本物ギター(幼年期6)
やらかしてしまった後も、玩具のギターを弾くのを止めていない。開き直ったのもあるが、トラがギターを引っ掻いて催促してくる。本物の天才の要求には応えねば。
俺がギターを弾くと、トラが歌うように又は、合いの手を入れるように鳴く。すげー。
しかし、悲しいかなギターが玩具なので、すぐにチューニングがくるう。するとトラが俺に猫パンチを見舞ってくる。2歳児の体には地味に痛い。俺は涙目になりながら、チューニングし直している。
毎日、ギターを弾いて歌う俺たちを家族は暖かい目で見ていたが、じいちゃんとばあちゃんがある日新しいギターを持ってきてくれた。
「哲ちゃんはギターが上手だから、良い楽器を使わなくちゃ。」そう言ってばあちゃんが渡してくれたそれは、俺サイズに合わせた本物だった。
国内有名メーカーの特注品で前世でプロだった俺の目から見ても、良い物だ。結構な値段がしたはずだ。パッと見はウクレレだけど。
「じいじ、ばあば、ありあと。」玩具じゃない本物のギターに、体が震えるほど感動する。値段は気になるけど。
トラが早く弾けと、俺の膝に猫パンチで催促してくる。よし、弾いてみるか。
チューニングをして音を出してみる。小さいから若干、音が軽い感じがする。しかし、音そのものは凄く良い。指がウズウズしてきた。
実際に弾いてみると前世を通しても、かなり良い音がする。スゲー!これは弾くしかないでしょ。
生まれ変わって初めての本気弾きだ。俺の本気の演奏に、トラのテンションも爆アゲで俺の周りを走り回っている。
元々、前世でもギターを弾いていると時間を忘れてしまう。新しいギターを手に入れて以来、起きている時はずっと弾いている。母ちゃんに散歩に誘われても家に籠って弾いていた。
一週間も籠っていたら、マリちゃんが家にやってきた。かなりご立腹のようだったが、俺とトラが楽しそうに歌っているのを見て仲間に入りたがった。
「幼稚園で習ったお歌を教えてあげる。」マリちゃんが歌いはじめた。
マリちゃんの歌は上手いのだが、自由すぎる。勝手にアレンジしてしまい、伴奏を無視するのだ。
最初は戸惑ったが、マリちゃんのアレンジはポップでキュートなので俺のミュージシャン魂に火が付いた。マリちゃんが自由に歌うなら、俺が合わせれば良い。
マリちゃんと歌うのは思いのほか楽しい。トラのテンションが揚がりすぎて訳が分からなくなっている。
二人と一匹のセッションは、母ちゃんに怒られるまで続いた。




