両替できるかな【2】
独り暮らしは忙しいですね。
今回は両替のお話となりますが、この話は無知故至らぬ取り引きとなってしまうでしょう。
ですが、私を余り責めないでください。
それと、今回の話は変更される事もあるでしょう。
余り私を責めないでください。
心は障子だ。
トレバー達は窮地の危機をやり過ごし、いざ決戦の地へと辿り着いていた。
急な展開ではあるが、聡明なる読者の皆様は理解しているだろう。
しかし、それでも現在の状況について記載させて頂く。
商売ギルドの行列を乗り越え、いざ商売ギルドの門を潜ったトレバー達。
多くの商人達は長々と商談する為に、整理券を貰い活気が出てきた街並みに消えて行く。
そんな商人達を尻目に、両替は簡単にカウンターで出来ると説明されたトレバー達は、案内通りにカウンターの従業員に声を掛けた。
これは直ぐに終わると、おっさんに大見得切った事が恥ずかしくなってきたトレバーだったが、両替の金額を伝えると途端に奥に通された。
何やら最初のカウンターの上司らしき、年配の女性が出てきて金額の有無を確認し、イベントリからWider worldの金貨を取り出し始めると、大層慌てだした。
その後、申し訳ないが待っていて欲しいと言われて現在に至る。
応接間らしき部屋に通されて、十数分は経過しただろうか。
フカフカの革製のソファから、綿なのかウールなのかトレバーは悩み、ルーシーは木細工のテーブルに乗っている茶菓子に夢中になっている。
ビニール等が一般的では無いこの世界では、クッキー等並んでおり、財力の現れなのか砂糖がたっぷりと使われている味であった。
ルーシーがグレフルの入り口で兵士達から貰ったお菓子は、木の実やジャム等の砂糖を使わない素朴な味の物が多く、この世界でも砂糖は価値の高いものだと思われた。
木製の割には、艶出しが塗られて黒光りする扉がノックされ、トレバーは姿勢を正した。
取り引きとは、お互いに騙し合う駆け引きの戦いでり、第一印象から既に戦いは始まっている。
無様に見下されては話すら出来ない。
「待たせてすまないね〜」
扉から入ってきたのは、恰幅の良い男であった。
太り過ぎとは言えないが、程々に贅肉がついているポッチャリ系だ。
時代によるが、贅肉は裕福さを相手に分かりやすくに見せる武器の1つでもある。
見窄らしい格好の人間が、服や装飾品の取引を持ちかけても説得力が無くなる。
太るという行為は、日本の力士の様に商人達にとっては戦う武器となるのだ。
だが、随分と客人を待たせた割に、態度が媚びていない。
此方を舐めているのか、もしくはこういう男なのか。
真っ白な顎の骨を撫で、トレバーは対応を考える。
1度下手に出て仕舞えば、力関係を変えるのは難しくなる。
「ふん、随分と待たせた割には余裕な態度だな。地位と共に客人への礼儀を置いてきたと見える、それ程媚び諂う者達を相手にしたのかね?」
此方が上に立つべきだと判断したトレバーは、取り敢えず大見得を切って、偉そうに腕を組みソファにより掛かる。
顎を少し上げた事により、相手の男を見下す。
随分待たされた仕打ちに対する憂さ晴らしを込めて、男の人柄を試す。
「えっと、そんなつもりは無いんだがね〜。気分を害したなら謝罪するよ、お茶のおかわりはどうだい〜?」
「ふむ、頂こう」
男が手を叩くと、先程商人ギルドの入り口で出逢ったマルチダが、紅茶らしき飲み物を持って入室してきた。
謝罪も受け入れたトレバー、相手が挑発に乗ってこなかった事に安堵した。
私欲に駆られる人種との取り引きは、損しか無いのだが、街に入ったばかりのトレバー達には後ろ盾が無く、挑発に乗って取引を断られて仕舞えばいい路銀が無い。
特に、訳ありの他国の貨幣の両替は、足元を見られ易いので、相手は簡単に断る事も出来る。
新たな紅茶らしき飲み物を注がれたカップを片手に、チラリとマルチダに目をやる。
豊富な胸はけしからんなと、トレバーは思う。
同時に、護衛も兼ねている彼女の前では、下手な事は出来ないだろうとプレッシャーに胃が痛くなる。
ただし、骨には痛くなる胃は無いので安心だ。
「では自己紹介と行こうか〜、私の名前はジョン・マルシャンと言うんだね」
「私の名前はトレバー、此方の娘がルーシーと言う。2人で旅をしていてね、今日は両替に来たんだ」
「うん、部下から聞いているよ〜。それにしても何処の国のお金だい?この辺りの国は同じ貨幣を使っているからね、ディプラ王国より北から来たのかな?」
「所長、冒険者に詮索は御法度ですよ」
マルシャンの傍に控えるマルチダがピシャリと言うが、彼は肩を竦める。
冒険者なら検索されないのか、冒険者になって良かったと、パーカーフェイスのトレバーは安堵に顔が緩む。
表情筋が無いので、緩みようが無いが。
「マルチダくん、此処は冒険者ギルドでは無く商人ギルドだよ〜。信用が第1なの、其処に出所のわからないお金が大量に入るって言うのは、色々問題があるって訳だよ〜」
チッ!デブが余計な事考えんな!!
