トラとさよなら
急いで家に帰ると、玄関にトラが居た。苦しそうにしているのに、迎えに出てくれていた。
「ただいま。トラ。」
そっと抱き上げて、仕事部屋のソファーまで連れて行った。トラの指定席に。
母ちゃんもトラがお迎えに出たことを驚いていた。それほどトラの具合が悪いからだ。
「軽い心筋拡張を起こしていて不整脈が出ていたらしいんだけど、まだ初期で症状が分かりにくかったの。だけど運悪く血栓が腎臓に跳んで、急性腎不全に・・・。」
「治療は・・・・?」
「先生はまだもっているのが不思議なくらいだと・・・」
トラは手遅れらしい。母ちゃんは異常に気付いてすぐ病院に連れて行ってくれたが、急激に具合が悪くなって手の施しようがなかったらしい。
マリちゃんが気を使って、俺たちのCDをかけてから家族だけにしてくれた。
トラはCDを気に入ってくれているように尻尾を揺らす。ゆっくりと。以前の元気がない。
俺が撫でてやると、少し身じろぎして頬を摺り寄せてくる。可愛い仕草は前のままだ。
ゆっくり、優しく撫でていると、トラが体を動かして弱々しくはあるが俺を掴もうとしてくる。
トラが眠るときの仕草だ。眠たいらしい。
「起きたら、いっぱい遊ぼうな。」
声をかけると、安心したように安らかな顔を見せる。
揺れていた尻尾が、ゆっくりと止まる。
弱くても確かにあった脈動が止まった。
トラが逝った・・・・
悲しむことは無い。最期を看取れたし、何よりこれが最期じゃない。
生まれ変わりがあることは、誰よりも俺が知っている。信じているんじゃなくて、確かに知っているんだ。
俺がそうだったように、トラもこの家に帰ってくるに決まっている。またその時に会えるはずだ。
大丈夫だ。
「ふぎゅう・・・ふぐううっ・・・」
あまりに汚い声にびっくりしていた。
俺が泣いているらしい。
なんでだろう。何も悲しむことなんてないのに。また会えるのに。
けど、涙が止まらない。
トラを撫でることも止めることが出来ない。なんでだろう。
母ちゃんが俺を抱きしめてくれた。
赤ちゃんの時からあまり泣くことのなかった俺が声を上げて泣いているのだから、慰めようとしてくれたのだろう。
大丈夫だよ。ちょっと恥ずかしいよ。トラとは絶対にまた会えるんだから平気だよ。
「ふぎゅうううう、ふぐううう・・・・」
伝えようと思うことは声にできず、嗚咽する事しかできなかった。
泣き疲れて寝てしまうまで、ずっと俺はそのままだった。
トラ・・・・寂しいよ・・・・




