サビ 六
六
神社で悶々とした朝を過ごした後、登校した加奈子は教室でミコを見つけるや、つかつかとミコの机に詰め寄って両手でほっぺたを引っ張った。
「ひはいっへはなほひゃん、ふぁにほほっへんおよぉ」
「うっせーよ、ミコ」
加奈子は言い放って手を離し、まだ他に誰も教室にいないのを確かめてから封筒をミコの机に放り出し、前の座席に乱暴に腰を下ろした。ミコは封筒から手紙を取り出して読み始めた。始めは真面目な顔で読み進めていたが、次第に口元がにやけてきて、読み終えた時には満面の笑みを浮かべていた。
「青春よねぇ、恋愛禁止のアイドルからすれば羨ましい限りよ」
「何か言ってあいつをそそのかしたのか?」
「そんな事してないわよ、吉田君にチケットあるかって聞かれたから、一応二枚あるんだけど、そういえばミドリちゃん今回は行けないって言ってたから加奈子ちゃん行こうかどうしようか迷ってるみたいって言ったら、焦った感じで一枚余らせるのもアレだから二枚くれって」
「ハア? ミドリも彼氏とかいねーんだからヒマに決まってんだろ」
「あれ、そうだったかしら」
ミコは白々しくとぼけた。加奈子はミコの伊達眼鏡を外し、両こめかみを拳ではさんでグリグリと押し付けた。
「痛い痛いってば加奈子ちゃん。ホラ、おしとやかにしとかないと……」
チラッとミコは教室の入口の方を見た。加奈子も入口を振り返ると、伸びすぎた前髪を大胆に切り、メガネも外して垢抜けた感じになった吉田淳が教室に入ってきて、ミコ達の方を見ないように耳を赤くしながら顔をうつ向けて自分の席に着いた。
加奈子は頬を少し赤くして手を離した。
「で、どうすんの? 一緒にライブ来てくれるの? 今回は来年のミニアルバムに入る曲を初めてやる予定なのよ」眼鏡をかけながらミコは言った。
「ところでコマーシャルも流れ出したな。着物のやつ」
加奈子は話題を変えようとした。神奈川ローカルではあるが、着物のレンタル会社のコマーシャルで、琴を優雅に奏でるミコの姿がオンエアーされ、あの美少女は一体誰だとネットなどで評判になっているらしい。
「まさか琴も弾けるなんて、ミコはずるいよなぁ。アタシにもなんか才能分けてくれよ」
「加奈子ちゃんは背も高いしスポーツも得意だからいいじゃない。金もいらなきゃ女もいらぬ、あたしゃもすこし背が欲しい……てギャグ知らないか」
「知らねーよ」
教室では続々とクラスメイトが登校し始めて教室は賑やかになってきた。
「着物のレンタルの注文が増えれば初詣も賑やかになっていいわね。加奈子ちゃんもお正月は巫女装束じゃなくって晴れ着借りてみない? 安くしてもらえるから。神社でデートとか素敵よねー。いらない? 残念。でも琴は二百年ぶりぐらいに弾いたから緊張したわ、今はギターのほうが得意かも。次のライブはカティサークのみなさんと共演するので私もギターを弾くことになったの。他のアーティストさんも実力派ばかりだし、楽しみだわー」
「駆け出しのアイドルがそんなバリバリアウェーなトコに混じってって平気なのか?」
加奈子はライブに出演するアーティストを思い出しながら言った。
「FM局主催のクリスマスイベントだし、ほとんどの人はへえーそんなやつも来るんだって感じで気にしてないんじゃないのかな。そんなところだからこそ面白いんじゃない」
始業のベルが鳴ったので加奈子は自分の席に戻ろうと立ち上がった。
「ちゃんと一緒に来てよね。これはプレゼント」
加奈子の右の手首を捕まえ、手のひらに何か小さな物を握らせてミコは笑った。加奈子が手を開くと、ピンク色の小さな「えんむすび」の御守りだった。
「まだどうすっかわかんねーからな」
顔を赤くして加奈子はポケットに御守りを突っ込んでぶっきらぼうに言った。
「来てくれなきゃ呪いをかけるからね、授業中わからない問題にかぎって先生にあてられてしまう呪いをね」




