トラの公園デビュー(幼年期4)
俺は生まれて暫くしてから公園デビューをしている。近隣のお母さん方の情報交換や社交の場として近年重要な役割をもつ公園デビュー。勿論、そんな重要性は俺に関係ない。同じ年頃の子供たちとダアダア言いながら遊ぶだけだ。
前世を含めてすでにアラフォーの俺だが、身体に精神が引っ張られるようで無邪気に遊んでいると、つい夢中になってしまう。
しかし今日は違う。ダアダアと無責任ではいられない。トラが公園に付いてきてしまったからだ。
トラは家にやって来た日に一緒に昼寝をしてからは、一番の友達になった。俺たちは家にいる間、いつも一緒で兄弟の様にすごしている。
今日のお出かけは母親同士の約束でもあったのか、俺が寝ている間にベビーカーに乗せられて公園にやって来た。その時トラはベビーカーに潜り込んだらしいのだが、母ちゃんは気がつかなった。トラの安全は俺が守るぜっ!
いつも公園に来ると、5歳になるマリちゃんが俺の面倒を見てくれる。お姉さんぶっているのが微笑ましい。子守されている赤ちゃんに言われたくないだろうが。
今日はマリちゃんだけでなく他の女の子もトラ目当てで集まっている。初めての外に不安なトラは、俺の側から離れない。
「やちゃちく、しゃわってあげて。」
舌足らずで伝わりにくいが、トラが怪我しないように注意する。なにせ周りにいるのは幼児ばかりなんだから。
「哲ちゃんがそう言ってるんだから、そっと触りなよ。」
マリちゃんは俺が皆に注目されているのが嬉しいのか鼻息が荒い。
「ムフー。」
「この子猫の名前は?」
「トヤ(トラ)。」
「そっかー、トヤちゃんかー。」
「ちがう、トヤ(トラ)。
滑舌がまだ心許ないため上手く伝わらない。イライラする。
「トラちゃんだよ。」
マリちゃんが助けてくれるが、鼻息の荒さは相変わらずだ。
「ムフー。」
「哲ちゃんはまだ赤ちゃんなのに、賢いねえ。」
女の子の一人が俺の頭を撫でてくれた。すると他の女の子も俺をなで始めた。
さっきまで鼻息の荒かったマリちゃんの機嫌が途端に悪くなった。俺を取られたとでも思ったのか?子供の機嫌は分かりにくい。
撫で攻勢から開放されたトラが俺の肩に逃げてきた。頬を擦り付けてくる。トラに気を取られていたら、マリちゃんに抱えられて膝に乗せられた。俺の所有権を主張しているんだろう。今日一番の鼻息の荒さだ。
「ムフフーン。」