怒った雫は怖いけど、それでも優しいところもある
「ただいま~~!!」
買い物も終わり、僕は玄関のドアを開けた。
ぜひとも今日は「お帰りなさい、あ・な・た」と言って出迎えて欲しい。
今日に限らず今後全部だけど。
でもダメだろうな・・・・。
どうせ、「・・・・あ、お帰り」とかだろうな・・・・。
「って、あれ・・・?」
と、思っていたんだけど、違った。
今日は「・・・・あ、お帰り」すら無かった。
というか、雫がいない。
僕の住む部屋はそんなに大きくも無いので、玄関を開けると短い廊下を挿んですぐにリビングがある。
そのリビングに置かれたソファーが雫の定位置なのだが、見当たらない。
「どこ行ったんだ・・・・?」
まさか警官に見つかるとまずいこの状況を、理解していない訳が無いし、外に出たとは考えにくい。
じゃあ、いったいどこへ――――
ガチャッ
「ふうっ・・・・」
「あっ・・・」
「えっ?」
不意に、洗面所のドアが開き、中から雫が出て来た。
なーる。風呂に入っていた訳ですか。納得。
その雫はタオルを一枚体に巻き付けただけの、何とも無防備な格好をしていた。
僕が家にいなかったから、その格好でも大丈夫だと思ったんだろう。
でも、それも我が家に慣れてくれた証拠か。そう考えると少し嬉しい。
「なっ・・・・!なっ・・・・!!」
にしても、真っ白だな。
最初にあった時から白いとは思っていたけど、改めて見るとその白さは想像を超えて、神秘的で幻想的だった。
人間では有り得ないだろう。
全くシミも、日焼けも無く透き通る様な白い肌など。
そして胸。
着物の上からじゃよく分からなかったけど、これは想像以上にあるんじゃないか・・・・?
せいぜいCくらいのもんかと思ってたけど、Dはあるかも・・・・・。
あと、雫の体から立ち上る湯気が、何というか・・・・、その、ちょっとエロい。
いや、でも何か寒いな・・・・。
あ、これ湯気じゃなくて冷気か!
そりゃそうか。
暑いのが無理な雪女が、お湯に入る訳が無い。
水風呂にでも入ってたのかな。
まあでも、それもいい!
水も滴るいい女って感じで。
乾ききっていない黒髪も、これまたエロいよね!!
「あ~~、雫。その・・・・、何だ。うん。エロいね!ありがとう!!」
「死ねっ!!!!」
凄まじい蹴りが、僕の顔面を襲った。
・・・・女の子が死ねなんて言っちゃダメだと思います。
*
「人和、あなた何なの?バカなの?死にたいの?」
僕は、着替えた雫に廊下で正座させられ、叱られていた。
いつになく雫が怖いです。
「いや、僕も悪かったと思うよ?雫をずっと凝視しちゃって・・・・・。でも、ほら僕も男な訳だし、そこらへんはもうしょうがないと割り切ってもらわないと・・・・・。それにほら!僕怪我人だよ?額とか、まだ割れてるんだよ?もっと労わってほしいな~~なんて・・・・」
「・・・・言い訳はそれだけ?」
「あ、いや、何でもないです。すいませんでした・・・・・」
・・・・マジで、いつになく雫が怖いです。
「ふう・・・・、もういいわよ。で、買い出しは終わったの?」
「はい。終わりました。もう明日から行けます」
「そう。分かったわ」
わーお、素っ気ない。
雫はそれだけ言うといつもの定位置であるソファーまでゆっくりと歩いて行き、座った。
明らかに機嫌悪いですっていうオーラが見え隠れしている。
「・・・・はあ、まさか協力を頼んでいる立場にある私が、こんなに人和を怒るなんて、思いもしなかったわ」
ふっと、雫が笑った。
その表情には、呆れの中に、もうしょうがないんだから的な感情が見え隠れしている。
あ、これは僕を許してくれる雰囲気だね!
「そうだよ。僕は雫に協力してるんだから、もっと優しくしてよ!」
「でも、それとこれとは話が別」
別なんですか。そうですか。
雫ってすっごい美人なんだけどな~。
怒ると怖いんだな~。
いや、普段顔が恐ろしいまでに整っているから、怒って歪んだ時、怖さが倍増するのかも知れない。
つまり、美人の怒った顔は怖い。
初めて知ったよ。うん。
「・・・・で、人和。今日買った物を整理するんでしょ?手伝うから何すればいいのか教えてよ」
「え・・・・、手伝ってくれるの?」
「そう言ってるでしょ。早くしてよ」
怒っていても雫さん優しい!!
「ありがと・・・。ホントにありがと」
何だか嬉しくて目元に溜まった涙を僕は拭った。
こんなん、惚れてまうやろーー!!
「でも手伝い終わったらリビングから出てってね?このリビングってカギとか掛けられる?」
あ、でも許してはくれないんですね。そうですか。
「ははっ・・・・」
乾いた笑い声を洩らしながら、僕は買い物袋をあさった。




