レイヤー7 装丁も
入稿準備が進む中、机の上には複製用の紙と基準書が整然と並んでいた。
後美洋蔵はその一式を確認し、手を止める。
「……まだありますね」
小さく呟く。
背後の研究員が反応する。
「何がだ」
洋蔵は完成した魔導書の束に視線を向ける。
「外側です」
「外側?」
「中身は整っています。ですが、このままだと運用時に混乱が出ます」
一冊を手に取り、軽く持ち上げる。
「どれがどの術式か、判別しにくい」
表紙には何も書かれていない。
革の色もほぼ同じ。使う側は中を開いて確認するしかない。
「……確かに、現場では毎回開いて確認しているな」
「非効率です」
即答だった。
机に紙を広げる。
「装丁を設計します」
「そうてい?」
「外観設計です」
ペンを走らせる。
表紙の上部に術式名。
中央に識別用の図形。
下部に用途と使用制限。
さらに背表紙にも情報を入れる。
「棚に並べた状態でも判別できるようにします」
研究員が覗き込む。
「色も変えるのか」
「はい。用途ごとに分類します」
・防衛系は濃色
・攻撃系は暖色
・補助系は淡色
視覚的に瞬時に判断できる設計。
「……一目で分かるな」
「それが目的です」
洋蔵は淡々と続ける。
「中身だけ整っていても、使われなければ意味がありません」
表紙のデザインを指で軽く叩く。
「使う側の負担を減らします」
研究員はしばらく黙っていたが、やがて口を開く。
「魔導書は中身がすべてだと思っていた」
「違います」
即答。
「“どう使われるか”まで含めて設計です」
静かな言葉だった。
完成した見本を差し出す。
研究員はそれを受け取り、ゆっくりと眺める。
「……別物だな」
「はい」
「同じ術式でも、扱いやすさが違う」
洋蔵はわずかに頷く。
「情報は、見せ方で変わります」
部屋に静かな納得が広がる。
これまでの魔導書にはなかった概念。
外側まで含めた設計。
研究員は小さく息を吐く。
「これも入稿に含めるのか」
「はい」
「複製時に統一します」
迷いのない返答。
机の上に、中身と外側、両方の設計が揃う。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
仕事は終盤に差し掛かる。
整えるのは、中身だけではない。
使われ方そのものだ。




