レイヤー13 気象と事象
前線からの報告書が積み上がる。
洋蔵はその中の一枚を抜き出した。
「発動失敗。原因不明」
同じ文言が、いくつも並んでいる。
別の報告書を開く。
「出力低下。想定の六割」
さらにもう一枚。
「暴発。周囲に影響あり」
洋蔵は静かに息を吐く。
「……共通点がある」
机に並べる。
発生地点。時間。結果。
「天候が違う」
後ろから研究員が覗き込む。
「雨、霧、強風……確かにばらばらだ」
洋蔵は頷く。
「影響を受けています」
紙に書き出す。
・湿度
・気温
・風速
・気圧
「魔法は環境から切り離されていません」
研究員が腕を組む。
「気象で変わるのか」
「変わります」
即答。
「特に拡散系、熱量系は顕著です」
報告書を指す。
「炎系は雨で減衰」
「霧で視認系が低下」
「風で範囲が変動」
研究員は小さく頷く。
「言われてみれば当然だな」
「ですが、設計に反映されていません」
淡々とした指摘。
洋蔵は新しい紙を広げる。
「気象条件を前提に組み込みます」
・推奨環境
・非推奨環境
・補正値
「発動時に判断できるようにします」
研究員が顔を上げる。
「現場でそこまで見る余裕があるか?」
「簡略化します」
短く答える。
紙に記号を書く。
・晴
・雨
・霧
・風
「条件別にアイコン化します」
「直感で判断できるようにする」
研究員は少し驚いた表情を見せる。
「……視覚で伝えるのか」
「文字より速いです」
さらに続ける。
「加えて、“事象”も分けます」
「事象?」
「気象は外部環境です」
一拍。
「事象は、発生している現象です」
紙に書く。
・戦闘中
・静止状態
・移動中
・密集状態
「同じ術式でも、状況で結果が変わります」
研究員は考え込む。
「確かに……乱戦では制御が難しい」
「なので使用条件に含めます」
・単独使用推奨
・集団使用注意
・移動中使用不可
「曖昧にしません」
静かな断言。
研究員はゆっくり頷く。
「……環境と状況、両方を見るのか」
「はい」
洋蔵は紙をまとめる。
「再現性を上げるためです」
魔法は万能ではない。
条件の上で成立する現象。
それを無視すれば、結果はぶれる。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
見えない前提を、
見える仕様に変える。




