レコーディング
夏休みまでにアルバムを創らなければならないので、週末は毎回練習とレコーディングに充てられた。
プロデューサーにはアメリカから大御所のトーマス ロジャースが招へいされた。かなりの特別待遇だ。どんな大物か知っている美由紀さんは完全に固まってしまった。
トーマス曰く、俺たちの自主製作CDを練り直すらしい。
「このアルバム(自主製作CD)は、とてもよくできています。しかし勢いはありますが、細かな粗が目立ちます。そこをブラッシュアップして、勢いはそのままに完成度をあげます。」
確かに自主版の録音時は一発撮りの勢いをだいじにしていたから、納得のできる話だ。
具体的なブラッシュアップは全員の完成度を上げることと、ベースラインの変更だ。
マリちゃんが担当するベースは彼女の技量に合わせてアレンジしていたので、初期の作品ほど単純な展開になっている。それを作り直すのは当然だ。
結果、とくに忙しいのが、マリちゃんと俺になった。
俺は全ての曲のベースラインを見直した。すると当然、他のパートも変更することになる。ほぼ、新たにアレンジし直すことになった。レコーディングと並行しての作業はとても辛かった。
メンバー全員、新たなアレンジの練習に追われていたが、中でもマリちゃんは大変だった。何せ全部の曲が難しくなっているのだから。
けど必然的に俺と毎日一緒に練習することになるので、意外と楽しそうに練習していてくれる。楽しいと習得も早くなるし、いいこと尽くしだね。
週末になると都内のレコーディングスタジオで録音する。皆かなりトーマスに追い込まれている。
美由紀さんは厳しい状況も憧れのプロミュージシャンらしいと嬉しそうだ。しかし、平嶋くんはもうすぐ泣きそうだ。トーマスは決して怒ったりはせずに穏やかに高い要求をしてくる。そして出来るまで付き合ってくれる。だから余計に出来ないことが、真面目な平嶋くんにはプレッシャーになっているようだ。
トーマスがアメリカから連れてきたエンジニアに言わせれば、トーマスは出来ない要求はしないし平嶋くんは充分出来ているそうだ。じゃなければトーマスの機嫌良くしていない、と言われた。確かに俺が聞いていてもドンドン良くなっていると思う。
マリちゃんはベースはやり直しをさせられるが、歌は大体一発OKだ。大物プロデューサーにもマリちゃんのボーカルは通用することが分かった。
実は俺のギターパートも割と順調に進んでいたのだが、皆の頑張りを見て自分からやり直しをさせてもらっていた。すると皆も俺に負けじと張り合ってくるので、途中からはトーマス調整するように変わっていた。
大変だけど、とても充実した時間だった。後で考えると楽しかったのだと思う。
アルバムが完成して試聴したときには、メンバースタッフ全員がハグして喜び合った。
自信の一枚が出来たと思う。




