石神と飲む酒は、案外楽しくて美味い
カランカラン
僕はバー『フィレット』の扉を開けた。
二十歳を迎えた今、何気にオシャレなバーで飲むのが好きになっていた。
だって、かっこ良くない?
そう。バーで飲むのはカッコいい!間違いなく!絶対に!!
だから、別に雫と一緒にいるのが辛くなったとかじゃないんだよ?
ほ、ホントだよ?
まあ、雫も明日になれば許してくれるとは思うんだけど・・・・。
結局、どんな問題でも時間が解決してくれる部分というのは間違いなく大きい。
「マスター、いつもの」
「はい、カシスオレンジですね」
席に着いて、常連になってしてみたかった注文方法をしてみる。
そうそう、これがしたかったんだよ。
一分と待たない内に、僕の前にはカシスオレンジが置かれる。
ちびちびとそれを飲みながら、雫と出会ってからの出来事を思い出した。
雪女の雫。最後の雪女。
彼女が僕を助けてくれなかったら、今頃は刑務所の中だ。
それを思うと感謝してもしたりない。
今度は僕が雫を助ける番だろう。
それにめっちゃかわいいし。ちょっと怖いけど。
助けるという名目で彼女の傍にいられるのは僕にとってかなりの役得だ。
「何だ、お前、この店でカシスかよ」
ふと、隣の客が話しかけて来た。
うるさいなあ。
この絡み方は完全に酔っ払いだろう。
面倒だから無視しよう。うん。
「そんなジュース飲んでないで酒を飲めよ酒を。何なら俺の芋焼酎分けてやろうか?ん?」
あー、うるせえ。
何なんだ、こいつ。
せっかくのいい気分が台無しだ。
「結構。僕はこれが一番好きなんで」
顔も向けずに僕は答える。
「何だ、ガキみたいな事言いやがって・・・・・ん?お前、本当にガキじゃね?二十歳になってる?」
「失礼な。今丁度二十歳だよ」
「おう。そうか。なら良かった。もし二十歳になってなかったら逮捕しないといけない所だったぜ。ガハハハ!!」
「は?逮捕?まるで警官みたいな事を言うんだね?」
「まるでも何もマジモンの警官よ。ほれ、警察手帳」
「ん?」
そこで僕は初めてその男の方を振り向いた。
そして、男が見せびらかしてくる警察手帳と、男の顔を見る。
その顔は、エラが張ってて角ばった五角形をしていた。
「おれは、石神ってんだ」
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「うおおぅっ!?な、何しやがるいきなりカシス吹き付けんじゃねえ!!」
「げ、げえほっ、げほっ」
石神が騒ぎ立てるが、それどころじゃない。
は?てか、え?石神?あの僕を逮捕寸前まで追い込んだ?ヤバいじゃん、逃げないと!
ガタタッ
椅子から立ち上がり、僕は逃げようと――――
「全く、何慌ててんだ?本当は未成年なのか?」
―――――ん?
おかしい。僕の顔を見たというのに、石神が僕の正体に気付いた様子がまるでない。
て、ああ!そうじゃん!僕、石神の前ではずっと仮面被ってたから正体バレてないんじゃん!
はあ・・・・、何か杉林でも似た様な事やったな・・・・・。
「い、いや、二十歳ですとも。そこは間違いなく」
ここで慌てて逃げればむしろ怪しまれる。
僕は平静を装い座り直した。
「そうか。まあ、いいや。今日は一々年齢確認する気にもならんしな。せっかくだ。ちょっと俺と一緒に飲んでけよ。えーと・・・・」
「人和です。いいよ。飲もうか」
この機会に石神の事を知っておくのもいいかもしれない。
何せ、今後の僕たちの障害になりえる男なのだから。
・・・・・にしても、何で石神も黒いスーツ着てるんだろう?
警察の中で今日は特別なイベントでもあったのか・・・?
いや、でもそれなら制服を着るだろうし・・・・・。
う~~ん。分からん。
「ふ~ん。しゃれた名前してんな。じゃ、かんぱ~~い!」
「かんぱーい!」
僕は石神と乾杯した。
「やっぱ、尻だろ!尻!!」
「いやいや、うなじだって!!」
「っか~~~~、分かってねえな!女はプリッとしたケツがいいんじゃねえか!!」
「違うだろ!あの雪の様に白いうなじを舐めまわすのを想像するのがロマンじゃないの!!」
僕と石神は睨み合い、
「ぶっ、ははははは!!!」
「あははははは!!」
二人して同時に笑った。
なにこれ、楽しい。よく分かんないけど凄い楽しい。
えーーと、何杯飲んだっけ?
