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レイヤー2 納期は?
石造りの廊下はひんやりとしていた。
足音がやけに響く。
後美洋蔵は、魔導師ギルドの建物の中を歩いていた。
案内役の研究員は足早で、こちらを振り返ることもない。
通された部屋には、大きな机と積み上げられた魔導書。
紙とインクの匂いが混ざっている。
机の向こうに座っている男が、ゆっくりと顔を上げる。
「報告は聞いた」
低い声だった。
「魔導書を“整えた”そうだな」
「はい」
机の上に一冊の魔導書が滑らされる。
「では、これもやってみろ」
ページを開く。
複雑な術式。だが本質は同じ。
ズレと不均一。
「これ、納期は?」
空気が止まる。
「……何だと?」
「いつまでに必要ですか」
「三日後だ。王都防衛用だ」
洋蔵は頷く。
「三日で仕上げます」
「できるのか」
「はい。ただし——」
視線を上げる。
「作業環境を整えてください」
机、紙、インク、道具。
すべてが不十分だった。
「この状態だと精度が落ちます」
沈黙の後、許可が下りる。
「途中確認も入れます。段階的に仕上げます」
異世界にはない進め方だった。
そして、
「初稿は、今日中に出します」
三日という期限に、“今日中”という区切りを差し込む。
ペンを取る。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
やることは一つ。
整っていないものを、整える。
納期は守るためにある




