もあるので、あまり実戦向きでは無いロマン構成となる。


因みにゲーム時代では、技の発動を途中で止める事は出来なかった。

やはり使える技を、後で検証しなければとトレバーは脳内メモに書き加えた。

脳もない髑髏だが。


「斬れ味を上げるのが正しいかは分からないな、もしかしたら耐久度や速度を上げるのかも知れないぞ?」


「お前さんなぁ、普通は自分の|技≪アーツ≫の特性って奴は、ある程度理解しているもんだぜ?何たって、修行の末に手に入れるんだ、修行の目的に沿った特性になるもんだろぉ?」


「ふーん、悪いが俺はこの|技≪アーツ≫ってやつは・・・」


トレバーはスキルポイントを振って手に入れたので、説明に詰まる。

歯を数度カチカチと鳴らすと、ジュロもトレバーの言いにくさを察する。


「あぁ、無理に言わなくて良いぞ?なんたって、冒険者に色々聞くのはご法度だからなぁ」


「お前が言わないといけない様な事を・・・こういった時は答えなくて良いのが冒険者で合ってるのか?」


「勿論だ、冒険者が他人に能力を明かすのは身の危険だからな。やはりトレバー、お前さん常識がちと欠けてるな」


「自覚あるよ、俺は最近この辺りに来たから色々常識知らずなのさ」


ジュロは腕を組みトレバーを見やる。

眼を向けられた本人は、強面の髭面にビビっている。


「そこまで信用されるのは嬉しいが、人をしっかり見極めろよ。儂もそうだが、この国では亜人や魔族の差別は低いとは言え、どの国でも食い物にする奴らがいる」


「知ってるさ」


トレバーはこの世界に来てから、自分の顔による様々な反応を見て来た。

怯える者、敵意を抱く者、悪感情を意識すればきりが無い。

後輩がついて来なければ、きっとこの街に着く頃には気が触れてしまっていたかもしれない。

それでも、営業マンとして培った経験は、人々の腹の中を見る事が出来てしまう。

笑顔の裏にある感情を、化け物を見る眼を。


「俺は、食い物にされる程弱く無い、敵は斬り捨てる」


しっかりとジュロの眼を見返す。

決意と共に残りの金貨4枚を彼に放る、金貨1枚は泊まる様にしっかりと残してある程度には、小さな後輩が怖く締まらないのだが。


「剣と盾をくれ、丈夫な奴を頼む」


「ふむ、良いだろう」


踵を返すジュロに、トレバーは慌てて付け加える。


「ま、待ってくれ!剣は片手剣で、盾は片手で持てる程度の小さめの物が良い!」


「わかっとる、わかっとる」


足を止めず店内に戻るジュロ、不安そうに見つめるトレバー。

折れた剣を片手に手持ち無沙汰に待っていると、暫くして戻ってくる。

その手には、装飾が無いシンプルな丸盾と片手剣が握られていた。

刀身は少し紫がかかった様であるが、光を反射しなければ解らない程度である。


「良いな、シンプルでカッコ良い」


「まぁな、此れは試作段階で辞めた武器だ」


「何それ不安」


「刀身に僅かに紫色が混ざっとるのが解るか?」


「まぁ、わかる。毒でも混ぜたのか?」


「馬鹿言え、此れはオリハルコンを混ぜた武器だ!」


オリハルコン、トレバーのイメージでは何か凄い硬いと言う抽象的な物である。

ミスリルより上なイメージだが、ファンタジー金属的な評判はミスリルより下でもある。

ただ、冒険者ランク的には確かオリハルコンの方が上だったとトレバーは考え、取り敢えずジュロに合わせる事にした。


「オリハルコンだって!?凄いな!珍しい物なんじゃ無いのか?」


「ああ、とは言え混ぜたのはごく僅かだ。この店は飽くまで新米冒険者が客だからな、屑石と評価されるオリハルコンの原石を集め、僅かに取れた物と混ぜれば安く売れるんじゃないかと考えたわけだ」


「・・・試作品ってことは?」


「屑石から取る手間と割に合わん!!」


だから屑石って評価なんじゃないか、そうトレバーは考えたが口には出さない。

ジュロなりに新米冒険者に良い武器を与えたかっただろうし、巡って自分の手元に来るなら良い結果と言えるだろう。


試作武器を受け取ったトレバーは、盾と剣を構える。

耐久を意識してみるが、イマイチ丈夫さは解らなかった。

後で剣の詳細を見ようと心に止める。

ただ、ジュロの表情は自信タップリであり、彼を信じる事にした。


先程の剣が埋まっている人形擬きの肩より少し上、首元を狙う。

首と言っても、太い丸太は同じである。

先程と、同じ様に恐ろしい髄力のままに右上から剣を降ろす。

首元を狙った刃は、鋭い風を斬る音と共にメキリと木がひしゃげ、そして勢いそのままに甲高い音と共に両断した。

刃が通り過ぎ反対の覆われた藁を引き裂いた所で、漸く気が付いたかの様に人形擬きの頭が宙を舞う。


一応自信作とは言え、折れない事を神に祈っていたジュロは拳を握ってガッツポーズをする。


だがトレバーは止まらない、手応えを忘れぬ内に剣を掲げ上段に構え直す。


「“|強斬撃≪スラッシュ≫”ッ!」


技名と共に息を吐き、腹に力を込め一本踏み出す。

轟音と共に、丸太は縦にわれた。

振り下ろした勢いにより、片手剣の先端は地面に陥没している。

だが、折れていない。


トレバーは地面から引き抜くと、剣を振り砂を払って鞘に戻す。


「良い剣だ」


やり過ぎたと内心慌てているトレバーだが、良い男は焦りを顔に出さない。

不敵に微笑み、ジュロが正気に戻る前に逃走する事にした。


「また来る」


足早に店を後にする、トレバーの背中をジュロは見つめる。

何故それ程の腕を持って、何故自分の店の様な初心者向けの商品を買うのか?

色々尋ねたかったが、その時はただ誇らしかった。

自分の武器が、強者に認められた事が。

まぁ、ドワーフはおじ様では無くおっさんなんですけどね

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