Bメロ 七
七
芸能事務所ユウプロの設立は、書類を作成して税務署に届け出るだけであっさりと済んだ。
とりあえずは個人事業主として申請して、ゆくゆくは法人化も視野に入れようと言う事で雄太が代表、経理森若恭一、マネジメント担当森若絵里、情報担当中山正敏という肩書きでスタートさせることにした。
レンタルサーバーを借りて簡単なホームページを作り、いつでもメールで仕事の依頼を受けられるようにし、専用の銀行口座、名刺、社判を作成した。次にインディーズバンド向けの音楽制作会社にCDのプレス依頼を出した。レコーディングやミックスダウンは自分たちでやってデータを納めたのでそれ程費用はかからなかった。
雄太たちはインターネットや地元の情報誌などから、新人アイドル・金城ミコトを売り込めそうなお祭りや学校の文化祭、音楽祭、オーディションなどを探し、エイリーが中心になってアポイントを取りはじめた。
エイリーは髪を大人しめのブラウンにして、新調したグレーのスーツにパンプスを履いて、マサトシが編集作成したミコの路上ライブの映像や写真などのプレゼン資料を手に、地元のケーブルテレビ局や、FMラジオ局、アイドル系のイベントを主催する会社などに手当たり次第に突撃していたが、コネがもともと無い上に、どこも「今はこの手の売り込みが増えててねぇ……」とのことで結果は芳しくなかった。しかしたまたまミコの路上ライブを見た、という者がいて、五組程のアイドルが集まる二週間後のイベントで急遽キャンセルが出たので、運良くそこに参加できることになった。チケットの割り当てノルマはあるが、ノルマ分を超えた売り上げは自分たちのモノになるし、CDなども委託販売できる。
その日の夕方、雄太とエイリー、ミコは、登記簿では事務所になっている雄太の自宅の部屋で、そのイベントのWEBサイトを見ていた。一応父親よけに部屋の扉にはいつ買ったのかは覚えていないが「会議中」の白い札をぶら下げておいた。
「どうでぇ、カティサークでもやったコトねーぜ、いきなりZAP幕張なんかサ」
雄太のベッドに足を組んで踏ん反り返りながら意気揚々とエイリーが言った。
雄太は椅子に座ってパソコンを操作しながらエイリーをチラチラと見た。普段はジーンズしかは履いていないので気付かなかったがタイトスカートから覗く細い足がキレイだ、それにスーツ姿が意外と似合っている。馬子にも衣装、と言えば殺されるだろうから雄太は黙っていたが。
「さすがエイリーさん、ありがとうございます」
エイリーの横にちょこんと腰掛けたミコが言った。
「第三回ネクスト・アイドル・フェスティバル、通称ネクフェス。対バンは、ゆるふわガールズ、インターフローラ、BLUE SUGAR、シスターテイル 。一番有名なのはピンキャデの妹分と言われているインターフローラか、けっこう大きいイベントなんだな」
「持ち時間は30分で、オリジナル曲しかやれねーからオレらの曲で大人しめのやつをミコに覚えてもらえば尺はもたせられるだろ?」
「しかしノルマが1500円で50枚か、俺の貯金がドンドン減っていくな」
「チケット単価は高くネーからある程度は売れるだろうけど、先行投資だと思ってガマンしろ」
「それまでにまだ何回か路上ライブは出来ますし、学校の友達にも掛け合ってみますね」
「お、ありがたいネェ。マァそこで評判がよけりゃあ、今度はもっといい条件で仕事の依頼もくるさ、そしたら儲けも出るようになるし、オレにも給料が出る。頼むぜミコ!」
バンっとミコの背中を叩いた。
「エイリーさあ、人前ではちゃんとした言葉でしゃべってるんだろうな?」
「はい社長。女は化けるものでございますよ。ねえ、ミコさん」
「そうですね、きっと雄太はエイリーさんの今まで見たことのないスーツ姿の綺麗さに戸惑ってるんですよ、ギャップ萌えっていうやつですかね」
エイリーは普段からスッピンか過激なパンク風メイクしかしていないので、確かにキチンと仕事向けの薄いメイクをした顔は、初々しいOLにみえて好印象だ。話し方さえきちんとしていればモテるに違いない。
「ははは、なんだかんだ言ってオレもまだ十九歳だからな、アイドルとしてもいけんじゃね?」
「いっそ二人でデビューしますか、ピンクレディーみたいに」
「はは、勘弁してくれよ」
雄太に枕が飛んできた。
「そんなん行くに決まってんじゃん!」
その日の夜、恒例の駅前路上ライブが終わって、ミコの握手会兼チケット手売り会を終えると、今日も塾の帰りに見にきてくれて、ミコとファンの交流が終わるのを最後まで待っていた加奈子とミドリが、早速チケットを購入してくれた。
「バレー部でもきっと何人か行きたいヤツいると思うから宣伝しとくよ」加奈子が言った。
「ありがとな、でもあんまし強引な勧誘はやめとけよ」
今日はギターはキョーイチに任せ、マネージャーとしてスーツ姿で活動していたエイリーがミコの横に来て上機嫌で言った。まだネクフェス側からは公式にアナウンスされていないのに、ライブ中MCで言っただけにしてはどうやらチケット売り上げは上々らしい。それにさっきスーツを着た誰かと何度か名刺交換もしていたから、注目度は上がっているのかもしれない。今やミコのライブは駅前の小さな公園では収まり切らないほどの聴衆が訪れていて、駅前路上ライブ始まって以来の入場制限が課せられるのも時間の問題だと、駅前振興会のスタッフも嬉しい悲鳴を上げながら交通整理に追われていた。
「ミコちゃんすごいねぇ」
加奈子はエイリーにお金を払い、受け取ったチケットを見ながらいった。
「いえいえ、エイリーさんや皆さんのおかげです」
「さっきテレビ局の人が見にきてくれてさ、今度朝の情報番組で路上ライブの取材させてくれってさ。オレの飛び込み営業が実を結んだんだな、うん」
「ええ、ミコやるじゃん! アタシらも同級生代表で映れるかも!」
ミドリもミコの手を取ってはしゃいでいる。
「まだまだこれからよ、まずはネクフェスを成功させないとね」




