ここで死んで
―――――嘘。
私は人和が何を言っているのか、意味が分からなかった。
いや、分かりたくなかったのかもしれない。
だって、人和は自分をマジシャンだと名乗った。
不思議な力も何度となく見た。
これだけで十分私には理解できた。
人和は、―――――マジシャンという種類の妖怪なんだと。
だが、先程の人和の言葉が、人和が妖怪であるという事実を信じていた私の心を揺さぶる。
ねえ、人和。何で、人間だなんてバカな事を言うの?
「・・・・だって、あなたは、マジシャンだって」
思わず、私の口から言葉が漏れる。
「――――――マジシャンは人間の職業の一つなんだよ、雫」
一つ。
「・・・・だって、あなたは、人間から追われていて」
「――――――それは僕が犯罪者だからだ」
また一つ。
「・・・・だって、あなたは、不思議な事がたくさん出来て」
「――――――それはマジック。種と仕掛けで出来ている。魔法じゃない」
「う、嘘よ!!でも、だって!!あなたは、ビルの屋上から飛び降りても、死ななかったわ!!そんなの人間に出来るはずない!!!」
種も仕掛けも関係ない。
人間では説明のつかない頑丈さを、人和は持ち合わせているんだから。
「――――――あれは地面に激突する直前まで、腰にワイヤー・・・・丈夫な紐が付いていたんだよ。途中で切れちゃったけど。あと、仮面も丈夫だったし」
「・・・・・!」
私は言葉を失った。
それすらも種と仕掛けで作られた出来事だったなんて。
全て―――そう、全てが否定されてしまった。
これでは、本当に―――――
「―――――もう一度、言うよ、雫。僕は、人間だよ」
「・・・・・あ」
その言葉を聞いて、私は理解した。
「・・・あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
人和だけは、味方だと思っていた。
自分以外、全ての雪女が死んだこの世界で、同じ妖怪で、私の目的に共感してくれた人和だけは。
なのに、人和が人間?
だから、私が人間を殺したのに、過剰な反応を見せたのか。
という事は、人和は私でなく、人間の味方?
そう。
つまり。
――――――誰よりも、雪女や、妖怪を詳しく理解してしまった人間。
危険だ。
危険すぎる。
人和にその気が無かったとしても、その情報がもれれば、今後どのような悪影響が妖怪達を襲うか分かったものでは無い。
それに――――
ひとしきり叫んだ私は、肺の中の空気を出し切り、声が止まった。
「雫、僕は人間だ。だから、君の目的は阻止しなくちゃいけない」
その一瞬の静寂の中、人和の言葉だけが私の耳に届く。
阻止するの?人和が?私の雪女一族催行の夢を?
協力してくれるって言ったのに。
「・・・・させない。絶対に」
私は敵意をむき出しに、人和を睨みつけた。
「・・・・あなたは、邪魔。人和、――――――――ここで死んで」
はらりと、私の胸元から何かがこぼれ落ちた。
それは四つ葉のクローバー。
今では凍り付き、真っ白くなってしまった四枚の葉――――。
私が人和を睨みつけていると、人和は―――――笑った。
「それは出来ない相談だ。まだ、自分の罪を償っていないんでね」
グラビティツリー。その頂上で。
人和と私の―――――人間と雪女の運命を決める戦いが始まった。




