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3話 『取得』

 

「まずは、これからのことについて」


  その一言から、説明は始まった。

  俺の推測だと、ここは多分魔王軍の城で、俺が前にいたところは神聖軍。

  人類はこの二つに分かれて、長年にわたる戦争を続けている。

  そんで、奴隷となった俺はこのシェイド率いる魔王軍側について、戦争という名の渦中に身を投じるんだな。

  まぁ、俺なんて軍力にはならないと思うけどさ。


「知ってるよ。これからお前が統率している魔王軍について、一歩兵として出陣するんだろ?」

「…………」

「む、どうしたんだ?」


  なんかシェイドが俺のところを哀れんだような眼でジッと見ているのだが……うーむ、こんな奴に慈悲なんてもらってもなぁ。

  あ、ちなみに先輩は、「ちょっと銃を撃ってくる」とか言って、転移魔法陣作ってどこかに行ってしまった。

  リアルニ次元大介かよあいつ。いや、ちょいと石川五ウエェ門も混じってるか? ……これ大丈夫だよな?


「あなたは惨めね。私の軍を魔王軍と呼ぶだなんて。向こうでは散々な生活を送ったのね」

「……んーなんだろう。理解者ができたのはすげー嬉しいと思うんだけど、お前がお前だからどうも気色悪りぃな」


  頭をボリボリと掻いて苦笑いをした。


「私の軍はね。暗黒軍っていうのよ。覚えておきなさい」

「暗黒軍……ねぇ」


  勇者時代はずっと、料理や掃除、皿洗いに洗濯と、勇者らしからず家事ばっかやってたからなぁ。

  この世界について、何にも教えられてないし、何にも調べてないから、知識はだいぶ疎いんだよなぁ。

  でも、こうして奴隷に堕ちたことによって、学ぶものもあるんだなぁ。

  はぁ。まったく世の中は奇想天外だ。

  勇者から奴隷に堕ちるなんて、やっぱ未だに信じられないな。

  大富豪から破産者になった感じかな。いや、勇者時代も散々こき使われてたけどさ。さすがに部屋は1畳以上あったよ? 言うても3畳半だけど……。(本来の勇者は家持ってた。3LDKはくだらないやつ)


「あなたの言う通り、暗黒軍の女王である私に使えて戦争に赴くの。暗黒軍特殊攻撃部隊の一員としてね。戦争の終幕の先にある平和を、私の手で掴むために」


  俺は眠そうな目でシェイドの話を聞く。

  実際、原稿用紙にして3行以上にもなる興味もない話を聞いてると眠くなってくる。

  たとえその言葉に、どれだけ感情がこもっていたとしてもだ。

  あと、異様に漢字が連なる文もな。

  暗黒軍特殊なんたらって、確か先輩も言ってたよな。じゃあ先輩と同じ部隊に入ることになるのか。

  え? でも先輩強そうだったけど俺がそんな軍入っていいの?


「でも、あなたの扱いは、あなたが知るような奴隷とは少しだけ違うわ」

「……やな予感がヤバいんだけど、大体どこら辺が?」


  俺が問うと、シェイドは不意に両手を仰向けに広げる。

  すると、魔力のようなものが集約され、闇のような紫色で禍々しいエネルギーを解放し、バスケットボールほどの球体を作り出した。

  その球体には、まるで閉じ込められているかのように銀色の銃と漆黒の剣が映し出されていた。


「これは、『闇の契約者シェイド・オブ・チルドレン』私の特殊能力」


  「特殊能力」という言葉に、俺は眉をひそめて反応し、球体の奥を覗き込んだ。


「一つはこの左手の銀色の銃。これは『バレットマジック』携帯する武器で、使いこなすには膨大な魔力が必要だけど、この二種の中ではこっちのほうが強い武器。使用者の魔力の穴が、この銃の弾倉と直結しているから、装填は魔力が尽きぬ限り不要。魔力を弾や魔法として撃ち出すことができるわ」

「なんだよそれ! 流石魔法だ」


  銃という科学が生み出した武器に、魔法の力を取り入れた至高の一品だ。

  んでも、俺は銃に関してはmikipediaを流し読みした程度の知識しかないけど、そんな俺でも、ていうか誰しも、そこで疑問が生じる。


「しっかし、なんで科学の武器である銃が魔法の世界に?」

「科学? この銃は魔法よ。紛れもなく魔法が生み出した武器」


  あまり言っている意味が分からないけど、これは魔法の力を持って開発した、まったく新しい武器だということだろうか。

  それが、銃という名を借りて、ここに存在している。そういう意味だろう。この世界に科学の概念は無いようだしな。

 

「そして、もう一つはこの右手の剣。これは『ビーストセイヴァー』『バレットマジック』のように、武器の携帯は要らないけど、武器を具現する時に魔力を消費する代物よ。

 あらゆる時限から、魔剣や妖刀を具現することができて、その武器は多種多様。しかもその魔剣の一つ一つには、獣の魂が閉じ込められていて、その魂を一時的に解放することで、武器の真の力を引き出せる」

