レイヤー11 バフとデバフ
異世界にはスマホもマックもペンタブもイラレもフォトショもPDFも無い
あぁ不便だなぁ…
前線視察から戻った夜。
洋蔵は机に資料を広げていた。
記録したログ。
成功例と失敗例。
術式の発動条件と結果。
紙の束はすでに数十枚に及ぶ。
「……偏りがある」
一枚を抜き出す。
「強化系は成功率が高い」
別の束を見る。
「弱体化系はばらつきが大きい」
後ろで研究員が腕を組む。
「感覚的には逆だと思っていたが」
「そうでもありません」
洋蔵は淡々と答える。
「バフは“足す”設計です」
紙に書く。
・出力強化
・防御増幅
・速度上昇
「元の状態に対して上乗せするだけなので、誤差に強い」
研究員が頷く。
「ではデバフは?」
洋蔵は別の紙に書く。
・出力低下
・防御減衰
・行動阻害
「デバフは“引く”設計です」
「それが何だ」
「基準が必要になります」
ペンを止める。
「対象の現在値を正確に把握しないと、適切に引けません」
一拍。
「つまり、情報依存です」
研究員が眉をひそめる。
「敵の情報など、戦場で正確に取れるか?」
「難しいです」
即答。
「だから不安定になります」
紙をめくる。
「実際、デバフ失敗の多くは“過剰”か“不足”です」
「効きすぎるか、効かないか」
「その通りです」
さらに一枚を差し出す。
「加えて、耐性の影響も受けやすい」
研究員は目を通す。
「……確かに、対象によって結果がばらついている」
洋蔵は頷く。
「なので、分けます」
新しい紙を広げる。
「バフ系とデバフ系で、設計基準を変えます」
「どう変える」
「バフは現行の標準化で十分です」
「デバフは?」
少し間を置く。
「段階化します」
紙に書く。
・軽度
・中度
・重度
「固定値で削るのではなく、段階的に影響を与える」
「対象の差を吸収します」
研究員は腕を組んだまま考える。
「……なるほどな」
洋蔵は続ける。
「さらに、デバフは“前提条件”を明記します」
・対象確認
・距離
・持続時間
・解除条件
「曖昧なまま使わせない」
静かな断言。
研究員は小さく笑う。
「面倒な仕様だな」
「その方が安全です」
「現場は嫌がるぞ」
「ですが、失敗は減ります」
言い切る。
しばらくの沈黙。
やがて研究員が頷く。
「……採用しよう」
洋蔵は紙をまとめる。
バフは安定化。
デバフは制御。
同じ魔法でも、扱いは異なる。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
見えない効果を、設計に落とす。
…AIってもはや魔法だよね