心の中で悪態をつきながら、トレバーはマルシャンの発言の意図を考える。
この世界の金属の精製技術がどれほどかは分からないが、Wider worldでは魔法やスキルを用いてかなり高度な金属の精製が行われている設定であった。
これは単純な理由だ。
Wider worldのゲーム内の鉱山やモンスターのアイテムドロップで手に入る鉱石を、鍛治や錬金術等の生産系統のスキルを用いてインゴッド加工する事ができる。
この時に、精製度や混ざり物に細かい設定を入れて管理した場合データが細かすぎ、サーバーに負担が掛かる。
その為、精製度が高いという設定の元に鉱石毎に同一のデータにしているので、結果としてゲーム内の精細度は自然と高くなる。
ただ、一応スキルの段位に応じて、インゴッドには品質として不純物が混じっている事になってはいる。
あくまでゲーム内の設定なので、現実のであるこの世界では有効か分からない設定であり、金属に詳しく無いトレバーは調べようが無い。
ただし、今有効な情報は“手元にある金貨はWider world”から持って来たという事実であり、上記の理由で手元の金貨の金は信用出来るのだ。
先ずはこの金貨の価値をマルシャンに見せ付け、取引の利益を伝えるべきだとトレバーは結論を出した。
何処から金貨を持って来た、という答えられない質問への対応は後回しにする。
「ふん、何処から調達したか等、お前の様な商人には意味があるまい」
バレルとの会話から、イベントリを相手に見せるのは得策では無いと理解したトレバーは、腰に括り付けた皮袋から出したか様に見せ、金貨100枚を机の上に並べた。
最初の担当者は口頭の金貨に驚いていたが、ベテランのマルシャンに取っては大金とは言え、金貨3桁の取引は良くある。
ただし、実際に目の前に金貨が積まれると、その黄金の輝きに、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。
「お前達商人は、この取引に価値が有るかどうかが知りたいだけだ。先に忠告するが、姑息な事は考えない方が良い」
トレバーは机から金貨を1枚取り、ルーシーをチラリと見やる。
親指で弾かれた金貨は、放物線を描いて金貨の山を越えて、マルシャンの胸元へと飛んで行く。
慌てて受け止めたマルシャンは、手の中でパキリと2つに別れた金貨を呆然と見やる。
護衛を兼ねているマルチダは、自分の迂闊さを痛感していた。
その目は悔しそうにルーシーの手元で、吸い込まれる様な漆黒の刀身が露わとなった小太刀へと向けられている。
見えなかったのだ、太刀筋が。
10にも届かぬ幼な子は、目の前でゆっくりと小太刀を、兎の人形にしまっていく。
恐らくマジックバックと呼ばれる、高級な魔道具の1つだろう。
そう推測したマルチダとマルシャンは、トレバー達は異国から何かしらの理由によってこの国に来た、貴族か何かだと推測する。
外見が年端も行かぬ少女が、高度な訓練をなさらている。
恐らく護衛目的で戦闘技術を学んだのでは無いか?
そして、護衛されているトレバーという魔族は、かなり高位な地位にいたのでは無いか?
まさか、他種族と敵対している魔王軍に属しているのか?
