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初めてのデートで、僕は雫の美しさを再確認した

 別に、真東京が摩天楼だからと言って、自然が全く無い訳じゃ無い。

 この真東京自然公園が正に、その証だ。

 立ち並ぶビル群の中に一か所だけ、緑が生い茂る公園が設置されていた。

 もっぱら、真東京に住む人々の憩いの場として使われていたりする。

 平日の今日も多くの人で賑わう人気スポットだ。

「どう?美味しい?」

 が、流石に公園の隅っこまで人で賑わっている訳では無い。

「・・・・うん、美味しい」

 僕と雫は、公園の隅に設置されたベンチに腰掛け、アイスを頬張っていた。

 僕が最近人気の抹茶アイス。雫はスタンダートなバニラアイスだ。

 僕はリュックを背負い、雫はバックを肩に欠けている。

 ここなら人通りも無いし、雫を連れ出しても問題ないと判断したんだ。

 それに、この場所でどうしても雫にはしないといけない事があるし・・・・・。

 てか、これはもうあれじゃなかろうか。

 世にも有名なデート!!

 うん。間違いない!

 男女が二人で公園のベンチに腰掛け、アイスを食べる。

 僕がその光景を見れば、バカップル死ねと思うのは必至!!


「それは良かった」

 雫がバニラアイスを食べて笑顔になったのを見て、僕も自然と笑顔になる。

「やっぱり、雪女だもんね。冷たい物の方が好きだよね」

「まあ、そう。別に温かいものが食べられない訳じゃないんだけど」

 言いながら、雫はもう一口、バニラアイスを口に運んだ。

 冷たいアイスを食べるその顔は、幸せそのものだ。

「・・・・・良かったら僕のも食べる?」

「・・・・いいの?」

 人和が差し出した抹茶アイスを見て、雫は驚いた表情を浮かべた。

「いいともいいとも。むしろ、僕としては間接キスになって、その方がうれしゲフンゲフン・・・・・、何でもない」

「・・・・ありがとう」

 雫はまた、笑顔になり、僕からアイスを受け取った。

 そして、抹茶アイスを頬張り、幸せそうな笑顔を見せる。

 左手にバニラ、右手に抹茶を持って微笑む彼女は、見た目以上に幼く見えた。

 その姿が、また一段と可愛らしい。

 ついつい、僕の口元も緩むというものだ。

 そう。ただ、可愛らしいから、口元が緩んだのであって、決して関節キスが成功したからニヤけている訳では無い。ほ、ホントウダヨ?


