Bメロ 三
三
加奈子が見る限りでは、芸能人顔負けの容姿と人当たりの良さで、金城ミコトはたちまちクラスの人気者になったようだ。
始業式の日からしばらくは、休み時間も昼食の時間もミコトの周りには男女問わずクラスメイトが群がっているので、加奈子も時々はその輪の中に首を突っ込んで話を聞いていた。
金城ミコトは、田舎でおばあちゃんと二人暮らしだったが体調を崩して入院したので親戚がいる神奈川へやってきた、小中学校あわせても二十人ほどしかいない学校に通っていた、などの情報を加奈子は仕入れる事ができたが、神様がどうのこうのといった話はやはり出てこない。二人きりになれた時が訪れたのなら、先日神社で私と会って話をしたのは金城ミコトだったのか、どうやって忽然と姿を消したのか、など聞きたいことは色々あったのだが、なかなかその機会はやってこなかった。
まだ陽も高い九月中旬の夕方、バレー部の練習が終わり、クラスは違うが、放課後に通う学習塾と、途中まで帰る方向が一緒のミドリと二人で校門を出た。二人とも制服に着替えるのが面倒だったのでバレー部のユニフォームの上にジャージを羽織っただけの格好でダラダラと歩く。ミドリのほうが女子にしては背の高い加奈子より更に二センチほど背が高く、加奈子のように髪を短く刈り上げていて、おまけに胸のサイズも加奈子同様に残念なのでよく兄弟みたい、と揶揄される。
「ねえ、加奈子知ってる?」
ミドリが話しかけてきた。
「何を」
「あんたのクラスの転校生、金城とかいう子いるじゃん」
「いるよ、それで?」なぜか金城ミコトの事になると加奈子の胸はドキドキする。
「歌手か何か目指してるらしいじゃん」
「え、マジ? なんでそんな事知ってんの?」
加奈子の知る限りでは、クラスでそんな事は言ってなかったのだが。
「ほら、駅前の広場で夜によくギターで弾き語りとかやってるじゃん、で、うちのクラスの子が塾の帰りに、あの子がそこで歌ってるのを見たんだってさ」
「へー」
「それがメチャウマで顔もカワイイからそこそこ人気になってるんだってさ」
「マジかよ、スゲーな」
加奈子は金城ミコトに対しては真面目な優等生という印象を持っていたので人前で歌っている姿がどうにも想像がつかなかった。でも優等生は仮の姿で、夏休みに出会った時の垢抜けた態度こそが本性だとすれば、似合うかもしれないなと思った。
「だからさ、ウチらも塾の帰りにでもいっぺん見に行かね?」
「駅前に寄ったら帰りが遅くなるからなぁ、まあ一応親に聞いてみるわ」
「ほい、んじゃまた後で」
加奈子はミドリと一旦別れた。帰宅して母に早速事情をはなすと「あんまり遅くならないようにね」と釘を刺されたがあっさりと許可が下りた。さっさと夕食を済ませ、自転車で学習塾に向かった。ミドリとは塾でも同じコースなので、教室で再会して、行けるよ、とだけ伝えて、周りに倣って授業が始まるまでおとなしく自習を始めた。
九時過ぎに塾は終わり、早速ミドリと二人で駅前に自転車を走らせた。