共に罪を背負い明日へ
「・・・・人和、ねえ、人和」
声が、聞こえる。
心地のいい声―――雫の声だ。
冷たさの中に温かさを感じるその声についつい甘えてしまいたくなる。
「ん、あと、五分・・・・」
恐らく、これは夢だろう。
・・・・あ、違うかも。
あの世なのかも。
まあ、どっちでもいいや。
とにかく、本物の雫じゃないなら、思い切り甘えてもいいじゃないか。
僕は何故かひんやりとする枕に頭を擦りつけながら、寝返りを打つ。
「・・・・死にたい?」
「はい、すいません!今、起きましたーーー!!!」
何故か、殺されかねないほどの殺気を感じて、僕は飛び起きた。
「―――って、あれ?し、雫?夢じゃないの?」
飛び起きた僕が見たのは、僕を見下ろしながら、見下した様な視線を送る雫だった。
「・・・・やっと、起きたの」
「え?えぇ!?な、何で雫が僕に膝枕を!?」
そう、先程感じた何故かひんやりする枕、あれが雫の膝だった事を理解し、僕は困惑する。
さっきまで、殺しあっていたというのに。
いや、それ以前にグラビティツリーから落ちたよな、僕ら。
どうもここは、どこかのビルの屋上らしい。
何で生きてんの?
それとも本当に二人して天国へ?
・・・・まあ、地獄かもしれないけど。
状況がまるで理解出来ない。
「はあ・・・・、地面にぶつかる前に私が人和を引き寄せて、氷の傘を作って減速したのよ」
そんな僕の困惑した顔で、理解してくれたんだろう。
僕が質問する前に、雫は疑問に答えてくれた。
よく出来た子や・・・・・。
「・・・・雫が助けてくれたんだ・・・・。ありがとう」
「そんな事はどうでもいい。それより、見て」
ぼ、僕のお礼はどうでもいいですか。そうですか。
雫が指さす先。
そこからは、グラビティツリー程とまではいかないが、東京を一望出来た。
「わお・・・・。これは・・・・」
思わず、僕も息を呑む。
――――雪だ。
真東京に雪が降っていた。
白い雪は、はらはらと、真東京中に降り注いでいく。
僕の記憶が正しければ、真東京になってからは、一度として雪は降った事がなかったはずだ。
「・・・・きれいだな」
僕は思わず、そう言った。
その言葉以外、この光景を説明する言葉を僕は持ち合わせていなかった。
「ええ、本当に」
雫も僕の言葉を肯定する頷きを返してくれた。
その雫は口元を少し綻ばせて、笑う。
その笑顔は、この雪の中、良く栄えた。
「ん?」
が、ふと、僕は疑問に思う。
「なあ、雫。『氷結世界』ってもっと寒くなるもんじゃなかったのか?」
そうなんだ。
確かに世界は寒くなったし、冷たくなった。少なくとも、前よりは。
が、雫が言っていた言葉を思い出すと、もっと、ずっと冷え切っていなければおかしいように思える。
氷漬けの世界とは程遠い。
むしろ、『八角氷雪陣』で凍り付いていた真東京は溶けて、元に戻っていた。
見渡せば、今だに凍り付いているのはグラビティツリーだけだ。
この世界は雫の言っていた話と比べて、暖かすぎる。
僕が不思議に思い、首をひねっていると、雫は笑って僕の問いかけに答えてくれた。
「・・・・それは、『氷結世界』を発動したのが、人和だったからだよ・・・・・。『氷結世界』は不完全に発動したの」
「・・・・・・あ~~、はい。納得」
考えてみれば、当然の事だ。
雪女でもなく、ただの人間の、それもぶっつけ本番で今まで魔法を使った事も無い僕が、『氷結世界』をまともに発動させられる訳が無かった。
――――雫の為になら、人間が死んでもいいとすら思った。
が、結果はこのざまだ。
中途半端だ。何もかもが。
結局、僕は雫の役に立っていないじゃないか。
相当な覚悟で発動したんだけどな~~。
本当にどうしようもなく情けない。
僕が一人肩を落としていると。
「・・・・人和、ありがとう」
不意に雫の言葉が耳に届いた。
――――ありがとう?
え?何で?
