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第6話 魔族軍侵略

エルフと グレイスに齎される情報は、人間の少人数パーティーが数組森に入り、どのパーティーも大きな被害を出している事くらいである。

侵攻して来た人間の軍隊は、依然として消息不明のままであった。


3千人もの人間が居れば、食料や日常活動の痕跡は、何某かが残るはずである。

それが一切存在しない!って事は……


「悪魔を封印する力も消失したのだ。悪魔は封印から解き放たれたと考えるべきだが……」

「悪魔の目撃情報も何一つ届いておりませぬ。」

グレイスと、エルフの長は時折情報交換を行うものの、何も進展が見られない。


「悪魔を封印する力によって人間の部隊が消滅し、封印されていた悪魔は封印中に消滅していた可能性はあると思うか?」

グレイスは、希望的予測を エルフの長へと投げかける。自分が、都合の良い話をしている事は重々承知の上だ。


「現状現れた表面だけを見れば、そのように見えますな。

 その仮説の話を信じたい気持ちはありますが……」


古の悪魔は消滅したと、安易に結論付ける訳にはいかなかった。

あまりにも不気味な静けさなのだ……


「古の悪魔の件は警戒を継続するとしても、魔族軍が人間領の帝国へ向けて進軍しているのは何故です。

 エルディア帝国の精鋭部隊 3千人が壊滅したのであれば、敵の兵力が回復する前に帝国を攻めようとお考えか?」


「今回は人間側から仕掛けて来たのだ。反撃を受けたとしても文句は言えまい。

 それに、人間との戦争を望む連中は、いつも一定数はいる。人間領を攻め込む為の計画もこれまで継続的に行ってきたしな。

 それを実行したがっている奴がいるのさ。」


「エルディア帝国を滅亡させるだけの兵力を動員する事は叶いますまい。

 帝国の一部を支配なさいますか……」


エルフの長は、的確に魔族軍の限界点を指摘した。

長の言う通り、魔族全体が結集して攻め込むのならともかく、戦争に参加するのは魔王数名分の部隊だ。そして、魔王自身は戦闘に参加しないのだろう。

兵力全体の総数は、3千人の精鋭を失ったとはいえ、いまだエルディア帝国の方が数では勝っている。

おそらく数で勝る帝国には、その数を有効活用させない策を用いるものと思われる。


「今回、動いた魔王は 3名ですかな?」

グレイスは、何も答えない。作戦の全貌をエルフの長に説明する理由もないし、これは軍事機密に属する内容だからだ。


「我々の攻撃部隊が、この森を抜ける事を黙認して欲しい。

 本来の目的は人間領を攻める事だが、森の中も一気に捜索ができる。」


「我々の屋内を土足で踏みにじられる思いですが、今回は仕方ないと言ったところですか……

 他の長には、私から連絡を入れておきましょう。くれぐれも、森を荒らさぬよう御願い致しますよ。」


人間の部隊が消息不明になってから一週間足らずで、魔族軍は軍事行動を開始させていた。

人間側の軍事作戦を事前に察知していた為、準備は事前に終えていた為だ。

問題は、古の悪魔が封印されし地域での戦闘であったが、それを考慮する必要が無くなれば、この森を直接通り抜ける進軍ルートが確保された事になる。


エルディア帝国の南方から攻め込む部隊と連携できれば、エルディア帝国に対し同時に二正面作戦を強いる事が可能となる。

それに、前々から継続的に行ってきた作戦計画を試してみる時が来たのかもしれない……


人間の部隊が消息不明になってから一ヶ月後、遂に魔族軍は エルディア帝国に到達し、二正面作戦を仕掛けてきたのである。

魔族軍の軍事行動は人間の冒険者達によって少し前に情報が齎されたが、エルディア帝国の軍部は機能不全に近い状態であった。

3千人もの精鋭部隊が消息不明となり、魔族軍の大軍が二正面作戦を仕掛けて来た情報を得た時点で、今後の作戦を立案しなければならないのだが、それが出来ない状態にある。


当初は、3千人もの精鋭部隊を失った責任問題の追求と今後の対策であった。

その時点でも責任追及問題が紛糾している状態であったが、消息不明から二週間後、新たな問題が エルディア帝国内全土で勃発した。

魔族が長年をかけて準備してきた作戦計画が発動したのである。


突如として多くの人間が化け物の姿へと変貌し、家族や身の回りにいた人間を殺し始めたのだ。

また人間の体が突然爆発し、多くの死傷者を出す謎の事件も多発した。

帝国内は混乱と恐怖が支配し、悲鳴が街中の至る所で鳴り響く。


当然軍や高官。或いは貴族の中にも化け物に変わる者や人間爆弾が発生した。

こうなれば、誰もが疑心暗鬼となって誰も信じられなくなる。

化け物や人間爆弾になった者の多くは捕虜交換で帰還した者達が多かった事から、魔族から何らかの呪いや魔法の類が疑われた。


それは一部の事実を言い当てていたが、化け物や人間爆弾になった者は帰還者だけではない。

一般人、政府関係者、軍人、老若男女関係なく発生する事態に、治安維持に務める者達は辟易とした。

貴族や金持ちは エルディア帝国を見限り、自分達だけでも安全な国へ逃げ出す始末。

当然護衛の部隊も同行させる為、エルディア帝国を守る兵力は低下した。


その様な状況下で、魔族軍侵略の情報が齎されたのだ。

魔族軍が侵攻して来る方面の人々は嘆き悲しんだが、多くの人間がその地を離れようとはしなかった。

土地や財産を持つ者、執着する者達の多くは自分の家に留まったのである。


次第に エルディア帝国へ続く道で人の流れが止まり、人や物流が停滞した。

周辺国家も重大な対応を迫られる状況だが、帝国に肩入れして魔族軍を自国へ招き入れる愚策は選択できない。

各国の連合軍が結成するより前に、魔族軍の侵略を許してしまった失態は大きい。


故に、助力の姿勢は見せるが、実際は何もやらない方針を決定した。


エルディア帝国の軍部は機能していないが、現場を指揮する部隊と冒険者の一部が協力してエルディア帝国を守ろうと紛争している。

個々の部隊で治安維持を行う部隊と、魔族軍と戦うための部隊を編成した。

兵力はいまだ、周辺国家より強大であったが、果たして帝国を守る事が出来るだろうか?


「見事だ。二正面作戦の部隊を各個撃破したいところだが、人間爆弾を警戒せねばならず、部隊を一ヵ所に集結させる事が出来ない。

 帝国内の軍を最大限に活用する事も疎外された。

 ……さて、この状況……どうしたものか……」


ヴァルターは、口元で細く笑みを浮かべながら、前髪を掻き揚げた。

ヴァルターが直接指揮を出せる人数は千人を少し下回る。

それだけの人数で、数万を超える魔族軍と戦えるのだろうか?


「ま、やるだけやってみるさ。」

ヴァルターはそう言うと、副官達を集めて作戦を説明した。

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