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お義兄さんについて私が知っている事(母ちゃん視点1)

 私が夫にお義兄さんのことを最初に聞いたのは、学生の時だったと思います。その頃はまだ、お付き合いもしていなくてロックでメジャーデビューを目指す兄弟が居るのを聞いても「へえー」くらいの感想でした。

 確かに、真面目で優秀な夫のお兄さんがそういう人なのは意外だったけど「まあそういうこともあるんだろう、ご家族も大変だなあ。」と勝手にお義兄さんをダメ人間にしていました。

 その後、色々あって夫と結婚することになった時に初めてお義兄さんと会ったのですが、普通の人で驚きました。

 短く清潔な髪型にカジュアルな服装、小太りで人の良さそうな顔。眼鏡の形に若干オタク臭さはあるものの、全体的には印象の良い地味な人でした。私の想像していたデスでメタルな人では無くて、少し残念に思ったものです。この時はお義兄さんに仕事があって挨拶しただけだったので、後でどういう人なのか夫に詳しく聞きました。

 お義兄さんは夫の7歳上で一緒に学校に通ったことは無いけれど、小、中学校ではあの山下律夫の弟と言われたそうです。夫の事を凄く優秀だと思っていましたが、お義兄さんは更に上だというのです。

 旧帝国大学に現役合格し、在学中に司法試験を突破。官僚になる事を期待されたですが、卒業後は弁護士になる為に司法修士研修を受けていたそうです。ロックスターは何処に行ったの?

 弁護士の資格を取って就職活動されているとき、たまたま見たYouTubeで、ベテランの海外ミュージシャンの動画がとても楽しそうで羨ましかったらしいです。その時のお義兄さんに心境は誰にも判りませんが、弁護士になるのをやめて音楽でメジャーデビューを目指し始めたきっかけらしいです。

 そんなに遅くに音楽に目覚めて苦労したんだろうと思ったのですが、何でも出来る人っているんですね。一年程でスタジオミュージシャンとして仕事を始めたそうです。同時にバンドも結成して活動しているんですけど、こちらは順調とは言えなかったようです。

 だからと言ってバイトが法律事務所でとか、やっぱり普通ではないと思いますが。そればかりでなく、楽曲提供もしていて下手なサラリーマンよりも収入があったようです。ご両親もうるさく言う必要は無いですね。

 私たち夫婦が実家で暮らせるように実家をリフォームしてくださったのですが、少なくない金額の援助をお義兄さんはしてくださいました。結婚後、お礼のためお伺いする予定だったのですが、それも叶わなくなりました。

 お義兄さんが殺されたのです。

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