レイヤー15 需要と供給
夜。
机の上には、これまでのすべてが並んでいた。
マーケティング。
バフとデバフ。
回復と治癒。
気象と事象。
作用と反作用。
後美洋蔵は、それらを一枚の紙にまとめていた。
「……ここで決まる」
小さく呟く。
研究員が椅子に腰かける。
「何がだ」
「成立するかどうかです」
紙を指す。
「術式は完成しています」
「ですが、それだけでは足りません」
一拍。
「使われなければ、存在しないのと同じです」
研究員は腕を組む。
「つまり?」
「需要と供給の一致です」
短く言い切る。
紙に二つの円を描く。
片方に書く。
「需要」
・必要とされているか
・欲しがられているか
・使う理由があるか
もう一方に書く。
「供給」
・届いているか
・使える状態か
・適切な量か
円はわずかにずれている。
「現状はここです」
研究員が覗き込む。
「重なっていないな」
「はい」
洋蔵はペンで重なる部分を描く。
「ここが“成立点”です」
静かな声。
「ここに入らない術式は、不発になります」
研究員が息を吐く。
「性能が高くてもか」
「関係ありません」
即答。
「必要とされていなければ使われません」
紙をめくる。
「逆もあります」
・需要が高い
・供給が不足
「この場合は過負荷になります」
「奪い合いが起きる」
研究員が頷く。
「現場が混乱するな」
「はい」
さらに続ける。
「供給過多も問題です」
・使われない術式
・余剰在庫
・管理コスト増加
「無駄が増えます」
研究員は苦笑する。
「どこかの組織と同じだな」
洋蔵は反応しない。
「なので調整します」
紙に矢印を書く。
「マーケティングで需要を測る」
「バフで一時的に押し上げる」
「デバフで過剰を抑える」
「そして——」
ペンが止まる。
「最終的に、ここに収束させる」
重なった円を指す。
「適正量です」
沈黙。
研究員がゆっくり口を開く。
「……これは魔法の話か?」
洋蔵は答える。
「運用の話です」
それが本質だった。
しばらくの静寂。
やがて研究員が小さく頷く。
「これで、無駄撃ちが減る」
「はい」
「必要な場所に、必要な分だけ届く」
「はい」
洋蔵は紙を整える。
術式は完成している。
だが、それが世界に届くかどうかは別の話。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
作るだけでは終わらない。
成立させて、初めて仕事になる。
誰が何の目的で使うのか
何事もバランスが重要




