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パラディン(バンド名)再生2

 田所さんとKには一週間後の打ち合わせを約束し、今日のところは帰ってもらった。Kはこの後、仕事だしね。

 さっそくパラディンの楽曲を聞いてみた。(CDなどは資料として田所さんが置いて行った。)

 何というか、淡々とした平坦な曲調に普通の歌詞というのが感想だ。悪くはないが絶対に良くもない。せっかくのビジュアルが曲に反映されていない。大人に言われるまま、やっているのがバレバレだ。これで売れるんだったら誰も苦労しないだろう。

 その辺りを改善していこう。アレンジを見直すぐらいでは駄目なので2~3曲打ち合わせまでに用意することにした。



 そして打ち合わせの日の放課後、俺は田所さんがいつも使っているスタジオに行った。

 スタジオには田所さんパラディンのメンバー全員と彼らのマネージャーが揃っていた。

 「パラディンの曲を聞かせてもらいました。正直にいって中途半端な印象を持ちました。」

 「だよなぁ。」

 田所さんも問題点は分かっているようだ。ただ、ビジュアル系をどうプロデュースしていいか分からないらしい。

 田所さんの扱うタレントはシンガーソングライターがほとんどで、アイドルのスパークが例外中の例外なのだ。アンダーソンも元々ごく普通のロックバンドだった。ビジュアル系は完全に後付の設定でメンバーも手探りでやっているから、中途半端になっている。

 だったら徹底的に耽美を追及すれば良いのだ。だから俺の担当する曲はハードロックに讃美歌やゴスペルの要素を取り込み、西洋的な宗教色を持たせてみた。勿論、ポイだけで中身は全く関係ない。

 これまでの俺の仕事は作曲とアレンジだけだったが、今回は歌詞も創ってきた。内容は腐女子が好きそうな耽美で厨二病をこじらせたような歌詞にしてみた。書いた俺自身にも意味はよく分からない。これを3曲分、どこか自分の心を削りながらの作業だった。

 「10才で、これを1週間で創ったのか・・・」

 「すごいな・・・」

 バンドメンバーが皆驚いている。そんな中、田所さんが俺に質問してきた。

 「歌詞の意味とかメッセージ的なものが、よく分からんのだが。」

 「元々、ビジュアル系の歌詞はよく分からないもんじゃないですか、今回の曲はさらに一歩進めて意味なんてありません。それらしい言葉をならべてみました。ただ意味ありげに。」

 「それで良いのか?」

 「あえてそうします。腐女子や厨二病患者はそのほうが、かえって喜びます。」

 「なんか、ファンをバカにしていないか。」

 「そのかわり演奏のクオリティーは妥協しません。それで余計に歌詞が引き立ちます。」

 「もう哲夫がプロデュースした方が良さそうだな。」

 田所さんが笑いながら言うが、俺には学校があるのでプロデュース全部は無理だ。口出しが精いっぱい。

 メンバーにも言いたいことはあるだろうが、無視する。自分自身のやりたいことは売れてからの話だ。仕事とは結果を出さないと好きなことなどできない。そう言って納得させた。

 「10才児の言うことかよ。」

 呆れたように言われたが、気にしない。

 「しかし演奏のクオリティーに問題があります。」

 皆の視線が俺に集まる。

 「ギターが下手すぎます。」

 ドラム、ベース、キーボードはアンダーソン時代から信頼しているメンバーなのでOKだが、ギターは俺が担当していた。Kは俺の殺された後、なり手がいなくてボーカル兼任でやっていただけで、本職ではない。

 殺人事件の被害者と加害者の後釜など誰もやりたがらず補充できない以上、Kがレベルアップするしかない。

 「Kには特訓を受けてもらいます。」

 俺は宣言した。

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