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バンド アンダーソンのこと(音楽プロデューサー田所視点)

 音楽業界でようやく安定して仕事ができるようになった頃から、よく組んでいたのが山下律夫だ。

元々律夫はレコード会社の幹部社員に連れてこられたギタリストだった。どこの馬の骨とも判らないギタリストだったが、意外にテクニックがあり使い勝手がよかったので、その後も俺の現場にはよく呼んでいた。

 律夫は作曲も出来て、何曲か依頼したこともある。理論がしっかりしているので、こっちの要望通りの曲をセンスよく仕上げてくれる便利な男だった。

 あるときは、男性アイドルグループのアルバム内の一曲が締め切りに間に合わず、仕方ないので律夫にその場で作らせたこともあった。その曲がコンサートでの鉄板ソングになり、けっこうなお金に変わったのには、二人共罪悪感を覚えたものだ。

 10年位の活動で俺も律夫もそれなりの収入を得るようになっていたし、このままいくんだろうなと漠然と思っていたんだが、律夫はメジャーデビューを諦めていなかった。ずっとバンドを続けていたんだ。

 律夫のバンドはアンダーソンという名前で結成して10年以上になる。メンバーの加入脱退を繰り返し、オリジナルメンバーは一人もいないので、名前の由来はもう判らない。

 律夫の加入が一番最後で新人だったが、既にプロミュージシャンの加入はバンドのレベルを劇的に上げた。特にリーダーのKYOUはビジュアルの良さもあって、人気は鰻のぼりだった。

 アンダーソンのメジャーデビューの話が持ち上がるのは当然だったが、手を挙げた事務所(正確には担当マネージャー、後に社長の娘と聞いた。)にバンドのことが解るとは思えない事が心配だった。

 律夫もそのことは理解していて、バンドをビジュアル系で売るつもりなら自分はデビュー出来ないと言っていた。バンドの音楽性の要を排除するなんて普通なら考えられないが、あの担当者なら有り得てしまう。

 「もし俺がデビューできなくても、何かあったら田所さんも力になってやってくださいよ。」

 律夫はそう言っていたが、こいつが居ないのに関係ないと思っていた。


 徹夜続きの午後、律夫が死んだ話を聞いた。殺されたとか冗談だろうと思った。葬儀にも行ってお棺の中の律夫を見たが、実感は無かった。

 犯人はすぐに捕まった。律夫に代わりバンドのギタリストになった男だった。動機は見た目だけで腕の良くないギタリストが、バンド内での地位を保つために前任者を殺し、ついでに未発表の楽曲を奪ったらしい。本物の馬鹿だ。そんな奴に狙われた律夫も可哀想に・・・

 正直、律夫のいないバンドに係わるつもりはなかったが、死なれてしまうと生前の話を思い出してしまう。

 仕方ない。俺はバンドのメンバーと懇意にしているレコード会社の人間を呼び出した。新しい事務所を紹介して、楽曲を準備して、やることはいっぱいあるが、若手のバンドをデビューさせるくらい今の俺には簡単だ。俺も律夫もそれだけのキャリアを積んでいたのだから。

 

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