冒険者に登録しよう【2】
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どうか皆様にも嬉しい事があります様に。
賑やかな男達の声が響く冒険者ギルド内、酒場と合併している為、彼らはとても陽気に酒を飲んでいる。
彼等の多くは若者であり、年配の者は少ない。
何故なら彼等の殆どが低位の新米冒険者であり、一発当ててやろうという若者達なのだ。
「良いか、冒険者はギルドに登録する事で様々な恩威に預かる事ができる。仕事の施錠や、獲物の売り買いもそうだ。そして、冒険者にはランクがつけられていて、高くなる程“冒険者ギルドに信用されている”という証明になるわけだ」
「つまり、より恩威が大きくなるって事か」
「その通り、最初は鉄級から始まり、1個上がった銅級からは他の国での身分証明書として使える。だが、その分緊急自体の時は駆り出される様になるけどな」
トレバーは異世界の金属について興味が薄い、ミスリル等のファンタジーな金属は上位に来ることは予想できるが、オリハルコンとヒヒロイカネはどっちが上なのかは解らない。
なんかすごい金属、それがファンタジーな金属のイメージだ。
自分の武器の材質を考えるにしても、トレバーの主武器は初心者の初期武器からずっと鍛えてきた相棒である。
そして、この武器の材質は不明であり、耐久が無い壊れない武器である。
武器の説明では、未知なる物質で出来ていると記載されているのだ。
ファンタジーの世界で未知なる物質とは、それは一周回ってただの合金なのではと心配になる。
「なぁフィーネ、飛び級的なのは無いのか?物凄く有能な人間が、下位でチンタラしてたら戦力的に勿体無くないのか?」
「基本的には無いな、銅級までなら割りかし早く上がるからな。実力が分かっているならギルドで収集できるし、実力を隠す奴らは信用に値しないって訳だ」
「例外もあるのか?」
「ああ、よっぽどの功績を上げるか、王都で開催される闘技大会で優勝すれば上がると聞く。最も、何方も金級より上の奴らが掻っ攫っているからな。難しいぜ」
闘技大会、これは俺の時代なんじゃないか!?
そうトレバーはほくそ笑んでしまう。
闘技大会で華麗に優勝して、美女達にチヤホヤされる未来を垣間見たのだ。
人はそれを妄想と言うが。
「成る程な、つまり俺もその闘技大会に参加すれば良いのか?」
「いや、闘技大会の参加資格は銅級以上だ。それに鉄級から銅級の期間は、新米冒険者達に生き残る知識を教える講習みたいなものだからな。銅級まではどうやっても自力で上げないといけない規則なのさ」
「そーなのね」
「闘技大会は年に1度しか開催されないし、そいつも先月行われたばかりだぞ」
「えー、そんなー」
「まぁ良いじゃないですかセンパイ。ランクが上がると言うのは確かに恩威が得られるでしょうが、ギルドに拘束され易くなると言う見方もあります。センパイの目的は何ですか?」
「綺麗な景色を見る旅です」
トレバーの答えにフィーネは面白そうな顔をする。
最近は冒険者とは名ばかりの、魔物相手の傭兵や雑用と言った、未知なる世界への挑戦が全く感じられないのだ。
日銭や名声とは違う、冒険者のロマンとも言えるモノを持ったトレバーに興味を抱いた。
最も、ソレには実力や資金が必要なのだが。
「綺麗な景色を目的に旅をしているなら銅級まで上げれば十分だ、他の街や国境でも身分証としての価値があるぜ」
世間話をしていると、フィーネの手が止まる。
忘れているかもしれないが、先程からフィーネはトレバー達の登録用紙に記入しているのだ。
おや?
忘れていない?
