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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サイアクの物語・婚約指輪

作者: 夢猫沙夢

 ある所に新婚の夫婦がいました。二人は貧乏でしたが幸せに暮らしていました。

 妻は夫に言います。

「あなたのためなら私はなんだってできます」

 妻の深い愛を感じながら、夫は生活のために働き続けました。

 しかし、愛で生きていけるほど世の中は甘くありません。

 時は飢饉の時代。日に日に食べるものは高額になり、夫は食べ物が買えなくなるのも時間の問題だろうと感じていました。いつも食事はみすぼらしい野菜だけ。肉は高く、まったく食べられません。

 ふと、夫の脳内に妻の言葉が浮かびます。

「あなたのためなら私はなんだってできます」

 もし妻が身体を売れば……。そんなことが一瞬よぎりますが、大切な妻を慰みものにされるなど耐えられるわけもありません。

 頭を抱える夫。このままではいずれ二人とも餓死してしまうでしょう。

 そんな夫を見かねた妻は夫に擦り寄ります。

「あなたのためなら私はなんだってできます」

 そんな妻の強い意志に折れ、夫は一つの提案をしました。

 次の日、帰宅した夫は隠せない笑みを浮かべていました。その顔を見て妻の口元もほころびます。

 夫が持ち帰ったのは、普段だったら絶対に食べることができない鶏肉でした。

 君のおかげだ。夫は妻にそう言います。

「あなたのためなら私はなんだってできます」

 妻は幸せそうにそう呟くのでした。

 ご飯の支度をしましょうと、妻が言ったので、夫は妻を支えながら台所へと移動しました。

 その日のディナーは今までにない幸せな時間となりました。


 さあさあ、しかし、物価の上昇により、この前手に入れたお金はすぐに底を尽きてしまいました。

 どうしたものか。夫は再び頭を抱えます。

「あなたのためなら私はなんだってできます」

 妻がいつものようにそう口にしました。

 一度勢いがついてしまうと、感覚が鈍くなるのが人間の性です。二度目はそこまでの躊躇はありませんでした。

 妻は左手の薬指に光る指輪を眺めながら言いました。

「あなたからいただいた婚約指輪。これを外すことはできません。左腕だけはどうか残してください」

 その言葉に夫は深く頷くと、一度妻へ向けたことのある斧を取り出し、妻の右足と右腕を……。

 次の日の夜は、それはとても豪華なディナーでした。テーブルの上のロウソクに照らされた二人の幸せそうな表情は、誰が見ても羨ましく思えるほどでしょう。















 しかししかし、幸せは長く続きません。

 右腕、右足、左足を失った妻の介護は夫が思っていた以上に大変なものでした。

 夫の妻への気持ちは日に日に下がっていくばかり。どうやら夫の愛に五体不満足となった妻の世話をしていく力はなかったようです。

 バランスが偏った愛の天秤は崩れるのみ。

 その日の夜、妻に三度目となる斧が向けられます。幸せそうに眠る妻にそれを知る術はありませんでしたが。

 数日後、町で夫の家は高級な肉を隠していると噂になり、それを聞いた強盗に踏み入られました。

 夫は殺され、その肉は妻と同様、高額でどこかへ売られたそうです。婚約指輪もまた、どこの誰だかわからない人間へと売買されました。

 妻は夫との幸せな生活の中で死に、夫は妻の介護から解放された幸せの中で死にました。めでタシめデたし。

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