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盲目のサムライ

 #1-1 「サムライ町に現る」

 宇宙の辺境の田舎町の、とある昼下がり。大通りで騒ぎが起きた。通報を受け現着した保安官のヘンリクは、大通りで刀を抜こうとしている盲目のサムライを目にした。


 黒い布を巻いて目を隠し、薄汚い着物を身にまとうサムライは、白昼堂々、アジア映画の達人のように、腰を落とし、息を細く吐きながら、薄く握りかけた右手を刀のそばで静止させている。


 ヘンリクは野次馬を押し除け、ピストルを構えながら「銃刀法違反だ。武器を捨てろ」と威圧した。

 しかしサムライは従わない。それどころか深く腰を落とし脚力を溜め、柄を握りしめた。ヘンリクは身の危険を感じ、引き金に指を運ぼうとした刹那、


 「こいつは帰還兵だ。銃を下ろしてやれ。命が惜しけりゃな。」と静観してたジョンス班長がヘンリクを止めた。


 なるほど。刀は軍用高周波ブレードだ。さらによく見ると、足の甲は、普通ではあり得ないほど血管が浮き出ている。サムライは心臓や神経など、あらゆる肉体を戦場用に改造されているのだ。


 「このまま引き金に触れていたら、おまえの首は地面に落ちていただろう。」ジョンスはヘンリクに語りながら、サムライに歩み寄った。

 サムライは身体を石のようにして微動もしない。ヘンリクは瞬きもせず固唾を飲んでジョンスを見守った。


 「安全化は完了した。任務を解く。休め。」


 ジョンスは羽根のように柔らかく、指先をサムライの肩に置き、軍隊のベテラン隊長のように、厳かで明朗な口調をもってサムライに命じた。


 なるほど、帰還兵を石のように固めているのは、戦場が導き出した軍隊の掟。ならば、その呪縛は軍隊の形式によって厳正に斬り伏せれば、解かれるかもしれない。


 するとサムライは、風船の結び目を一気に解いたように、「ふしゅぅぅぅ」と息を細く、長く吐き出した。

 そして、どさりと、切り倒された樹木が落下するように地面に倒れ込んだ。







#1-2 「灰色に風」

 爆裂が鳴り響き、肌を焦がした。飛来する砂礫が肌を切り、カミソリのような痛みをもたらす。おそらく突撃前の砲撃。敵が来る。敵が来る。

 刀を握る。銃撃を切り捌くために。

 切る。切って切って切り続ける。弾も首も胴も。なにもかも。切る切る切る。   


 なぜ切る?そのあとは、そのあとは…。






 顎と首が張り付つきそうなほど、首をすくめて、全身を固めながら、渾身の力で息を吸い込んだ。神経は生体ファイバーケーブルに置き換えられているため、生の肉体が潰れて鬱血してもお構いなしな力で、石のように筋肉で固められた体で、必死に息を吸い込んだ。


 迫り上がる苦しさでゲェア、ゲェアと息を吐き出そうともがく。おもむろに、自分は夢を見ていたことに気がついた。そして今、自分は、戦場ではない現実のどこかに、身体を起こしていることに、気が付ついた。


 ここはどこだ?尻と踵には寝具特有の柔らかさが伝わってきた。試しに体を横たえると粒の詰まった柔らかい枕に触れた。刀は?杖が欲しい。刀を!刀がなければ、私は…。サムライは必死に刀を探し求め、そして段々、息が苦しくなってきた。

 

 その時、「お目覚めのようで、お侍さん」と聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「ここはどこだ、おれは、どうなる?刀はどこだ、お前は誰だ?」

「俺はジョンス。保安官だ。悪いようにはしない。まずは落ち着け」

「サストだ」

 ジョンスはにやけてこう言った

「しってるさ、ブレードの生体認証データのおかげでな」


コンクリート張りの部屋には、ほのかに珈琲の香りが漂っている。


続く

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