「にしても、昨日はびっくりした。夜遅くに帰って来たと思ったら、そのまま玄関で寝ちゃうんだもん」

「あ~~、昨日は完全に飲み過ぎたんだよ。いしが・・・・」

 ――――石神さんにあってね。そう言おうとして、しかし僕は途中でその言葉を飲み込んだ。

 ほぼ間違いなく僕らの敵になるであろう男と一緒に仲良く酒を飲んでいたと、雫に伝えるべきではないと思ったんだ。

 せっかく直った機嫌がまた悪くなりそうだし。

 それに、最後に石神さんが言った一言も気になった。


『あの白装束の女は本当に気を付けろよ。あいつは・・・・・、危険だ』


 こんなにも可愛い雫の何が危険なのか、僕には全く分からなかったが、どこか引っかかるところがあり、雫に伝える気になれなかった。

「・・・・?どうしたの?」

「い、いや、何でもないよ」

 僕が言葉を濁していると、


 がさり

「ん?何だ?」

 不意に、草木がこすれ合う音が僕の耳に届いた。

 振り返ると、道の脇に生い茂る草木。

 その間から一匹の黒猫が顔を覗かせていた。

 痩せているし、首輪も無いところを見るに、間違いなく野良猫だろう。

 その猫は顔をこちらに向け、見つかっていると分かっているはずなのに、逃げる素振りも見せない。

「・・・・猫?」

 当然ながら、雫も猫に気付いたらしい。

 逃げない猫に興味を持ったのか、ベンチから立ち上がり、猫の元まで歩いて行き、その近くでしゃがむ。

 が、猫は逃げない。

 誰もが知っての通り、猫は警戒心の強い動物だ。

 しかも、野良ともなれば尚更だろう。

 それを考えれば、この逃げない猫は異様だった。

「いったい、何なんだ、この猫?」

 僕も近くまで歩いて行き、猫を覗き込む。

「にゃーー」

 が、猫は一声鳴くだけで、僕の方を見ようともしない。

 先程は遠くて、猫が何を見ていたのか分からなかったが、近づいた今なら分かる。

 この猫は、雫の握るアイスを凝視していたんだ。

「・・・・欲しいの?」

 雫も猫が何を見ていたのか、理解したらしい。

 バニラアイスをすっと猫の前に差し出した。

「にゃ」

 猫は短く声を上げると、アイスを舐め始めた。

 この暑い真東京で食べるアイスは、猫でもさぞ美味い事だろう。

 猫にアイスを分ける雫。

 この瞬間を切り取って絵画にでもしておきたいくらい、美しい光景だった。

 は~~、雫、優しいな~~~。

 雫は暫く猫がアイスを舐める様を微笑ましく見つめていたが、やがて僕へと視線を向けた。

「・・・・この猫、大分弱っている様だけど、どうして?確かにこの町は動物が住むには暑すぎるけど、それだけでここまで痩せるとは思えない」

 ・・・・・・まあ、こんなに痩せた猫を見たら疑問に思うのも当然だよな・・・・。

 あんまり、人間の悪口を言うのは好きじゃないんだけどなぁ・・・・。

 時に、人間は失敗する。

 その失敗を無理やり隠そうとする。

 それは勿論良く無い事だ。

 僕でもそれくらいは分かる。

 それに、愛する雫に嘘を言う訳にもいかない。

 僕は、短くため息を付いた後、言葉を発した。

「磁力だよ」

「・・・・磁力?」

「そう。磁力だ。いま、この真東京は磁力都市とも呼ばれている。地球温暖化を食い止める為に、もっともエコな磁力を使ったモデル都市なんだ。あらゆる動力が磁力と電力で補われているわけ。当然、二酸化炭素は出ないから、クリーンだし、地球に優しい、とされている」

 ――――僕はこの話が好きじゃない。

「・・・・磁力で自然を良くしようと、頑張ってるのは分かった。でも、それのどこが猫と関係あるの?」

 ――――この話は人間の失敗そのものだから。

「まあ、そう急かさないでよ。・・・・この真東京の地面には無数の磁石が埋め込まれてるんだ。その磁石と反発して物を浮かせる為、というのが主な理由さ。だが、そんな事をすれば、色々なところで影響が出てくるのは当然だろう?」

 ――――人々を笑顔にしたい僕が、人間の悪口を言ったら、誰も僕に笑顔を向けてくれなくなるんじゃないかと思えて。

「そう・・・なの?」

 ――――でも、それ以上に、雫に隠し事をするのはもっと嫌だった。

「うん。そうなの。・・・・人間はまだいいんだ。例えば、心臓に着けるペースメーカー。これは磁力の影響を受けてはいけない代表的な機械だけど、磁力社会になるにあたって、脱磁処理が施されている。他の機会も動揺さ。だから、人間たちにとって、磁力社会になるにあたってのデメリットは既に解消されているんだ。だけど、動物たち、特に野生の奴らはそうもいかないんだよね」