失礼、聡明なる読者の皆様は勿論忘れていないであろうが、脳味噌の空っぽの髑髏が忘れているのだ。
「ほれ、出来たぞ。読めるなら確認してくれ」
フィーネから受け取った記入紙には、会話の合間に答えた名前と性別、年齢と得意武器という簡単なものであった。
因みに、トレバーの得意武器は長剣、ルーシーの得意武器は短剣と書かれている。
ただ、ルーシーはメイン武器は短剣では無い、短剣や毒魔法といったスキルは全て、蜘蛛の巣に絡む獲物の様に初見殺しへと導かれる罠なのである。
2人の年齢は秘密ではあるが、トレバーは元の世界の年齢、ルーシーは10歳と外見年齢を答える。
え?トレバーは何歳なのか?
もー!骸骨の年齢を知りたがるなんてデリカシーが無いわね!!
「登録用紙って言っていたから、もっと色々聞かれるかと思ったんだが。意外と少ないんだな」
「まぁな。結局は自己申告だ、冒険者なら実力は結果で語るものだぜ。一応公開し易い情報であり、依頼人や依頼内容、俺達冒険者ギルドが冒険者を守れる最低限の情報でもあるのさ。まぁ、メンバーを募集したりする場合はもう少し細かく聴く事になるけどな」
成る程ね、女性冒険者相手に如何わしい事を考える依頼人や、下卑た男を護衛にしたくない女性依頼人とかへの配慮か。
トレバーは冒険者ギルドの評価を引き上げると同時に、男尊女卑になり易いであろう体力的な冒険者の仕事で、此処までする事に意図を感じた。
恐らくは元の世界の人間が冒険者ギルドの成立等に関わっているか、この世界での女性は強いかのどちらかだ。
「こう言っては失礼だが、肉体労働の冒険者では男尊女卑になり易いと思うが、随分と素晴らしい制度だな」
「あぁ、冒険者ギルドでは出来るだけ種族や性別に差別を抱かない制度にしてるのさ。俺たち自身が社会のあぶれ者みたいなモンだからな、それに単純な筋肉で考えるなら男が強いだろうが、種族や魔術の前ではその程度の誤差なんて簡単に覆るもんだろ?」
「確かにな」
Wider worldでも女性キャラクターが好かれており、実に6割は可愛らしい女の子のキャラクターが使われていた。
中身は男だが。
種族や性別により、会得可能なスキルが異なるWider worldではあるが、スキルの会得や段位を上げる為に必要なスキルポイントは統一されており、不遇優遇が無いように配慮されている。
と言っても、種族特性で苦手なスキルは会得不可能なのだが。
それでも、自分の好きな様に育成できる自由度であり、可愛らしい女の子を、ステータスのみムキムキの怪力ゴリラにする事も出来るのだ。
この世界でも、見た目が華奢でもフィーネの言った様に強力な魔法が使えたり、ムキムキの怪力ゴリラの可能性があるのだろう。
中身がおっさんという事は無いだろうが。
いや、ルーシーの様な事もあるし有るのかもしれない。
可愛いちゃんねーと宿に行ったら、おっさんと一夜を共にしていたという事も有るのかもしれない。
怖い!異世界コワイ!!
