猫が来ました(幼年期3)
「断りきれなくて、子猫を貰うことになった。」
一家団欒の食卓で、じいちゃんがいきなりブッ込んできた。
じいちゃんの会社で上司に押し付けられたらしい。幸いトイレの躾は済んでいるらしい。
「赤ちゃんがいるのに、面倒みられるのか?」
「哲ちゃんと仲良くできるかわからないのに。」
という感じでじいちゃんは攻められたけど、俺がニャーと鳴いたら「哲ちゃんが喜ぶなら」と皆、賛成してくれた。
実は猫好きなんだよね。楽しみだ。
このやり取りで、ばあちゃんは俺が賢いとはしゃいでいた。
とにかく子猫を迎える為に色々買い揃えられた。主にオモチャ。うちの家族は猫を飼った事がないのでないので、ペットショップで必要な物を教えてもらった後は追加するのはどうでもいい物になってしまう。
猫用にした部屋は何だか判らない物で溢れている。家族みんな、はしゃぎすぎ。
数日後、じいちゃんが子猫を連れて帰ってきた。
ケージから出された子猫は、周囲をとても警戒している。
「この子が家で飼う雑種、キジトラのトライアヌスちゃんです。」
じいちゃんの説明ゼリフに、ばあちゃんが非難する。
「なんで長くて可愛くない名前にしたの?」
「上司の息子さんが受験生で、苦手な世界史克服のために生まれた子猫にローマ皇帝の名前を付けたらしい。」
じいちゃんの回答に、ばあちゃんと母ちゃんは微妙な顔をしていたが、俺的にはハドリアヌスやヴェスパシアヌスとかじゃなくてよかったと思う。
「とやっ!(とらっ)」
舌足らずに名前を呼んで、子猫を撫でてみた。
「トライアヌスも略せば「とら」だし、子猫の柄にもあってるね。」
ここまで空気だった父ちゃんが、俺をほめてくれた。父ちゃんに笑顔をプレゼントしておこう。
さて、実はみんなが気になっていることがある。
母ちゃんが買ってきたペット用ベッドを子猫トラは果たして気に入るのか?低反発マット枕の部分が母猫のぬいぐるみになっている。とても可愛いのだが、多頭用なのかとても大きい。
母ちゃんが気に入って買ってきたのだが、他の家族は懐疑的だ。猫は狭いところが好きなのに、ベッドが大きいのが理由で・・・
案の定、トラはしばらくフミフミしていたがすぐに興味をなくしたようだ。母ちゃんが残念がっている。
ここは俺の出番だろう。
ハイハイでベッドに近づくとぬいぐるみ部分に頭をあずける。なかなか、具合がいい。
「とやっ。」
うまく発音できないがトラを呼んでみると、俺の横に来てまるくなった。
トラを撫でていると、俺も眠たくなってきた。
眠りに落ちるとき、気持ち悪いデレ顔の家族が見えた。