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コーダ 一


 年が明けてのCD発売ツアーはミコと同じくレーベルからCDを出す「初恋乙女学園」「ラッキージュエルス」というアイドルユニットとの共演だ。第一弾の大阪公演は、たとえミコ一人でも大所帯の他のアイドルに見劣りすることのないルックスと下手なアーティスト以上の歌唱力で、先行発売のCDやグッズの売り上げも好調だった。次の週の東京公演はCDの発売日、ダウンロード販売の開始日と同時に行われることになっていて、さらに盛り上がるだろうと雄太達の期待は膨らんだ。


 雄太は大学の講義を終え、スマートフォンを確認するとエイリーから何度か着信と、メッセージがあった。メッセージは「ユータ、シスターテイルがレーベルからCD出すってさ、オレらはお払い箱になるんじゃねーかな。多分どっかのニュースサイトでも情報出てるはずだからチェックして見てくれ」と淡々とした口調で吹き込まれていた。

 雄太はさっそく大手の音楽情報サイトをスマートフォンで見てみた。

「シスターテイル、プレシャスレコードからCDデビュー」とそこではトップ扱いで掲載されていた。雄太は記事を読み進めると、「今、人気急上昇中のアイドルグループ、シスターテイルのCDデビューが決まった。プレシャスレコードが進めるアイドルプロジェクトの第二弾の目玉として。以前からシスターテイルのCDの販売権に関してはメジャーレーベルも含めて激しい争奪戦が繰り広げられていたが、プレシャスレコードの社長の熱意が実を結んだようだ。なおプロデューサーには菅田よしこ、楽曲作成にはギタリストのSHU-ZOや有名振付師のKIKKOも参加するなど、強力な製作陣も用意するという力の入れようだ。現在開催中のJGI予選でも高評価を受けている彼女達、今年のアイドル業界はシスターテイルが制覇するのか」と書かれていた。

 明らかに今週CDを発売するミコの記事よりも扱いが大きい。プレシャスレコードの公式サイトを見ても、一応は金城ミコトや、他のアイドルのページはあるものの、シスターテイルデビューの特設ページがさっそく作られ、見るとやはり菅田よしこプロデュース、ギタリストのSHU-ZO参加などと大きく書かれていて、扱いの落差に雄太は芸能界ってこんなものかと呆れると同時に強い怒りを感じた。


 その週末の東京公演、翌週の名古屋公演も盛り上がりは見せたのだが、一緒に回っていた「初恋乙女学園」「ラッキージュエルス」のメンバー達も、どうせプレシャスレコードの本命はシスターテイルなんでしょ、契約更新はなさそうだわ、と楽屋で愚痴をこぼしていた。雄太達はまだミコのCDや楽曲配信 の売り上げが他のユニットに比べて好調だったのでツアーの間行動を共にしていたレコード会社のスタッフの態度が露骨にそっけないものになることはなかったが、シスターテイルと同じレーベルで競合することは避けたかったので契約更新する気は無いと雄太は担当の者に伝えた。シスターテイル一本でアイドルレーベルを運営するように方針変更したので更新する気はもうなかったのかもしれないが、担当は胸のつかえが取れたようなホッとした表情をしてその提案を受け入れたのだった。


「またCD売り出してくれる所を探さないとダメですねぇ」

「落ち込んでばかりもいられねぇんだぞ、アイドルの仕事は歌だけじゃねーんだし」

 雄太の部屋でコタツに丸まったミコとエイリーがみかんを食べながらボヤいている。雄太は一人椅子に座ってアンプに繋いでいないエレキギターでミコの曲を弾きながら液晶テレビを見ている。二人もみかんをむく手を止めることなくテレビを見つめている。テレビではアイドルグループが歌を歌っている。今日はCS放送の音楽専門チャンネルでJGI中部予選の模様が生放送されているのだ。予選では一組に十分間の時間が与えられて、どのように使っても良い。それを審査員の評価に加えて視聴者のインターネット投票、テレビのリモコンからの投票も加点した結果で本戦出場が決まる。