「うーん、なんか、こっちの方が『バレットマジック』より強そうだけど」

「言ったでしょう? 『バレットマジック』は魔法を撃ち出すことが可能なの。つまり魔力さえあれば、魔法レベル(ファイブ)の『アポロ』や『フェンリル』だって打ち出せるのよ。召喚魔法だって撃ち出せる」

「なんかよくわかんないけど」


  Ⅴって言うくらいだから多分強いんだろう。

  いや、最上位の魔法がレベルⅩとかだったら微妙だけど、シェイドの言い分を聞くに、多分上位なんだと思う。

  あと、召喚魔法か。ビーストセイヴァーが獣の魂を剣に込めて、バレットマジックは獣自身を呼び出すのか。あ、つよい。


「んで、この武器と俺の奴隷としての立場に、なんの関係があるんだよ」


  ……いやまさか、奴隷である俺にこの武器を使わせるというのか? おいおい冗談はよしてくれよ。

 普通こういうのは軍の精鋭部隊とかが装備するものだろう。

  いや、でも待てよ。そういえば先輩は、奴隷で、このシェイドが持っている銀色の銃と似通った銃を持ってたような……。

  だとしたら、俺は……。


「あなたの武器はこのビーストセイヴァー」


  そう言って、シェイドは右手を差し出した。


「『負に負を重ねし汝よ。今こそ我が至高の力を手にし時。さぁ、我が軍勢に勝利を捧げよ!』」

「ッ!」


  突如として、右手の球体が眩く輝き、光芒を放ちながら俺の胸に飛び込んできた。

  刹那、突き刺さる痛みは激しく、声すらまともに上げられない。

  思わず涙が零れ落ち、歯をくいしばる。

  まるで心臓の中にもう一つ心臓をねじ込むような感覚だ。


「『受け入れよ(オユェリエク)それこそ汝が使命エミサギ・ジナノソ・ケロシ』」


  だが、その痛みも、シェイドが詠唱してからは、徐々に激しさを消していき、僅か30秒ほどで苦痛から解放された。


「ガァッ……ハァ……ハァ……ハァ……」


  たちまち全身を襲う疲労感。体勢を保てなくなり、俺はその場に崩れ落ちる。

  いつの間にか、全身から滝のように汗が噴き出していた。

  しばらくその場には荒い呼吸の音だけが響き、シェイドはその間に手に浮かべた球体を消した。


「調子はどう?」

「どうもこうも見たまんまだよ……ハァ、なんてことしやがる」


  こんな激痛は、クラスメイトのデブの女に足を踏まれて骨折した時以来だ。

  あん時はその場が2階から3階へ続く階段の踊り場だったから、そのまま階段から落ちたんだっけ。

  死ぬかと思った。さっきも、あの時も。


「今、あなたの心臓に私の魔力の樹を移植したわ。今ならあなたの思った通りに武器が具現できるわよ」

「魔力の樹……?」

「魔力を生み出す元の事よ。それを枯らしちゃうと、私もあなたもD1もどうなるかわからないから、くれぐれもダメにしないようにね」


  新しい単語が出すぎて本当に頭が追いつかない。

  うーん、つまり魔力を枯渇させちゃうと、死んでしまうって意味かな。

  まぁそうだよな。普通、そうだ。魔力は生命の源って、どっかで聞いたことあるしな。あれ、マナだっけ、どっちだっけ。

  まぁシェイドが魔力って言ってるからいいか、魔力で。

 

「って、俺にそんな能力持たせていいのか? 奴隷なんだし」

「あら、あなた一応奴隷の自覚あるのね」


  ぐッ。(さっきと同じ痛みが一瞬突っ走った)


「まぁいいじゃない。そんなこと決めるのは私の自由なんだし」

「意外と適当だな」

「否定はしないわ」


  いや、そこはしなきゃダメだろ……。


「どうやら終わったようだな」


  突然背後から素晴らしくハンサムでイケメンなボイスが響いた。よく通る声だな。

  シェイドと同時に振り返ると、そこには例の石川五ウエェ門じゃなくてD1先輩がいた。


「あら、D1。早かったじゃない」

「うむ、やはり自動人形(オートマタ)相手じゃどうもつまらん」

「ふふ。またレベルを上げなきゃならないわね」


  もう新しい単語ばっかり出されると置いてけぼりになってる気がして癪に触るわまったく。

  俺は長い講義による疲れから来た欠伸を手で押さえながら、先輩とシェイドの元へと向かった。


「なぁ、主君。こいつも武器を手にしたのだろう?」

「えぇ、そうね」

「…………」


  魔剣を出せると言っても、何を出すべきだろうか。

  とりあえず村正? それにするか。


「なら、殺っても良いだろう?」


  D1がホルダーから銃口周りに血がべっとりと付着した銃を早撃ち(クィックドロウ)

  銃弾を視認できるのが不思議でならないのだが、俺は両手に『妖刀・村正』を手にし、空間と共に一瞬にして叩き割った。


「望むところだクソッタレが」

D1「またつまらぬものを撃ってしまった……」

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