僕は困惑する。
当然だ。
最後、僕は雫の邪魔にしかなっていない。
雫が『氷結世界』を発動するのを阻止し、自分で勝手に中途半端に発動させただけだ。
にも拘らず、ありがとうとはどういう事か?
僕が聞く前に雫は答えていた。
「・・・・ありがとう。これで、雪女は生きていける」
「・・・・・・・は?この暖かさで?雪女が生きていける?何で?」
僕は目を白黒させ、雫に聞く。
それはそうだろう。
この温度で生きていけるのならば、何故、世界が凍り付くまで、温度を下げようとしていたのか、全く分からない。
・・・・・それこそ、人間を殺したかったとしか思えない。
いや、でもだったらここでありがとうは無いよな・・・・・。
「・・・・元々、雪山で暮らしていた雪女は雪が降る温度であれば子孫繁栄出来るの。でも、魔法のコントロール・・・・加減が出来ないから、『氷結世界』を使えば、必要以上に世界を冷やしてしまう事になるの。人間を殺したくはないのにね・・・・・」
つまり・・・・何だ?
中途半端に『氷結世界』を発動させる事こそが雫にとってもベストだったと?
「ん~~~~~~~~~~~~~~!!何だ~~~~~」
僕は叫び声を上げてゴロンとその場に転がった。
「良かった~~~~」
何も、出来なくて、僕は邪魔にしかなっていないと思っていた。
でも、そんな僕でも雫の役に立てたんだ。
こんなにうれしい事は無い。
僕が一人、喜び、空を見上げていると、
ぬっ、と。
雫が僕の顔を覗き込んできた。
「うおっ、な、何?」
困惑する僕を無視して、雫は僕に覆いかぶさる様な体制になる。
「・・・・人和、私の目的は一族の復活。世界を冷やす事じゃ、無い」
「あ?ああ、そうか。そうだね」
言われてみれば、その通りだ。
途中から、すっかり目的が世界を冷やす事になっていたので忘れていた。
「・・・・そこで、人和。お願いが、ある」
「な、何?」
雫の今までとは違った雰囲気に僕の鼓動も自然と早まる。
「・・・・私と結婚、して」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「・・・・やっぱり、ダメ?」
「い、いや、ダメも何も、あんなに僕との結婚断ってたじゃん!それが、今更どうして?」
「それは、人和がマジシャンで、人間じゃないと思ってたから」
?
余計に分からない。
人間じゃないと思っていたから何だというのか。
「あのね、人和。雪女は、人間とじゃなきょ、子供を作れない一族なんだよ?」
「・・・・・・へ?」
またしても、間抜けな声が出てしまった。
・・・・ああ、でも、それを踏まえて考えると、雫の今までの言動も納得がいく。
何で、子供を作りたいのに結婚を拒まれるのか釈然としなかったけど、そういう事だったのか。うん。
一人で納得していると、雫が不安そうな顔をしてきた。
「・・・・あんなにたくさんの人を殺した私が、新しい命を授かりたいなんて言うのが間違っているのは分かってる。でも、それでも・・・・・・」
その瞳に、涙を浮かべ、しかし僕から目を逸らさず、雫は願う様に僕を見つめる。
―――――そうなんだ。
雫は、多くの人を殺した。
その中には、石神さんと杉林も含まれている。
それは決して許されないし、僕も許す気は無い。
でも、だから、だからこそ・・・・!!
「・・・人の命はそんなに軽くない。殺した事実は消えてはくれない」
「えっ・・・・」
雫の顔が、絶望に彩られる。
瞳からは一筋の涙が伝う。
僕はそれを、指で拭った。
「きっと、一生かかっても、雫の罪は償いきれない。だから、その罪僕が半分背負うよ」
「それって・・・・」
雫の唇は震えていた。
せっかく拭いたのに、また瞳には涙があふれ出していた。
もう一度、僕は雫の涙を拭った。
指先がうっすらと凍り付いていくが、気にしない。
僕だって、雫の為になら人間が死んでもいいと思って行動したんだ。
なら、雫と同罪だろう。
僕は―――――笑った。
「石神さん達を殺した事は許さない。でも、雫を愛してる。だから―――――――」
あの、ホントに完結までにスパンがあいてしまってすいませんでした。
言い訳させてもらうと、Wi-Fiの次はパソコンが壊れました。はい。
その内また新しい作品を投稿させてもらおうとは思ってますけど、その時はこうならない様に気を付けます!




