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真東京に流れる噂は、私に興味を抱かせずにはいられない

 ―――――母様がこの世界からいなくなってから、そろそろ半年が立つだろうか。

 私は今どきの人間が着る様なシャツとスカートを着て、一人、真東京を歩いていた。

 上はボーイッシュな七分丈の桃色シャツで、下は太ももにかかるくらいの白いスカートで、背中にリュックを背負っている。

 ファッションというものは、人間の価値観でしかしかないので正直よく分からない。

 だからこの服も、人間の雑誌を適当に見て用意した。

 まあ、道行く人が私に訝し気な視線を向けて来ないから、上手くコーディネート出来たんだと思う。

 それにしても、本当に人が多い。まるでゴミの様だ。

 真東京ならどこでも多いんだろうか?



 真東京。


 私はこの半年、人間についての知識をたくさん調べて身に着けて来た。

 それによると真東京は元々、東京と言う名前の都市だったらしい。

 昔から、相当数のビルが立ち並ぶ日本の中枢であったのは間違いないが、ここ数年でその数も規模も格段に大きくなったのだそうだ。

 まさしく、摩天楼。

 ビルとビルの間を縫う様にして、道が引かれ、そこを忙しなく車と人が行きかっている。

 初めて真東京を訪れる者なら、その迷路の様な道に、間違いなく迷う事だろう。

 実際、私は迷っている訳だし。

 何せ、周囲を囲むビルに阻まれ視界が制限されてしまって、遠くが見渡せない。

 こんな事、私達が住んでいた雪山では有り得なかった。

「全く、人間は何を考えてこんな迷路みたいな町を作ったのかしら」

 もはや私には、自分が今どこにいるのかさえ、分からない。

「ふう」

 私は疲れて、空を見上げ、ため息を零した。

「・・・・・ホント、おっきいなあ」

 先程から、どこにいようと、どんなに道に迷おうと、空を見上げればずっと見えている物がある。



 ――――グラビティツリー

 あの巨大な塔は、そう呼ばれている。

 元はスカイツリーと呼ばれる電波塔だったらしいが、改築に改築を重ね、いつの頃からか、そう呼ばれる様になった建造物。

 世界一高い電波塔であり、磁力塔だ。

 グラビティツリーになる際に真東京中の磁力を制御する為に、磁力塔としても使われるようになったらしい。

 その高さは、摩天楼と呼ばれる程になった他のビル群をも圧倒する。

 だから、見えるんだ。

 空を見上げれば、ビルの頭を超えて悠然と聳え立つ、グラビティツリーが。

 この塔のおかげで、私も道が分からなくなってもまだ何となくは自分の位置を知る事が出来る。

 どこからでも見失う事の無いその塔は、人々に道を示す目印として、打って付けだった。

 地上を照らす灯台、とでも言うべきなのかな。

 そう。

 まさに、それは灯台なんだ。

 あらゆる面で圧倒的な、人類の科学を終結して作られた建造物。

 この巨大な建造物を作った人間が滅びる事など、誰も疑うどころか、考える事すら出来ないだろう。


 それは、まるで、人類の未来を明るく照らす灯台の様で――――――



「ねえねえ、聞いた?またあの仮面被った変態男、出たんだって」


 ふと、私の耳に気になる声が飛び込んできた。

 それは学校帰りの女子高生が発した言葉だった。

 中々に真面目そうな、傍から見れば優等生に見える女子高生だ。

「ああ、知ってる。あの変態でしょ?」

 その女子高生に答えたのは、友達だろう。同じ制服に身を包んだ、こちらも女子高生。

 最初に言葉を発した女子高生と違って、制服を少しだけ着くずしている。

 が、見る者に嫌悪感を与える程ではない。あくまで、ファッションとして、成り立つ範囲内だ。別に不良という訳でも無いのだろう。

 二人は、私の少し前を楽しそうにお喋りしながら歩いている。

「そうそう。え~と、あの変態、自分では何て名乗ってたっけ・・・・。う~ん、忘れちゃった」

 最初に言葉を発した、優等生に見える女子高生は、てへ、とわざとらしく舌を出した。

 見た目とは裏腹に、案外、やんちゃな性格なのかもしれない。

「あはは。ま、いいんじゃない?名前なんて分からなくたって、変態に変わりないんだし」

 制服を着くずしている方の女子高生は、友達が多少なりともぶりっ子なのを、元々知っていたんだろう。

 舌を出したのを、気にした様子も無い。

 その言葉を聞いて、優等生に見える女子高生はこくりと頷く。

「それもそうね。で、話の続きなんだけど、あの変態仮面、今度は大脱出マジックだって言って、ビルを爆破したらしいよ」

「何それ。意味わかんない。ちょ~ウケるんですけど!!」

 制服を着くずした方の女子高生が、ケラケラと笑う。

 それを見て、優等生に見える女子高生も笑い出した。

「ね~、ちょ~ウケるよね~。何考えてるか意味わかんないもん」

「それに、あれじゃん?あいつ、喋り方、変じゃん?ふはははは!とか、言ってるし」

 そう言って、制服を着くずした女子高生は口元を引き結び、噂の仮面を被った変態男の笑い声を真似て見せる。

「キモいよね」

「ね~。ホント、キモい。早く逮捕されないかな。あの変態」

 そこまで言うと、また二人は笑い出した。

 ひとしきり笑ってから、話を再開した。

「今度はどこに出るんだろうね?」

「案外、ここかもよ?ほら、あいつ人が多くいる所なら、どこにでも出るじゃん?」

「それ、フラグじゃない?」

「あはは~、まさか~。マンガじゃあるまいし―――」


 その言葉が言い終わるかどうかのタイミングで。


『ふははははははは!』


 辺り一帯にバカの様な高笑いが響き渡った。

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