ザンボエンチョーで出会った杉林は、何だかんだで取りあえずうざい
――――警察に捕まりそうになったあの日から数日。
「ふんふんふーーん、ふふふふふーーーーん♪っへい♪」
僕は仕えそうなものを、手当たり次第に籠に放り込んでいった。
ここは近所のザンボエンチョー。
案外、ここにはマジックに仕える道具が揃っているので昔から重宝している。
あの警官達に捕まりかけた時に、持ち物の殆どは没収されてしまった。
だから、雫の手伝いをすると決めた以上、準備の為にここに来るのは至極当然の成り行きだった。
が、肝心の雫は今この場にはいない。
僕は仮面を被っていたから見られてはいないんだけど、雫はガッツリ警官に顔を見られてしまっている。
そんな雫を外に連れ出す事は、怖くて、よっぽどの理由が無い限りは出来なかった。
見られていない僕でさえ、外堀が冷めるまでは外への外出を控えたくらいだ。
因みに、その雫は只今我が家でお留守番して頂いている。
聞けば、真東京に住む場所がないらしいので、あの後から我が家で暮らしているのだ。
まあ、それは僕的にはむしろウェルカムなんですけどね!!
好きな女の子と一つ屋根の下。
男子ならば誰もが憧れるシチュエーションだ。
別にだからと言って、何をするわけでもないんですけどね。ええ。
それでもテンションは上がるもので、僕はルンルンだった。
買い物している今も、鼻歌だけじゃ飽き足らず、踊り出したいくらいである。
この買い物は、警察に増やされた無駄な仕事で、無駄な出費なのだが、これで雫の役にたてるのかと思うと、気分が良くなってくるから不思議だ。
「ふんふふーん♪」
だがそれもあらかた籠に入れ終わった。
あとは・・・・、造花と、プラスチックの箱だ。
プラスチックの箱は何かと便利で、特にプラスチック爆弾を作る時にはかなり重宝する代物。
それだけ買えば今日の買い物は終わりでいいだろう。
家に帰れば可愛い雫が僕の帰りを待っている。
ぜひ今日は「お帰りなさい、あ・な・た」とか言われたい。
まあ、実際にはこの数日、僕が家に帰ると「・・・・あ、お帰り」くらいのそっけない言葉を、一様言ってあげましたよって感じでかけてくれるだけなのだが。
何だか少しキモがられている感じもするが、きっとそれも照れ隠しの一環なんだろう。
今日は照れないでもっと心のこもったお帰りを言って欲しいものである。
いや、雫がお帰りを言ってくれるのであれば、何だって嬉しいんだけどね!!
家に帰れば雫がいる。
それを思うだけで僕のテンションはどんどん上がっていった。
「ふんふんふふーん♪いえいいえい♪」
思わず、ステップからのターンでコーナーを曲がる。
今なら白鳥の舞とかも踊れそうな気がする。
降りつけ知らないけど。
「うわあっ!」
「うおっ!」
曲がると、すぐそこには人がいた。
当然、美しい弧を描いて角を曲がった僕にはかわす術も無く、どっし―んと、漫画みたいに派手にぶつかり辺り一面に僕の籠の中身がばらまかれる。
「いてて・・・・。ご、ごめんごめん!!」
僕は取りあえず謝った。
明らかに踊りながら角を曲がった僕が悪いのは間違いないんだから、当然だ。
僕は自分が悪いと思ったら、しっかりと謝れる男だ。そこは自信を持っている。
「い、いえいえ。僕も走っていましたから、すいませんでした」
あ、そうなんだ。
相手も走っていたならお互い様か。
その相手は僕の籠を起こし、地面に転がった物を籠に入れ始めてくれた。
「あ、ご丁寧にどうも・・・・・おぉ!?」
「?どうかしました?」
「あ、いや、何でもありません!」
ホントはスゲー何でもあるんだけど。
僕とぶつかったその男は―――――杉林だった。
