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Bメロ 五


「お疲れー」

 ミコは駅のトイレでおとなしめの服に着替えて、雄太達と駅前の雑居ビルにある、カウンターとテーブルが二つだけの、店は狭くて汚いが味は一流の雄太のお気に入りのラーメン屋で反省会を開くことにした。ミコ、エイリー、雄太達と、先程は撮影係としてハンディカムを廻していたキョーイチと、雄太の父のデジタル一眼レフを借りて写真を撮っていたマサトシの二人も加わって四人掛けのテーブルに詰めて座った。

 エイリーは居酒屋に行くことを主張したが、「たとえ酒を飲まなくても中学生アイドルが居酒屋というのはスキャンダルになってしまう。今のウチからガードは固めておくべきだ」と兄のキョーイチに諭され渋々席に着いてさっそく一人生ビールを注文した。

 そして「猫舌だから」とひとりゆっくりラーメンを食べているミコ以外のカティサークのメンバーはあらかたラーメンを食べ終えた後、会議を始めた。

「雄太、CDはどれだけ残ってる?」と、キョーイチは切り出した。

「二十枚焼いて、残りは一枚」

「まあまあだな、早くスタジオで録音してちゃんとしたのができるまでは小出しにして行こう」

「で、なんだったんだよマサトシ。あのアイドルオタの集団は? ライブ中笑いをこらえるのに必死だったんだぜ」雄太がぼやいた。

「ウチの大学のアイドル研究会に知り合いがいるんで、景気付けに呼んでみたんだよ。古参オタとしてでかい顔したいからあいつらは新しいアイドルに目がないんだよ。でも作戦は成功だろ? 人が集まっていないと歌を聴きたいと思っていても近寄りづらいものなんだよ。今日のはちとやりすぎだったかも知れんが、サクラはやっぱり大事だな。もう必要ないかもしれないけど」マサトシが胸を張った。

 路上ライブ初日の反省を踏まえて、雄太たちは知り合いに片っ端から声をかけた効果が徐々に現れてきたのだ。はじめはサクラできてくれた人も、ミコの歌が好きになってリピーターとなってくれる人も増えてきた。

「あーやっぱアコースティックはモノたんねぇー、爆音でやりてー」

 二杯目のジョッキを傾けてエイリーは愚痴をこぼした。

「場所的にアンプラグドしか出来ないんだから文句言うなよ」と雄太は戒めた。

「でもこのギターは気に入ったぜ」と言ってエイリーはテーブルに立てかけた古びた茶色のハードケースを指で撫でた。

「雄太のばーちゃんの形見の品だから売ってくれって言えないのが残念だぜ」

 このギターは祖母の葬儀の後、雄太がギターを弾けるから、といって形見分けとして横浜に持って帰っていたのだ。国産のオーダーメイドの無銘のギターで、オーダーしたのは実はミコなのだがそれは誰にも話していないので雄太の母も知らない。雄太の祖母のコマがギターを始めたいといった時に、ミコが数百年前から愛用していたがすっかり弾かなくなっていた琴の、希少な部材を一部再利用して作ってコマにプレゼントしたのだ。その希少な部材のおかげで実に哀愁漂う枯れた音色を醸し出す。見る人が見ればこちらの言い値で買い取る者があらわれる程の逸品なのだが、幸い親族にギターの価値が分かる者が誰もいなかったのですんなりと雄太のものになった。ちなみに琴の部品の残りの一部は御神体として大木の傍の小さな社に今も奉られているほど、実は霊験あるギターなのだ。

「動画もキレイに撮れてるから、ちょっと編集すればすぐにでもネットにアップ出来そうだな」

 ハンディカムの小窓で映像を再生させながらキョーイチが言った。

「写真も素材がいいからフォトショでいじらなくてもそのまま使えるから楽できそうだ、今の時代はネットを駆使するのが人気獲得の近道だからな、さっそくツイッターにあげとくわ」

 マサトシはふーふーとさましながらラーメンをすするミコを撮りながら言った。

「変なコトつぶやいて炎上させんなよ、マサトシ」

「任せときな。ミコちゃんのためだ、リスク管理は気をつけて頑張るよ」

「炎上させたらテメーが火あぶりだかンナ!」

 エイリーは中指を立てた。

「みなさん、ありがとうございます」

 ミコはラーメンを食べている手を止め、ぺこりと頭を下げた。

「最初は全然人が集まらなくてどうなる事かと思いましたけど……」

「歌は上手いんだから、ちょっとそこいらのアイドル目指してる女の子とは違うんだというところを見せればきっと食いついてくると思ったんだよ。アイドルファン層だけじゃなくて通行人全体にアピールするのはどうすればいいかと考えて、せっかくミコは古い洋楽に詳しいんだからそれを利用しない手はないなと思ったわけ」と雄太が自慢げに言った。

「さすがプロデューサーだな」エイリーが茶化す。

「あっという間に駅前でも話題になってるし、ネットでも情報出しはじめたらもっと勢いが出てくるぜ。CDもプレスしたら結構売れると思うし、そろそろ事務所探しでもした方がいいんじゃね?」エイリーが問いかけた。

「あ、それなんだけどさあ……ちょっと考えがあって」

 雄太はおもむろに話しだした。

「俺達で芸能事務所立ち上げられないかなって」

「オレらで!?」皆びっくりして大声をあげた。

「ほら、いわゆる学生ベンチャーってヤツさ。会社って形式よっては立ち上げるのにほとんど費用かからないらしいじゃん。エイリーにヒマそうだからマネージャーとして動いてもらってさ、みんなでミコをプロデュースするんだ。コネがない最初は苦しいかもしれないけど、ミコの実力があればなんとかなるかと思って……ほら、芸能事務所って当たれば儲かるってイメージあるしさ」

「フーン、成功すれば金の雨が降るってか、オレは賛成、就職もできるしナ。ついでにカティサークも売り込もうぜ」エイリーは親指を立てた。

「俺もいいぜ、この間簿記二級取ったから経理なら出来るし」キョーイチが言った。

「雄太にしては良いアイデアだ」マサトシも頷いた。

「なんだよ、俺にしてはって……で、ミコは?」レンゲをくわえたまま固まって何か考え込んでいるミコに尋ねてみた。

「ふふ、みんなで幸せになりましょ」

 ミコは笑って右手をテーブルの上にのばした。エイリーがその上に掌を重ね、皆も次々と従った。

「よっしゃーやんぞぉ!」

「おおー!!」

「で、誰が社長ヤるんだ?」

 自然と皆の視線が雄太に集まった。

 雄太たちは食事を終えると「ここは社長の奢りでヨロシクー」などと大騒ぎしながらぞろぞろと店を出た。店の片隅の壁掛けテレビでは、店を出る少し前から四人組の巫女装束の少女達が歌っている映像が流れていたが、チャーハンを炒める音が邪魔をして音が聞こえなかったせいか、誰も気付く者はいなかった。


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