様々な疑惑がマルシャン達の頭を駆け巡る。
国家の中には魔族は全て魔王軍に通じると、入国を制限する国も有れば、見つけ次第討伐すると言う過激なロレンス聖国の様な国も存在する。
後者はとある神を信仰している為である。
他国とは滅多な事では交流しない鎖国状態で、隣国ではあるが、その内状をマルシャン達は知る手立てが少ない。
手元の金貨をマジマジと見たマルシャンは、その造形の技術の高さにまず驚く。
次に、秤に乗せてその金の精細度の高さに再び驚いた。
ゴクリ、と喉が鳴る。
圧倒的な金の密度差に、天秤は大きく傾いている。
商人としての欲望が湧き出すが、相手は態々釘を刺して来たのだ。
チラリとマルシャンはトレバーを見る。
その双眸は、ポッカリと空いた眼球の穴に怪しげな光が灯っているだけで、感情は全く読み取れない。
アンデットは生者を憎むのは、一般常識である。
やはり、魔族の彼もそういった感情が有るのだろうか?
「マルシャン殿?如何した?先程から此方を見ているが、取り引きはして頂けるのかね?」
「む、あ、あぁ勿論だとも!」
「安心したよ、よもや買い叩こうと等考えていたらどうしようかと不安であった」
トレバーは肩を竦め、困った様に顎を撫でる。
内心はマルシャン達よりもよっぽど冷や汗がダラダラと垂れてたり、もしも肉体が有れば体調を心配されるであろう。
マルシャンは生唾を飲み込む。
マルチダは高位の冒険者だ、最悪難癖を付けられても何とかなる筈。
背後で悔しさの余り、唇を噛み締めている彼女の顔が見る事が出来ないマルシャンは勝負に出る事にした。
あくまでも、マルシャンは商人だ。
利益の出ない取り引きは行わない。
「トレバー殿、此方の手数料込みで其方の金貨1枚に対し、此方も金貨1枚で取り引きしようと思う」
どうだとばかりにマルシャンはトレバーを睨みつけた。
足元を見るつもりは無いが、トレバー達は目の前で自分達の金貨の価値を知った。
取り引きの数が増える程に、マルシャンの利益が増える。
もっと吹っ掛ける事も出来たが、トレバー達は値切る事をしないだろうと考えた結果だ。
睨みつけられたトレバーと言えば、マルシャンの事を心配していた。
金の含有量が多いとは言え、金貨は金貨である。
正直金貨1枚で、金貨1枚って破格なんじゃ無いかなー等、一介のサラリーマンであるトレバーに取って、両替等は自国の硬貨を自動販売機や銀行で行った程度であり。
海外の硬貨を両替するといった経験は皆無だ。
その為、深く考える事は辞めた。
「素晴らしい取り引きだ。ついでに金貨50枚を追加する、此方は銀貨と銅貨と交換してくれ。レートは先程と一緒で構わない」
トレバーが細かいのが欲しいなーと、更に50枚の金貨を追加で乗せた事で、一瞬緩んだマルシャンの頬が引き攣る。
「それで、金は何時用意できる?出来れば銀貨や銅貨は少量でも構わないから早めに欲しいのだが」
「こ、これだけの量は3日程必要となりますな。流石に王都から離れている故、金貨を動かすのは時間が必要となります。銀貨や銅貨もこれ程の量となれば・・・」
マルシャンの精一杯の抵抗である。
早めたければもっと掛かるぞと、何とか利益を上げようと言って見る。
しかし、必要無いとばかりに金貨10枚を先払いとさせ、受け取ったトレバー達はサッサと部屋を後にした。
「とんでもない奴らだったな」
「ええ、私でも実力が見えません」
緊張が解け、素で呟いたマルシャン。
その呟やきに答えたマルチダの言葉に、マルシャンは更に恐怖を覚える。
何なんだあの魔族は?
マルシャンの呻く様な声に、マルチダは答える事が出来ない。
契約書の見た事も無い文字の署名は、彼等の出身を更に謎にする。
少なくとも、取り引きは交わした。
この取り引きによって、王都からかなりの金が流れる事になる重大さトレバー達はまだ知らない。
因みに、ルーシーはお金があるだけ使うタイプなので、両替等の会話は全く聞いいなかった。
障子って、異様に指で穴が開けたくなりますよね。
でも、私の心に穴を開けたら駄目ですよ。




