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Bメロ 六


 路上ライブの翌日から、ミドリはさっそく彼女のクラスにCDを広めてまわっているらしい。そのせいか休み時間に加奈子のクラスへ金城ミコトの様子を覗き見に来る者が増えてきた気がする。加奈子もCDを両親に聞かせ、ポータブルのMP3プレーヤーにデータを変換してこっそり学校に持ち込み、放課後にクラブの後輩に聞かせてあげたりした。両親の反応は「歌は上手だけど今のJーPOPはあんまり好きじゃない」と評価は今ひとつだったが、後輩達の評価は上々だった。

(これで呪いはかからないかな……)

 加奈子は、もしミコトが本物の神様だったら本当に呪われてしまいそうかも、と少しおっかなかったのだ。今の所イヤホンのコードが絡まってしまうことはないのでひと安心だ。

 一週間ほどは、特にミコトに変化は見られなかった。少し意外だったのが、国語や英語の授業では優等生っぷりを発揮しているた。だが数学や理科に関しては、実験道具の扱い方がまったくわからなかくて危うく爆発させそうになったり、「和算なんか忘れたわ」「漢数字じゃないとわかりにくい」と意味不明なことを呟いたり、図形の面積の求め方なども「え、頭いいのになんでそんなことも知らないの?」というような間違いをすることが時々あった。それでも彼女は一度学習したことは二度と間違えなかった。

 音楽の授業は二学期に入ってまだニ度しかなくて歌声は少ししか聞けなかったが、休み時間に音楽教室に置いてあったクラシックギターで流麗なソロギターを演奏して見せたり、選択教科の書道は、加奈子はもちろん先生すら読めないほどの達筆ぶりだったし、そこに加えてアイドル目指して路上ライブをしているとの噂も広まってきたのだ。ミコトはまだ転校してきて三週間程しか経っていないのに、クラスどころか学校中の注目の的だった。


 放課後、体育館でバレー部の練習開始前に加奈子はミドリとペアになってストレッチをしていた。バレー部は三年生が引退した今、一二年生合わせて二十人程が準備体操をしている。体育館の半分はバレー部が使い、網で仕切ったもう半分側ではバスケ部がアップを終えてシュート練習をしている。

「いいわね、嵐を呼ぶ転校生って感じで。ドラマみたい」

 ミドリが座って股割りをしている加奈子の背中にのしかかりながら言ってきた。

「え? 金城さんの事? んぐぐ……ヤベ、最近身体硬くなったわ」

「知ってた? アンタのクラスの浜口が告ったらしいじゃん」

「マジ!? 浜口って……女じゃん!」

「まーそうしたい気持ちもわからなくもないけどさ。他にもアホな男どもも何人か特攻したけど全然ダメだったってさ、まあミコちゃんが誰かと付き合うってのも想像出来ないっつーか」

「あー、わかるわかる」

「何げにイケメンっつーか英語で言うとハンサムだっけ、完璧超人すぎてだれも釣り合わない感じするじゃん」

 まだミコトと初めて出会った日についての疑問が解けていない加奈子は、相変わらずミコトと喋るチャンスをうかがっていたのだが、そうしている間に、ミコトの周りに群がる連中に耕一の姿が加わっているのに気付き、それをチラチラと睨んでいる博美の態度にも気付いた。睨んでいるのは耕一なのか、それともミコトなのかは判断がつきかねたが、あまりの人気っぷりに嫉妬する者がいてもおかしくはないなと心配になっていた。ミコトが気になる事もあってか、いつの間にか耕一に憧れていたのがどうでもよくなっているのに気付いた。

(完璧超人か、ホントにそうかもしんないぜ、ミドリ)

 もし『通りすがりの神様』ってのが真実だとしたら。

「ミドリさ、あんた最近イヤホン絡まってなくない?」

「ハア? 何ワケわかんないこと……あれ? ミコちゃん」

 加奈子はミドリを振り返って視線の先を追いかけた。体育館の入り口に一人立って中をじっと見つめるミコトの姿があった。他にもミコトに気付いた者が何名か遠巻きに様子をうかがっていた。加奈子はバスケ部の誰かがミコトのほうへ近寄ろうとする気配を察知して、電撃が走ったように立ち上がり、ミコトのほうへ一息にバタバタと駆け寄った。