トレバーは不用意に女の子に声をかける時は、気をつける様にしようと決意した。
「これで登録は終わりだ、後ろの掲示板に貼られた依頼書を持ってきてくれれば此方で受けれるぞ。依頼書は朝に張り出すから、今の様なはやい時間に来る事をオススメしておこう」
「そうなのか、悪いけど俺たち今日は両替して街をぶらつく予定だから、依頼を受けるのは明日以降になるんだ」
「ああ、バレルから聞いているよ。本来新米冒険者にはこの後は鍛冶屋に直行して、武器を購入してもらうんだ。金が無いなら冒険者ギルドに借金でな」
武器と聞いて、トレバーの好奇心が刺激される。
武器というものはロマンだ。
威力や見た目、性能といったあらゆる技術が詰め込まれており、中でもトレバーが優先するのはロマンだ。
実際に自分が運用するのであれば、性能を第1にしているが、コレクションや遊びとしてはロマンや見た目が最高に刺激される武器は大好物なのだ。
Wider worldでも、様々な武器が用意されている他、生産ではオリジナルデザインを作る事ができた。
オリジナルデザインの見た目に、実用性のある性能を持たせる事もでき、ソードブレイカーの様な機能が付いた武器で、敵の武器を破壊する事も可能なのだ。
その自由度に、多くの生産プレイヤー達はこぞってオリジナルブランドを作った。
Wider worldの世界で最高難易度のモンスターがドロップする武器には届かないものの、最前線のプレイヤー達もプレイヤーメイドの武器を愛用している程のレベルを作る事が可能なのだ。
ルーシーの小太刀もそうであり、右腕や左眼を封印したお洒落なフレンドに作成して貰った。
隠密性に優れた黒塗りの小太刀は、死角から攻撃すると威力が上がる特殊効果を持っている。
「ぶ、武器かぁ」
「なんだ?欲しいのか?」
「いや、武器ってロマンあるだろ?」
「お前は鍛冶屋に好かれそうだな。取り敢えずこれで冒険者ギルドへの登録は終わり、依頼を受けないなら詳しい説明は明日でいいだろ?」
「ああ、手間を掛けたな」
「これが仕事さ」
フィーネは肩を竦めて出口を指差す。
さっさと出て行けという事かと、トレバーは少しビビった。
読者の皆様が気がつかない程巧妙に隠してはいるが、トレバーの心は鶏なのだ。
「そろそろ、向かいの商人ギルドが開く時間だ。両替はそこで出来るぞ」
「あ、ああ!分かったぜ!」
ビクビクと怯えていたトレバーだが、普通にご案内だった事が分かりホッと一安心する。
フィーネの様な厳ついおっさんは、威厳も半端ないのだ。
決してトレバーが小者という訳ではないのだ!
「じゃ、ルーシー行くぞ」
「おっけー」
2人が後にした冒険者ギルドでは、2人の新入りの事が話題となる。
まだ若い冒険者達では有るが、少しでも先輩として良い顔をしたくなるのも人情というものだ。
異国から旅をして来たとは言え、一見帯刀(うさぎのぬいぐるみを除く)しておらず、甘く見られてしまうのだろう。
だが、この街で登録した冒険者達は、粋がって新米冒険者に絡む輩は居ない。
何故なら、鉄級時代にフィーネさんに躾けられたからだ。
他の街とは違い、荒くれ者の冒険者達による犯罪率が低いのだ。
冒険者ギルドの向かい、商人ギルドにたどり着いたトレバー達は立ち竦していた。
朝来るときには見られなかった長々と続く行列、誘導する職員、最後尾とこちらの世界で書かれた木の看板を掲げる職員。
「まるで物販ですね」
「それな」
ルーシーとトレバーは取り敢えず最後尾に並び、前の商人のおじさんに話しかける。
「なーおっさん、ここって商人ギルドだよな?」
「うぉっ骨っ!・・・って魔族か、如何にも此処が商人ギルドの最後尾である」
「うわ、センパイこの偉そうな人はやめておいた方が良いと思いますよ」
「ああ、なんか不敬とか言って来そうだもんな」
ヒソヒソと聞こえるように話す2人、おじさんはピクピクと頬が引き攣るが怒鳴るような事はしない。
これから商人ギルドに向かうのだ、不用意な態度は取り引きで不利になりかねない。
「君達失礼だな、緩慢な態度は謝罪するが」
「いえ、謝罪は結構です。話しかけないでください」
ルーシーのとても冷たい対応に、最近思春期になり、洗濯を分けるように言ってきたおじさんの娘と重なり目尻に涙が滲む。
おじさんが若い頃に吟遊詩人の間で流行った歌、“見上げてみよう”の歌詞を思い出し、思わず青々と広がる空を見上げる。
「ルーシー、辞めろ。おっさん泣きそうだ」
「さ、最近冷たい娘を思い出してな」
潤んだ瞳で鼻を鳴らすおっさん。
これが可愛い女の子だったら良かったなぁと思いつつ、トレバーは適当な言葉を投げかける。
「それはともかく、俺達が朝に冒険者ギルドに入った時はこんな並んで無かった筈なんだが。一体どうしてこんな行列に?」
「ああ、商人ギルドは毎朝商品の取り引き履歴の提出や仲介料金、新しい仕事を始める為の投資を求めるもの達で混雑するのさ。時間が掛かる話は整理券を配られて、指定時間にまた来る感じだ」
「え?両替したいんだけど、それも直ぐには出来ないのか?」
「はっはっはっ、両替なら皆んな昼過ぎに来るよ。その時には大体人も疎らになってるからね、君達を案内した人は悪戯のつもりか何かでこの時間に案内したのかもね」
おのれバレル!