あの警官の。
一度は僕を逮捕した。厳つくない方だ。
当然、仮面を被っていたから僕の正体がバレてはいないのだが、こうして不意に合うと心臓に悪い。
僕がビビって一歩後ずさっている間にも杉林は籠にどんどん商品を戻していった。
「・・・・これで、全部ですよね?」
杉林は僕に向かってスッと籠を差し出してくる。
「・・・・あ、はい。全部です」
落ち着け僕。平常心だ。平常心。
慌てれば慌てる程、相手には怪しく見えるもんだ。
さも、初対面で、隠し事など何も無いかの様に振る舞うんだ。
ほーら、まずは冷静に杉林を観察してごらん。
相手を知る事が、冷静に振る舞う為の第一歩だ。
って、改めて見ると・・・・、杉林って・・・・。
まず目に飛び込んできたのは、服の上からでも何となく分かるその体だ。
石神程では無いけど、警官だから、鍛えてはいるんだろう。
細身でありながらしっかりと筋肉は付いている。
細マッチョという奴に近いかもしれない。
石神は完全にゴリマッチョだったけど。
うーん、杉林でも、僕素手で戦ったら負けるんじゃないか?
にしてもこいつ、少し頼りなさそうな印象を受ける顔してるけど、十分にイケメンと呼んでいい部類の顔してるな。
モテない男の敵。
当然、雫にぜっさんフラれているいる僕の敵でもある。
イケメン、死すべし。
そして何だか知らないけど黒スーツに身を包んでるな。うん。
このバカ暑い真東京で長袖の黒スーツだ。はっきり言ってバカだろ。
何考えてんだろ。知らんけど。
ふーー、でも人間観察もしてみるものだ。
だんだん落ち着いて来た。
「ところで、メダルとか、トランプとか、ステッキとか造花とか、まるでマジックに使う様な道具ばかり購入するんですね。ははっ、まるでシルクハットボーイみたいだ」
「ぴゃいっ!!」
僕の落ち着きは一瞬でかき消された。
・・・・くっ!すぐにやられそうな顔の分際で、随分と僕を追い詰めてくれるじゃないか・・・・・・!!
「あっ、シルクハットボーイみたいだなんて失礼でしたね。すいません。あんな狂ったバカ犯罪者と一緒にして」
このクソ杉林・・・・!!
「あーいや~~、いいんですよ~~。そうですよね~~。シルクハットボーイは狂ったバカ犯罪者ですよね~~。あんな奴と一緒にしないで下さいよ~~、あははは」
「ええ、重ね重ねすいませんでした。・・・・あ!すいませんついでに聞きたいんですけど、石神っていうゴリラみたいな男を見ませんでした?見た目は四十くらいなんですけど」
・・・うん。決めた。もし石神にチクれる機会があったら、絶対に言ってやろう。
杉林があんたの事、ゴリラって言ってましたよって。
「いや~~、知らないですね~。すいません」
何かもう、お互いすいませんを言い過ぎて、すいません合戦をしているみたいだ。
・・・・何だよ、すいません合戦って。
まあ、それはさておき、杉林が石神を探しているというこの状況は少し気になる。
「どうしました?何かあったんですか?」
僕は、親切心に見せかけた興味本位で杉林に尋ねる。
「ああ、いや、こっちの話ですから」
ふむ。これは明らかに何かあったな。
目が泳いでるし。
そんな事で誤魔化しきれると思っているのか!!
僕がじっと、杉林を見ていると、
「す、すいません。僕は急ぎますのでこれで・・・・」
杉林は逃げ出すようにそそくさとその場を後にしていった。
「可笑しいな~。あの人すねるといつもここのペットコーナーで犬とか見てるからいると思ったんだけどな~。・・・・あ、じゃあやけ酒にでも行ったのか・・・・・」
去り際にそんな声が聞こえてくる。
うん。
結局何だったのかよく分からなかったな・・・・。