「よー、金城さんっ」

「ああ、ビックリした。そういえば竹下さんバレー部だったね、ユニフォームカッコイイー」

「どうしたのさ」

「吉田先生に何か部活はしないのかって言われたから見て回ってるんです」

 思わぬ所でチャンス到来、と加奈子は思った。

「へーそうか。じゃあアタシがいろいろ案内してやろーか?」

「ホントに? でもいいの、バレー部の練習は……」

「いいよいいよ。おーい、ミドリー! 転校生案内しに行ったってセンセーきたら言っといてー」

「ああん? いいけどちゃんとバレー部にも勧誘すんのよー」

 加奈子は一応文化系のクラブを先に周り、続いて運動場に「ココは市内一強いんだぜ」「直田さんは全国大会出たことあるんだ」などと解説をくわえつつ運動部を案内してまわりながら、ミコトと二人きりになれるチャンスを密かにうかがっていた。

 そして体育館の裏手にある剣道場を案内した後、だしぬけに加奈子はミコトの手首を掴み「ちょっとちょっと」と言って剣道場と体育館のすきまに引っ張り込んだ。ここならうまい具合に木に隠れて通りから見えない。

「なんですか、竹下さん。いきなり……」

 ぽっと顔を赤らめて顔をそむけている、が、口元が微妙ににやけている。

「あ……ちょいと聞きたいことがあってな」

 加奈子は手首を掴んでいた手を離して向かい合った。

「付き合ってる人ならいないんですけど、私女の人と付き合うのは……興味ないこともないんですけど今は大事な時なんで……」

「はあ? ちげーよ。告白とかじゃねーから……えーと、金城さんさ、夏休みの終わり頃アタシと会ってるよな?」

「あちゃー、やっぱり覚えてた?」

 いきなり態度が明るくなった。

「そりゃあいきなり目の前から人が消えたんだぜ、最初は夢かと思ったけど、どう考えても現実だし」

「あれはアイツが悪いっつーか結界に勝手に入ったあたしの方も悪いっちゃ悪いんだけど……手品ってコトにしといてくんない?」

「なんねーよっ」

「まさか同じ学校の同じクラスになるとは思わなくって、神様ってば意地悪っ」

「いや、アンタも神様なんだろ?」

「まあ、そうなんだけど」否定はしないのか。

「証拠とかは見せないわよ、手品だって疑われるのヤダし」

「いや、もう信じてるよ」

「マジ! 嬉しいわ、雄太なんか今だに猫又か化け猫かって疑ってるもの。あ、雄太ってのはこないだ私の後ろでカホン叩いてたやつで一応いとこってことになってるの」

「でもさあ、フツー神様だとか隠さなくていいのかよ」

 加奈子は素朴な疑問をぶつけてみた。

「現代の人が神は存在しないものだと勝手に思い込んでるから、いろいろ混乱を避けるためには秘密にしておいた方がいいんだけど、竹下さんには下手なトコ見られちゃったし、信心深いから別にいいかなって。一応他の子には内緒ネ」

「ああ、光栄だネ。あと加奈子でいいよ、みんな呼んでるし」

「ふふ、あたしのこともミコでいいわよ」

「うーん、なんかミコ見てると神様のイメージっつーかさあ、喋り方とかスンゲー違和感あるんだよなあ」

「時代に合わせて神様も適応力が問われているのよ、今時古代の装束に髭モジャで頭がみずらなんて神様いないよ。須佐之男命なんて黒のスーツ来てサングラスにオールバックでヤクザそのものなんだから」

「ハハハ、荒くれ者だから分かりやすいね。でさ、気になってたんだけどさ……あの……耕一と博美になんかした?」

「何もしてないわ、年頃の男なんて移り気だからね、ちょっとしたことで好きな女の子がコロコロ変わるわよ。それはともかくそろそろバレー部も見せてくれないかしら、東京オリンピックの時は東洋の魔女を応援してたんだから」

「ああ、わかったよ。行こうか」

 加奈子は東京オリンピックっていつの話だよ、と心の中でツッコミを入れた。


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