一瞬憎々しげに拳を握ったトレバーだったが、この国の貨幣とは異なるWider worldの硬貨だ。
金や銀の密度を計り、この国の貨幣の価値に計算し直すのはそれなりの時間は必要なのかもしれない。
そう思い直し、今はこの行列を楽しむことにした。
誰かと一瞬に並ぶのは、それだけで楽しいのだから。
「まぁ、並んでいれば良いんだな。ありがとな、おっさん」
「うむ、所で君達は何故この街に?」
「旅をしていてな、この街には観光の目的と冒険者ギルドの登録為さ」
「ほう、冒険者か。なら後で私のお店に来てくれ、歓迎するよ」
そんな他愛も無い話をする2人、お互いに名乗り合っていなくても、こう言った行きずりの名前も知らない相手との会話はまた違った楽しみがあるのだ。
ルーシーは退屈で死にそうな顔をしているが。
「ああ、すまない話過ぎてしまった、大事な相方を取ってしまって悪いねお嬢ちゃん」
殺気をだしかねない形相でうさぎのぬいぐるみと戯れるルーシーに気がつくと、ポケットからビードロの球を取り出した。
不恰好で不純物が混じってはいるが、子供にとっては宝石の様な価値があるものだ。
勇者が考案した工芸品の中で、破棄されていた物をこのおっさんは小物として売っているのだ。
「これは私が取り扱っている商品でね、ビードロの塊なのさ」
「ビードロ?」
「うむ、かって錬金術の叡智と言われた勇者がいてね。錬金術の容器はビードロこそ相応しいと、何年もかかり発明したそうだ。ビードロは宝石の様な美しさと、簡単に加工出来ることから様々な工芸品に使われているのさ。だが、不純物や形が変になってしまう失敗作が出てしまってね、それをこうして小さく固めて小物として売っているのさ」
自分の仕事の事となり、思わずといった形で長々と話してしまうおっさん。
娘に冷たくされる原因は、それではないのかおっさん。
「へー、ビードロね」
「ビードロとかやべーな」
興奮して長々と話が続くおっさん、どうやら彼は王都から来た商人でありこの街でも店を構えている。
ビードロの球を売りに出す権利やなんやかんやの(トレバーは途中で話を聞くことを辞めた)理由で、商人ギルドを訪れた様だ。
「そういえばおじ様、先程取り引き履歴の提出と仰ったのですが、それはどう言ったものなのでしょうか?」
「うむ?ああ、君達は商人では無いのだったね。そうだな、基本的に商品の売買は商人ギルドを通す事が原作とかっている。違法な品物を持ち込みしない様に審査してるのさ」
「成る程、解りましたそれでは口を閉じて前を向いて下さいね」
ニッコリと微笑んで指をさされ、おじさんは悲しそうに前を向いた。
王都に戻ったら娘をしっかり可愛がろうと心に決めて。
トレバーとルーシーの2人は列に並ぶ。
のどかな街並みと小鳥のさえずり、姦しい商人達の声が街の活気を彩る。
2人は幾ら両替するのだろうか。
異世界から持ってきたお金を膨大に両替すれば、それだけお金の価値を下げるので自重する事を願うばかりである。
因みに私の嬉しい事は賞賛と名声と富ですけれど。




