結婚は中々難しいらしく、素っ気なく断られちゃったんですけど
中に入り、雫は辺りを見渡していた。
僕の部屋は、基本的にどこにでもある様な普通の部屋だと思うんだけど。
散らかっている訳でも、きれいに掃除されている訳でもない、まあ適度に散らかっている部屋。
そんな部屋でも、雪女の雫には物珍しいんだろうか?
ああ。もしかして、トランプや、コイン、他にもマジックで使う道具がそこら中にあるのが気になるのかな。
「改めて、わが家へようこそ」
「変わった物がいっぱいある部屋ね」
「まあ、そこらに転がってるのは大体マジックで使う道具だよ。それより、今まで本当の名前を言えなくて悪かったね。警察の前で万が一名前を呼ばれちゃうと、そこから足が付く可能性があったからさ。言えなかったんだ」
「それは、何となく分かってたから別にいいけど」
僕は雫と話しながら引き出しの前まで歩いて行く。
そして引き出しを開け、中からカギを取り出した。
僕が被っている仮面のカギだ。
それを頭の後ろに回し、仮面の鍵穴に差し込み、ひねった。
仮面が外れ、僕――――シルクハットボーイの素顔が露わになる。
「ふうっ、改めて自己紹介をしようか。僕は、人和。世間で騒がれているシルクハットボーイだ。よろしく」
そう言って僕―――――人和は笑いながら手を差し出した。
僕の中で一番爽やかで好青年に見える笑顔だ。
やっぱり、第一印象って大事だと思うんだよ。うん。
そんな僕を見て、雫は目を見開き、息を呑んでいた。
おっ、これは想像以上にかっこよく決まったのか?雫もとうとう僕に惚れちゃったのか?ついに両想い?いや~、参ったなあ~。おっと、ニヤけるな、僕。爽やか笑顔だ、爽やか笑顔。
「・・・・血まみれで、顔が見えない」
「えっ・・・・・」
・・・・・・あっ、そうじゃん。僕、おもいっきり流血してたじゃん・・・・・・。
・・・・なるほど。まさか、雫も初めて見る顔が血まみれだとは思わなかっただろう。息を呑むのも当然か・・・・・。
「・・・・・・くそう、せっかく、かっこよく決まったと思ったのに・・・・・・・」
僕は、顔を洗う。チクショウッ、血が目に染みるぜ!
「・・・・やっぱり、あなた、ダサい」
「ぐっ、そんな事言われても・・・・」
僕は思わず、雫に振り返る。
「・・・・そう、そんな顔してたのね」
そこで初めて雫は僕の顔を見た。
「あ、あんまり見るなよぉ。恥ずかしいだろ・・・・」
正直、あれだけかっこつけてたにも関わらず顔を見せるのが失敗した後だと、中々に恥ずかしい。
「そう?結構かわいい整った顔立ちをしてると思うけど」
・・・・・?って、ああ、そうか!雫は僕が恥ずかしがっている理由を自分の顔にコンプレックスを感じているせいだと思ったわけか。全然、違うんだけど・・・・。にしても、かわいいって・・・・・。
「・・・・・一様、言っとくけど、かわいいなんて言われて喜ぶ男はいないよ?」
まあ、もしかしたらいるかもしれないけど、少なくとも僕は違う。
「そうなの?」
意外と、本気で驚いた表情を雫は浮かべた。いや、そんな驚かれても・・・・・。
僕が頷きを返すと雫は、
「ごめんなさい。男の人と話した事無かったから、分からなくて」
「・・・・・あ、そっか。『雪女』だもんね。男なんていないのか」
「・・・・と言うより、今、雪女は私しかいない」
「えっ!?雪女って雫しかいないの!?」
僕は驚いた。これは本当に驚いた。
「私が、最後の生き残り」
「そ、そっか。それは悪い事を聞いたね」
僕が謝ると、雫は首を横に振り、
「ううん。別に謝る事は無い。それに、これから雪女一族は私が繁栄させてみせるし。それで、人和にお願い何だけど、もし良ければあなたも協力してくれないかしら?」
「何言ってるんだよ。僕が雫のお願いを断る訳が無いじゃないか!!さあ、ベットへ行こう」
ガンッ(僕の足が思い切り踏まれる音)
「ギャアァァアアアア!!!」
「・・・・馴れ馴れしい」
「い、いや、だって他にさっきの言葉をどう捉えればいいんだよ!もう、結婚して子供を作ろう以外に捉えようないだろ!!」
「・・・・いや、結婚なんてしないし。キモイし」
「ぐふっ、い、言ってくれるじゃないか」
が、こんなもので僕―――世界を騒がすシルクハットボーイが諦めるはずが無い。
「じゃあ、何か?僕がキモくなくなれば、結婚してくれると?」
捉えようによっては、雫の言葉は、キモくなくなれば、結婚してもいい。
そんな風に解釈する事も出来る。
「・・・・無理」
―――が、雫の口から発せられた言葉は、否定だった。
「何で!?僕はこんなに惚れてるのに!・・・・・・オーケー、わかった。こうしよう。嫌なところを全部言ってくれ。その全てを僕は治すから」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ、どういう問題だよ?」
「・・・・あなたは、マジシャン・・・だから」
「はあ?何でマジシャンじゃ無理なんだよ?意味わかんねえ。あれですか?雪女だから、相手は毛むくじゃらの雪男じゃないと、ダメってわけですか?」
僕が冗談交じりに言うと、
「毛むくじゃらとか、絶対にいや。雪男とじゃ子供、出来ないし。私は子供が欲しい。子孫繁栄・・・・」
「やっぱり、今から僕が襲おう。それで万事解決だ」
「・・・・死にたい?」
「さっっっっせんしたーーーー!!」
雫が、今にも僕を氷漬けにしそうな勢いなので、すかさず土下座する。
その後、雫をなだめるのに、僕がかなりの苦労をしたのは、言うまでもない。




