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サビ 七


 ミニアルバムの曲は、雄太達の緊張とは裏腹にあっさり決定した。十二月初旬の土曜日、御茶ノ水にあるインディーズレーベルのレコーディングスタジオ兼事務所の小さなビルで、社長と営業担当、ミコとエイリーと今日はスーツ姿の雄太の五人が小さな会議室に集まり、机を挟んで向かい合って席に着いた。

「結果から言おう。君達の作った曲から三曲、ウチが用意した曲が一曲だ」と社長は告げた。

「こんなこと言うのもなんだけどもさ、君達が曲を作ってくれて助かったんだよ。ウチが依頼した作曲家がさ、つまらない曲しかこっちにまわさなかったの。本人は否定してるけどいい曲はシスターテイルのほうで使うって噂で。他のアイドルの曲も急遽他の作曲家に頼んだりで大迷惑だ。でも選ばれた君達の曲はどれもいい曲だから自信を持っていいよ。ウチも君達に一番期待しているから」

 シスターテイルの名前が出た瞬間、雄太は隣のミコの方をちらっと見た。ミコは無表情で社長の話を聞いている。むしろ向こう側のエイリーの方に緊張感が感じられる。

「社長」エイリーがすっと手を上げた。「例の件はどうでしょう」

「最終判断はライブを見せてもらってからだけど、あなた達さえよろしければやってもらう方向で」

「はい、ありがとうございます」

「いいのかい、ギャラは金城ミコト一人分でいいから君達がバックバンドをやるって」

「はい、歌に関してはアーティスト寄りで行きたいとミコトも考えていますので」

 レーベルから同時に売り出されるアイドルユニットは三組で、ツアーも一緒に回る。カラオケで歌ったり口パクにしてしまうユニットより確実に目立つし、金銭面のメリットはなくても後々好影響があるはずだと雄太たちは判断してレーベルの社長に提案していたのだ。

「来年のレコ発ツアーだって機材車も自腹で、自分達で回ることになるけど」

「はい、問題ないです。よろしくお願いします」三人は頭を下げた。

「じゃあレコーディングとツアーのスケジュールなんだけど……」


 打ち合わせは午後三時頃に終わった。後の予定は特になかったので三人は市場調査と称して秋葉原まで出かけることにして、御茶ノ水の楽器屋を何件か覗いた後、冷たい風が吹き付ける中をぶらぶらと中央線沿いを東へ歩いていた。

「口ではああ言ってましたけどあんまり期待してない、て感じでしたね」

 ジーンズと緑のパーカーにニット帽を深く被り、伊達眼鏡をかけたミコが、後ろを並んで歩く雄太とエイリーの方を振り返って言った。

「たしかシスターテイルってどこにも事務所とか入ってないらしいから、スカウトしようと躍起になってんじゃねーの。曲だって社長の指示で向こうにまわしてやってんじゃネ?」

 エイリーも不機嫌さを隠さない。

「今はアイドル戦国時代と言われてるように、アホほどアイドルユニットが現れては消えていってる。もともと当たれば儲けモノぐらいに考えてるんじゃないのかな。一応アルバム作ってツアーやってそれが売れれば契約延長、売れなきゃハイサヨナラって契約だし」

「見返してやりましょう、雄太さんもいい曲作ってくれたんだし」

「ああ、でもまずオレらがしっかり演奏しないとな」エイリーがぎゅっと拳を握った。

「つかエイリーもやるのか? ギターの人員余るぞ」

 いつものカティサークならエイリーがサイドギター兼ボーカル、雄太がドラム、キョーイチがメインギター、マサトシがベースだ。そこへミコがエイリーのポジションに納まる形になる。ギターが多くても普通のバンドならいいのだが、あくまでメインに立つミコのバックバンドだ。それにハードロック、ヘヴィメタルからジャズまで弾きこなすテクニシャンのキョーイチに比べてエイリーのギターは「まあギターボーカルならありかな」というレベルなのだ。

「いや、オレはキーボードで。中学まではピアノやってたし、ユータの曲は打ち込みのパートも多いから必要じゃん、キーボード」

「同じステージにエイリーさんがいるのは心強いです」

「まあそれならいいか」

 それに雄太は、あらかじめ作られた打ち込みパートの正確なリズムに合わせてキチンと演奏出来るのか自信がなかったから、大変ありがたい申し出だった。

 御茶ノ水から十五分ほど歩いて秋葉原に辿り着いた。雄太はゲームや電化製品を時々買いに来たり、マサトシに連れられてSKD48の常設ライブハウス「外神田センターステージ」に足を運んだりしていたが、ミコは秋葉原は一度裏通りの小さなアイドル専用ライブハウスに出演しただけで秋葉原の街を歩いたことがなかったので、大通り沿いの歩道を行き交う人出の多さも、赤白のサンタ帽を被ったメイド喫茶の過剰な呼び込みも気にならない様子で、アニメグッズ専門店やパソコンショップなどを興味深そうに見てまわっていた。古い雑居ビルにあるアイドルグッズの店では自分の生写真が売られていたのを喜んで一枚購入しつつ、シスターテイルの生写真はエイリーと二人でこっそり裏向けて棚に戻すといったささやかな逆襲行為に悦に入ったり、三人でゲームセンターに入ってプリクラを撮ったりして休日を満喫していた。

 ゲームセンター内のベンチに雄太は腰掛けて、缶コーヒーを飲みながら三人で撮ったプリクラをぼんやりと眺めた。雄太の加工されすぎて誰だかわからない間抜けな顔に苦笑いを浮かべた。

 雄太はミコと繁華街で遊ぶのは初めてだったが、そういえばエイリーともこうやってデートみたいなことしたことがなかったなあと思い、少し気恥ずかしくなった。もしエイリーをデートに誘ったらどういう反応をするだろうか、雄太はふと思った。あっさり了解するのか、それとも「ふざけてんのか、ドアホ」と一蹴されるのか、雄太には全くエイリーの反応が想像出来ない。

 店内に視線を移すと、ミコがエイリーに手伝ってもらって「販促用」のプリクラをはしゃぎながらプリクラマシーンをハシゴして撮ってまわっているのが見えた。

 バンド内で恋愛は厳禁。雄太自身も高校生の頃からいくつかのバンドを経験して、バンド内恋愛が原因で何度もメンバーチェンジや解散を経験して来たのでよくわかっていることだ。しかもミコの売り出しがこれからという大事な時に馬鹿な真似は絶対出来ない。

 プリクラを撮り終え、三人は横浜へ帰ることにした。

「ツアーなんて初めてだし、レコーディングも楽しみですね」

 帰りの電車内でプリクラの束を楽しそうにめくりながらミコが言った。

「バンドマンの憧れだよな、中古のハイエースで全国ツアー」

 エイリーも笑って答える。

「車はレンタルだし、全国っつっても東京神奈川以外は大阪、名古屋で学校もあるからトンボ帰りだし、物販売ってCDも売れなきゃツアーだけで見たら赤字だぜ。いくら俺達の希望が通ったからと言って喜んでばかりもいられないし」

「あ、忘れてた。もっと大事なことがあったぜユータ」

「ん? 何かあったっけ」

「オレら誰も車の免許持ってねーんだよ。急いで誰か取りに行かなきゃ」


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