レイヤー8 マーケティング
装丁まで整えた魔導書が、机の上に並ぶ。
中身、外側、再現手順。すべてが揃っている。
後美洋蔵は一通り確認し、手を止めた。
「……最後です」
研究員が顔を上げる。
「まだあるのか」
「あります」
短く答える。
「使われ方の設計です」
「もう十分だろう。現場に回せば使う」
「使いますが、最適には使われません」
間を置かずに言う。
研究員は眉をひそめる。
「何が違う」
洋蔵は一冊を手に取る。
「これは防衛用術式です」
「そうだ」
「ですが、それを“知らない人間”が見て、正しく判断できますか」
沈黙。
「……難しいな」
「だから伝えます」
机に新しい紙を広げる。
「用途、効果、使用条件、注意点」
項目ごとに整理して書き出す。
「説明書です」
「そんなもの、今までなかったぞ」
「だから誤用が起きていました」
淡々とした指摘。
さらにペンを走らせる。
「配布先も整理します」
・城壁防衛部隊
・魔導師部隊
・予備兵
「それぞれに、必要な情報が違います」
研究員が覗き込む。
「同じものを渡すんじゃないのか」
「非効率です」
即答。
「使う人に合わせて情報を変えます」
「……そこまでやるのか」
「やらないと、使われません」
静かな断言。
紙をもう一枚取り出す。
「優先順位も付けます」
・緊急時に使う術式
・常時配備する術式
・訓練用
「現場が迷わないようにします」
研究員は腕を組み、深く息を吐く。
「お前は……魔導書を作っているんじゃないな」
洋蔵は少しだけ考える。
「使われる仕組みを作っています」
それが最も近かった。
部屋に静かな理解が広がる。
ただ強い魔法を作るだけでは足りない。
正しく伝え、適切に使われて初めて意味がある。
研究員は小さく頷く。
「これも一緒に回す」
「お願いします」
洋蔵は軽く頭を下げる。
納品物は、魔導書だけではない。
運用、説明、分類。
すべてを含めて一つの成果物。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
仕事は完了に近づいている。
整えたものを、
正しく使わせる。
みんなのステータスが見えるといいのにね




