どうも彼女にばかり助けられている訳にもいかないらしい
裏路地を僕達は走る。
細く、あまり掃除もされていない、ほこりや、所々にゴミが散らばった汚い道だ。
街灯も無いその道は、きっと昼でも人通りはほとんど無い事だろう。
どんなに時代が進んでも、どこもかしこも、きれいでピカピカ、と言う風には中々ならないのが世の常だ。
今は夜。
足元は余りよく見えない。
さっきまでなら、ライトを持っていたんだけどなぁ・・・・。
警官にボディーチェックされた時に、用意していた道具の殆どを没収されてしまった。
まあ、それは仕方ない。
例えここでライトを持っていたとしても、点ける訳にはいかなかっただろう。
そんな事をすれば、警官に居場所を教えてしまう様なものだ。
わざわざ、真っ暗な路地を選んで逃げている意味が、無くなってしまう。
未だに、僕達は警察から逃げきれていなかった。
この路地は、パトカーが入れる程の幅こそ無いものの、パトカーから降り、警官自身が走って追って来れば話は別だ。
先程から、路地の両脇に立ち並ぶビルとビルの隙間からは、ちらちらと警官が照らしているであろう光が見えた。
ビルを挿んだ向かいの路地では警官達が僕達を探して走り回っているのだ。
足音や、話し声、時折差し込む警官の持つライトの光の量からしても、かなりの人数が、僕達の捜索に当たっているらしい。
「いたかーー!?」
「いえ、いません!」
ビルを挿んだ先の通路からは、警官達のそんなやり取りが聞こえて来る。
僕には、時折警官達が照らす光以外、何も見えない。
そしてすぐ近くには警官。
もはや、捕まるのは時間の問題だっただろう。
――――そう、逃げているのが僕一人だけならば。
「・・・・こっち」
僕は、雫に手を引かれながら走る。
足元が見えていないにも関わらず、道端の電柱や、ゴミにぶつかり、転ぶ様な事は全くない。
「しっかし、便利だね。暗闇でも見えるってのは」
―――そう。雫にはこの暗闇の中、昼間の様に、とまではいかないまでも、ある程度景色を目視出来ていた。
「妖怪は基本的に夜の生き物だから、このくらいは当然」
―――――にしても、妖怪って本当にいたんだな。
今更ながら、僕は思う。
が、思うだけだ。
実際に目の前にいるものを疑ったりはしないし、怖がりもしない。
そもそも、僕には惚れた女を怖がる理由なんて何も無い。
「っ!まぶしっ!」
――――不意に、ライトが僕達を照らした。
「見つけたぞ犯罪者共!!」
ライトが照らす先。
そこには二人の警官が、僕達を睨みつけながら立っていた。
「鬼ごっこもここまでだ。撃たれたくなければ、手を上げてその場に跪け!!」
言いながら、警官達は銃をこちらに向ける。
もう、引き金さえ引けば、いつでもそこから弾が飛び出すだろう。
――――あの弾が僕に当たれば、まあ、かなりの確率で死んじゃうだろうなぁ。
「ふ、ふふふふ―――」
思わず、僕の口から笑いが毀れた。
「ふはーーはっはっはっ!!!」
どんどんと、その笑いは大きなものになっていく。でも、しょうがないじゃないか。
自分でも笑いを押さえる事が出来ないんだから。
確かに、あの弾が当たれば僕は死ぬ。そう。当たればな!
だけど、当たらないだろう。何せこっちには―――――
「馬鹿め!!こちらには雪女様が付いているのだ!貴様らなどに捕まるものか!!ささ、先生、お願いします」
「・・・・助けるとか言っておいて、全部丸投げ・・・・・」
調子よく頭を下げる僕に、雫の蔑んだ視線が飛んでくる。
「ままま、そう言わずに、ここは一つ、お願いしますよ」
それを聞いて雫は呆れた様にため息を付いた。
「・・・・ん。無理」
「ほうら、氷漬けになる前に逃げた方が身の為だ・・・・・・・・・・・へ?今何と?」
「・・・・いや、だから、もうさっきの技は出せない。・・・・妖力、切れたから」
「・・・・・・・・・・・ほっほーーーう。じゃあ、何?今、僕らって銃を突きつけられてるのに、丸腰って事?」
きっと、今、僕の仮面の下は、満面の笑みに彩られている事であろう。
――――――苦笑いと言う名の。
「・・・・そうなる」
「なるほど・・・・ね」
考えれば、当然の事だ。
もしも、雫が先ほどの技、『氷塊』を無制限に出せるのだとしたら、わざわざ、僕と共に逃げる必要などどこにも無い。
雫としては、さっき、僕を助けた時に妖力が全て切れたからこそ、一人では逃げられないと判断し、僕と共に逃げる事にしたのだろう。
――――こんな状況になった時に助けてもらう為に。
「・・・・さあ、どうやって逃げる・・・の?」
雫の期待に満ちた瞳が、僕を見つめる。
助けると豪語したのだから、何かしらの対策は僕も用意している、と思っているのだろう。
まったく、この状況で頼られるとは思ってなかったぜ・・・・・!
「ふっ、分かり切ってる事を聞くなよ、ハニー」
僕は、雫をかばう様に一歩前に踏み出した。そして―――――
すっ
僕は手を上にあげ、その場に跪き、警官達に向け―――――
「あっ、大人しくしてるんで、撃たないで下さい」
「・・・・何のマネ?」
雫がさっきよりも更に冷たい視線を僕に浴びせながら、聞いてきた。
「はあ?何って、警官様の支持通りにしているだけですが、何か?まだ、僕、こんなところで死にたく無いんで。はい」
わあー、すごい!さっきまででも、これ以上ないくらいにゴミを見る目だったのに、さらに酷くなったね!
「・・・・・・この、クズ。さっきは自分がいれば逃げられるみたいな事、言ってたくせに」
「ふはははは!何とでも言え!!死んだら全部終わりなんだよ!!それより、お前も警官様の言う通り手を上げて跪いて!ねえ、跪いて!ほら、早く!!」
「・・・・何で、私が―――」
そこまで言って、雫の言葉は止まった。
何かを、確認する様に僕の顔を見つめる。
「・・・・ん、分かった」
雫は急に素直になり、僕の言った通りに跪いた。
「・・・・・は、話は済んだか?では、そこを動くな。今からお前らを逮捕する」
僕達の会話をただ茫然と見ていた警官達がはたと我に返り、逮捕する為、近づいて来た。




