校舎案内
相手が転校生だという事もあり、皆が興味津々で彼を囲んでいる。
彼の名前は水城冬弥だ。
彼の周りには男子も女子も群がり葵が入って行けるような雰囲気ではなかった。
でも、まずは話しかけないことには何も始まらない。
葵は勇気をもって冬弥に話しかけた。
「水城君、もしよければ校舎の案内しようか?」
水城は暫く葵をじっと見つめた。
(?)
葵はなぜ自分が見られているのかわからなかった。
その瞳はまるで何かを観察するかのようなものだった。
葵は返事がもらえないことに落胆して席へ戻ろうとした。
その時、水城が言った。
「じゃぁ、お願いしようかな。昨日、来たばかりでまだクラスの人の顔覚えてなくて・・・えっと、君の名前は?」
「香坂葵よ」
葵はそう言うとにっこり微笑んで見せた。
そんな葵を見て他の男子生徒はときめき、他の女子生徒たちは陰口を叩き始める。
「香坂さんがまた男に媚び売ってる」
「陽介君だけじゃたりないのかしら」
「水城君は私たちと話していたのに」
・・・等の悪口が聞こえる中葵は水城と教室を後にした。
「水城君はどこから来たの?」
「すごく遠い所」
詳しい場所は教えてもらえなかったが、会話は成立している。
良かった。何とか二人きりになれた。
その時水城のポケットから何かが落ちた。
葵はそれを拾い、水城に渡した。
「水城君、落としたわよ」
「・・・君は平気なのか?」
そう言って水城は驚いていた。
「?」
水城が落としたそれはロザリオだった。
水城は葵の手を取りまじまじと見つめた。
葵は恥ずかしくなり手を引っ込めた。
「確かにそのロザリオ、尖ってるから怪我しそうね」
「あ、ああ。俺もたまに怪我をしそうになる」
そう言うと彼は笑った。
一通り学校内を案内し終え、教室に帰ると陽介が待っていた。
「よっ!」
「”よっ!”じゃない。何しに来たの?」
「何だよ用事がないと来たらいけないのか?」
陽介はすねた口調でそう言った。
「そいつが例の転校生か?」
そう葵に尋ねると水城は陽介に挨拶した。
「そうです。昨日転校してきました、水城冬弥といいます。宜しく」
そう言いながら陽介に手を差し伸べてきた。
陽介は水城を観察するように見つめ、その手を取り握手した。
「俺はそいつの幼馴染の中牟田陽介だ。宜しく」
「・・・」
水城と陽介は何か考えているように見えた。
お互いの手を放した。
「葵さん校舎の案内ありがとうございました」
「いいえ、あのくらい。どうってことないわ」
そう言って水城は自分の席へ戻って行った。
「・・・」
陽介はまだ黙り込んでいた。
「陽介?どうしたの?」
「葵が気になっている奴ってあいつだろう?」
「ええ、そうだけど」
剣呑な目つきになり陽介は言った。
「あいつは止めておいた方がいい気がする」
「え?どういうこと?」
葵が聞くと陽介が言葉を続けた。
「・・・よくわからないが、本能的にそう思った」
「何それ」
葵は呆れるように言った。
やっと灰にならず、消滅から逃れられると思っていた葵には不快な一言だった。