「・・・・何で?」

「動物は、その多くが磁気で方向感覚を掴むからだよ。そこら中の地面に磁石なんか埋め込んだら、方向感覚が狂って、自分がどこにいるのかさえ、分かりゃしないだろうね」

「それって・・・・」

「ああ。野生動物として致命的さ。食べ物が取れないだけじゃない。自分の巣に帰る事も出来ない生き物もいっぱい出てくるだろう。いや、実際に出てきてるんだ」

 そう。磁力社会になってからというもの、動物がそのせいで数多く死んでいるのは事実だった。

 何とか、地球全体の気温上昇を食い止めようと頑張った結果、人類は別の問題を生み出してしまった。皮肉なもんだ。

「・・・・酷い」

 雫はその美しい顔を悲しみで歪ませ、抹茶アイスの食べ終わった猫を抱き上げた。

「にゃ」

 抱かれた事に驚き、雫の手の中で身じろぎする猫だが、丁度、目の前に来たバニラに気が付くと、抱かれている事も忘れたのか、一心不乱にバニラアイスを舐め始めた。

 そんな猫を雫は目元に涙を浮かべて見つめる。

「・・・・ご飯もまともに食べられなかったんだね・・・・。辛かったね・・・・」

 雫本人は気付いていないかもしれないが、猫を抱く力が少し強くなった様だった。

「優しいな・・・雫は」

 一言、雫にも聞こえない声でそう漏らすと、改めて、雫に向き直った。

「でも、磁力社会に影響を受けるのは、人間や動物だけじゃないんだ」

「・・・・まだ、他にもあるって言うの?」

 雫はつらそうに人和を見上げる。

「ああ、それは・・・・」

 すっ、と。

 人和は近くの草むらを指さした。

「植物だ」

「・・・・植物?」

 雫が人和の指先をおって顔をそちらに向けると、そこにはたくさんのクローバーが咲いていた。

 丸い、白い花を付けたそれは、華やかでこそないものの、美しく、自然を感じられる。

 とても磁力社会での影響を受けている様には見えない。

「私の故郷の山でも見かけるわ。クローバーね。花もきれいに咲いているけど・・・これが?」

 雫は、訝し気な視線を僕に向けて来る。

「近くで見てみれば分かるよ」

「・・・・?」

 言われた雫は、アイスを食べる猫を腕から下ろすのも忍びなかったのだろう。

 猫を抱いたまま立ち上がり、クローバーが生い茂る草むらの前まで歩いて行く。

「・・・・!!これは・・・・・」

 まじまじとクローバーを見つめた事で、雫も気付いたらしい。

「・・・・・そう。ここのクローバー、ほとんどが四つ葉なんだ」

 四つ葉のクローバー。

 それは、本来、幸せの象徴、とされている。

 殆どが三つ葉であるクローバーの中から、四つ葉を見つける難しさから、それを見つけた人は、幸せも見つけられるとか、そんなところだろう。

 が、幸せの象徴も、こんなにあるとまるで幸せを感じない。

 むしろ・・・・、

「・・・・ねえ、何でここのクローバーは四つ葉ばかりなの?」

 雫が、クローバーを見つめながら、聞いて来た。

 僕からは雫の背中しか見えないので、雫が今、どんな表情をしているのか、知る事は出来ない。

「野生動物と同じで、磁力だよ。まあ、気温や、気候の変化もあるかもしれないけど、そこら中からずっと変な磁気を受けていたら、そりゃあ、植物も変になるさ」

 クローバーとは、基本的には三つ葉で生えて来るものだ。

 クローバー的には三つ葉で生えてくるのが正常なのだ。

 四つ葉は異常。

 遺伝子に決められた通りには、何らかの理由でなれなかったのが、四つ葉だ。

 つまり、今目の前に広がる草むらに生えるクローバー達はみな、狂っているのだ。狂わされているのだ。人間の、身勝手な行動によって。

「にゃ」

 バニラアイスもコーンのところまでも食べつくした猫が満足そうな声を上げて、雫の手から飛び降りた。

 危なげなく地面に着地すると、一つ伸びをし、雫の足にすり寄る。

「どうやら、大分懐かれたみたいだね」

 場の空気を和ませたくて、僕は明るい声で言ってみた。

 が、雫はこちらを振り向きもしない。

 すり寄る猫も見ない。

 クローバーの前でしゃがむと、近くに生えている四つ葉のクローバーを一つ、摘み取った。

 そして、立ち上がり、僕に振り向く。

 その顔が抱く感情は怒りか、悲しみか。

 僕には分からない。

「・・・・でも、一番悪いのは、私なのよね・・・・・・・」

「えっ?」

 雫の発した言葉が小さすぎて、僕は思わず聞き返した。

「・・・・ううん、何でもない」

 雫は首を横に振る。

 それ以上の追及を望んではいないのだろう。

 雫が嫌がる事を、僕が出来るはずも無い。

「さ、『八角氷雪陣』の準備も終わったし、行こ」

 雫が微笑む。

 その手に握られているのは四つ葉のクローバー。足元にはすり寄る黒猫。

 ――――人間達により、被害を受けた彼らは、まるで互いに互いを慰め合っているかのようだ。

 だが、そうやって微笑む雫を僕は―――――

 きれいだ・・・・・。

 純粋にそう思った。

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