小さいギタリスト2(音楽プロデューサー田所視点)
先に目を覚ませたのは、仔猫の方だった。仔猫は起きると見知らぬ場所に不安を感じたように、テシテシ叩いて哲夫くんを起こそうとする。見ている女性スタッフの鼻の下が、だらしなく垂れ下がる。
気持ち悪い顔の女性スタッフに気付いた仔猫が「フッー」と威嚇していると、哲夫くんが目を覚ました。
寝ぼけているのか最初はキョロキョロしていたが、目の焦点がハッキリしてくると状況が判ったようだ。
「シュタジョ!」
舌足らずで何を言っているのかよく分らないが、突然立ち上がると母親の方へ駆けていった。スタジオって言ったのかな。
母親からギターと楽譜を受け取ると、哲夫くんは録音ブースのドアをドンドンと叩いた。開けて欲しいのか。
「それじゃぁ、下山さんリハ始めましょうか。」
少し苦笑した下山さんがブースに移動すると、スタッフも自分の持ち場についた。
ブースの哲夫くんは軽くチューニングを済ませると、下山さんを急かせる。相手は大物なんだけど、子供は怖いもの知らずだね。しかし、ほのぼのしていられたのはここまでだった。
「一応、録音しておいて。」
下山さんのカウントでセッションが始まると、哲夫くんは凄い演奏をしてみせた。元々、前もって彼に渡した楽譜は簡単なコード進行の単純なものだった。しかし哲夫くんは、そのコード進行のまま自分なりにアレンジして来ていた。そのテクニックに下山さんも驚き、圧倒されていた。
結果的に素晴らしい作品になった。下山さんも哲夫くんに負けないように、気合の入った演奏をしてみせたからだ。おかげで、随分と時間を節約できた。
哲夫くんはまだ弾き足りなさそうだったが、仕方がない出番は終わりだ。そのまま見学してもらう。
レコーディング中はいつも演奏しているわけではない。かなりの時間をミーティングに使う。この日も俺や下山さんは曲やアレンジについて話し合いをしていた。
いい加減煮詰まりかけたとき、哲夫くんと面倒をみている女性スタッフの方から聞いたことのない曲が聴こえてきた。ホッとする良い曲だ。弾いているのは哲夫くんだ。
下山さんと顔を見合わせ、うなずき合う。哲夫くんに確認しなければ・・・