「どのアイドルも代わり映えしませんね。でもさっきのチアリーディングとか一輪車の大道芸は良かったです」

「どいつもこいつも歌の下手さやルックスのマズさを数でごまかしてるだけだかんな、一芸でも披露して目立たないとシスターテイルにゃ敵わねぇよ」

「いやいや、アイドル業界はこの子になら自分にでもギリギリ手が届きそう、というリアルな恋人感覚が受けているグループもいるからな。今回のJGIみたいにネットやテレビのリモコンで視聴者も投票できる形式だとそういうグループが意外と票を伸ばすかもしれないし」

「私はどうなの? 予選は勝てそうかな、雄太」

「うーん。ミコの売りは若い、可愛い、歌が上手い。それだけでもアイドル業界のメインターゲットの十代二十代三十代に支持されてはいるんだが、そこは競争が激しい部分でもあるから独走は難しい。ミコは古い洋楽曲をカバーで演奏しているせいか路上ライブでは中年、熟年層にも受けているし、弾き語り動画に対しては純粋な音楽ファンや海外からの反応も良好だ。まあその辺り、普段アイドルには興味が無い層がJGIで力になってくれるかは未知数だから予選でも油断はできない。ミコは背が小さいからソロでやっていると見た目の賑やかさで劣る部分があるから、歌だけでどれだけ他と差がつけられるかだなあ」

 雄太はノートパソコンでJGI公式サイトにアクセスして西関東予選に残ったグループを表示させた。参加グループは八組で、ソロは金城ミコトのみ。活動歴も長い固定ファンのついたローカルアイドルや大手プロダクション所属で深夜番組に時々出演しているような知名度の高い新人アイドルグループもいるし、画像加工ソフトで修正された出場プロフィールの写真だけならばミコと遜色ないほどの美人もいる。

「オレは心配してねーけどな。お、いよいよ本命サマの登場だぜ」

 テレビではシスターテイルの四人がステージに出てきて、アヤヒメがグループの自己紹介をした後、人気の火付け役となった「日本神道化計画」を歌い始めた。

 ネクフェス以降の四ヶ月間でミコの活躍はなかなかに素晴らしいものだと雄太は思っていたが、シスターテイルもまたミコ以上に大躍進を遂げていた。すでに国営放送の若者向けの音楽番組に何度も出演していたし、深夜枠ではあるがSKD48を追いやる形でレギュラー番組も持っていた。そして何よりミコと違う所はグラビア路線でもEカップのアヤヒメとFカップの長女スズの豊満コンビは青年コミック誌や写真週刊誌上で大人気になっていたのだった。「私も巨乳設定にしとけばよかった」とミコは悔しがっていたが、セクシー路線は女性の支持を受けにくくなる恐れがあるので、雄太は今のままでもいいと思うのだが、女心というものは複雑なのだろう、きっと。他にも彼女達が出る家族割引をアピールした携帯電話会社のkマーシャルもよく目にしたし、アニメの主題歌の仕事もすでに決まっているらしい。

 アヤヒメの妖艶な、舞踏といった方がしっくりくる唯一無二の世界観を持ったダンスは勿論素晴らしいのだが、三人姉妹の方も上手くなっているように雄太は見ていて思った。

「日本神道化計画」が終わって「恋するお月様」が始まった。アヤヒメの歌唱力を存分に活かしたバラード曲だ。歌唱力は公平に見て、ミコと甲乙付け難いし、バックで踊る三姉妹も表現力豊かに踊っている。雄太も思わず我を忘れて真剣に見入ってしまった。

 シスターテイルの出番が終わり、まもなく一般視聴者投票が締め切られます、とテレビではアナウンサーが言っていた。

 エイリーは「シスターテイルにマイナス票って入れらんねーのかよ」などと言いながらリモコンを操作して誰かに投票したようだ。雄太もノートパソコンから一人好みの可愛い子がいた岐阜のローカルアイドル「ハニージュエル」とやらに一票を入れておいた。

 長いコマーシャルの後に予選結果が発表された。雄太達の予想通りJGI中部地区予選はシスターテイルの圧勝だった。


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