五、六杯は飲んだと思うんだけど・・・・・・、ダメだ。よく分かんない。ふはははは。
「ガハハ、何だ。気が合わねえな」
「全くだね!」
「だが待て。今の質問はお互い、女の体で二番目に好きな部分はどこか。だったな?勿体ぶってたがやっぱり、一番好きな部分が最も大切なのは必然」
「まあ、それは間違いないね」
「そうだろう?じゃあ、いってみようか。その栄えある第一位は・・・・」
一呼吸置いて、僕と石神は同時に声を上げる。
「胸だ!!」
「顔だね!!」
またも意見が食い違った!!
てか、胸ってなんだよ!それより顔だろ!まったく・・・・・。
「・・・・くっ」
「・・・・ぷっ」
二人して顔を見合わせ、
「「はははははは!!!」」
同時に笑った。
「あ、合わねえ~~。全く気が合わねえな!」
「ホントね!何かもう、仲良く出来る自信ないわ!」
「何だとこいつ~~!」
「ぎゃ~~」
石神が笑いながら僕にじゃれ付いてくる。何だこれ、楽しい。よく分かんないけどすげえ楽しい。
「凄く仲良いじゃないですか・・・・」
マスターは一人呆れながら、呟いていた。
一通りバカ騒ぎして、やっと僕らは落ち着いた。
「あ~、笑った笑った。悪かったな人和。付き合わせて」
「いえいえ、僕も楽しかったですよ、石神さん」
僕はそろそろ時間も遅いので帰ろうと思うのだが、石神さんはまだ飲んでいくらしい。
見た目通りタフだなあ。
「しかし、世の中も捨てたもんじゃないな。人和みたいな若者もいるんだから」
「若者って・・・・、二十歳はもうそんなに若く無くない?」
「あ?お前ふざけんなよ。めっちゃ若いだろうが」
「・・・・まあ、石神さんからしたらそうかも。ちなみに石神さん年いくつ?」
「俺は今年で三十三だ」
―――あ、思ったより若かった。
四十代かと思ってた。老けてるな~~。
「・・・・・おい、今失礼な事考えただろう」
「・・・・・か、考えてない」
「・・・まあ、いいや。気を付けて帰れよ。最近はシルクハットボーイと白装束の女がうろついてて危険だからな」
ビクリッ
僕の肩が跳ね上がる。
「だ、大丈夫だよ。あいつらも人に危害を加える事はそうそうしないだろうし」
ていうか、するつもりないし。
「シルクハットボーイは、まあ、そうかもな・・・・」
どうしよう。話がだんだんマズイ方へ転がり出した。
「じゃ、じゃあ僕はこれで」
席から立ち上がり、会計を済ませようとマスターの元へ・・・・
「待てよ」
「っ!!」
――――ヤバい。正体がバレたか?
「付き合ってくれた礼だ。会計は俺が払っておく。人和はもう帰りな」
・・・・よ、良かった。バレてはいないらしい。
「いやでも・・・・」
「いいからいいから」
何となく、石神さんの性格が分かって来た。ここは奢ると言ったのだから、絶対に僕が会計を済ませて帰る事を良しとしないだろう。
「すいません。じゃ、お言葉に甘えて・・・・」
「おう。あ、最後にさっきの話の続きなんだがな」
まだ何かあるのか。さっきから正体がバレそうで僕は怖いんだけど。
「シルクハットボーイはともかく、あの白装束の女は本当に気を付けろよ。あいつは・・・・・、危険だ」
「はあ・・・、ご忠告どうも」
正直、何が危険なのかまるで分からない。
確かに、雫の使う魔法は凄まじいけど・・・。
「あ!!」
「?どうした?」
忘れるところだった。
せっかく石神さんに合えたんだから、最後にこれだけは言っておかないと。
「いや、実は今日の昼頃偶然にも石神さんを探してるっていう杉林さんに合ったんですけど・・・・、石神さんの事、ゴリラって言ってましたよ」




