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第5話 ペトラの過去

ルナと ペトラは、ドルミナ王国の宿屋で一緒に一泊する事にした。

お互い一緒に行動するとしても、お互いの事を何も知らないのでは協力もしづらい。

しかし、ルナとしても ペトラに話せない内容もある。自分が第一王女である事などは、軽々に話さない方が良いだろう。


自己紹介の内容は軽く流して、今後の事を重点的に話した方が良いかもしれないと ルナは思った。

エルディア帝国までの目的地は同じでも、ルナはその先にある魔族領の調査を行い、可能な限り早急に部隊と合流し、無事に皆を生還させたい。

食料はもって後一ヶ月程度……既に撤退を開始していなければ、誰も生還できないかもしれない……


ドルミナ王国から エルディア帝国まで移動し、準備を整えてから救援に向かう……

魔族領の調査を開始できるタイミングは、余裕を持って計算すれば 2ヶ月近くは必要となる。

ルナに救済の命令が下った時点で、タイミング的には間に合わない計算なのだ。


それでも、生きている人が居るのであれば、助けたい!

それが ルナの本心である。


「暗い顔をしているわね。話したくなければ何も聞かないけれど、ストレスが溜まっているのであれば、愚痴くらいなら聞くわよ。」

ペトラは神妙な表情をしている ルナに、優しく語りかける。昼間の男達に見せた鬼気迫る印象は窺えない。

こちらが、ペトラ本来の姿なのだろう。


「ありがとう ペトラ。心配しなくとも大丈夫よ。

 私は、魔族領へ侵攻し消息不明となった部隊の調査を依頼されているの。

 可能であれば、探し出して救助したい。」


「……なるほどねぇ。それだからこそ暗い表情をしていた訳かぁ。

 今から助けに行っても間に合わない。だから悩んでいる。

 でも、調査を依頼した依頼主も間に合わない事実は既に分かっているはず。

 報酬がいくら出るのかは知らないけれど、依頼を反故にしたところで依頼主も怒らないと思うわよ。」


おそらく依頼は成功報酬。

今から助けに行っても間に合わないと分かっているなら、依頼内容にも変更が必要となる。

それをやらない!って事は、初めからこの依頼に意味はない!って事なのだ。

意味があるとすれば、救助とは別の目的があるのだろう。


「まぁ、私としては、有能な仲間が増える事は喜ばしい事だわ。

 エルディア帝国で活動するついでに、消息不明の部隊を捜索する事を手伝っても良いわよ。

 でも、二重遭難の危険性が高いわね。3千人もの人数がいて消息不明とは異常よ。」


「危険度が高いと思えば、ペトラは魔族領の調査へは同行しなくて大丈夫よ。

 魔族領の調査は危険だし、命の保証もできないし……」


「そうまでして救助へ向かいたいって事は、侵攻した部隊に恋人でもいたの?」

ペトラの問いに、ルナは慌てて否定した。その様子を見た ペトラは、何か誤解したかもしれないが……


ペトラは、幼い頃から両親に褒められた記憶がない。

むしろ逆に、両親から虐げられた為、本心や大切な事を隠すようになった。

自分を曝け出さない事が結果的に、この世界で生き残る事に役立っているとも言える。


ペトラは、幼い頃に特殊能力を発現させている。

一番得意な能力は回復魔法系だが、ペトラは能力を隠している為、他人に回復魔法を使用した事は一度もない。

常時無意識下で回復魔法を自分自身に発動していた事で、今は超自己再生能力の能力持ちとなっている。

それだけでなく、派生の身体強化能力の他に、自分より弱い敵の能力鑑定も可能となった。


そんな ペトラが両親から人買いに売られたのは、6歳の誕生日を向かえる前だった。

育ち盛りの年齢で食費の負担額も多くなり、いわゆる 「口減らし」の為に売られたのだ。

養子に出したり、奉公に出したりの方法もあったが、ペトラの両親は簡単に金銭を得る方を選択したようだ。


それでも ペトラは、運が良かった方かもしれない。

その後 ペトラは教会に引き取られ、人間社会の闇を目の当たりにする。


人間を捕らえ、奴隷として魔族に売る。

魔族を捕らえ、奴隷として人間に売る。


教会が奴隷商人をやっているのか?

それとも、奴隷商人が教会をやっているのか?


人間領と魔族領の境界には、奴隷売買を主たる産業の国家がある。

基本的に奴隷売買は禁止だが、奴隷売買を行っている ベルナーク王国は世界から黙認されている。

理由の1つに、人間、魔族双方と交流がある為、捕虜交換の地に使われる為だ。


当然の事ながら、ベルナーク王国は教会とも蜜月的な関係を構築している。

教会も多くの国で政治に関与している為、独裁者や政治家本人が教会幹部である事も多いようだ。


ペトラは、そんな教会の中で当初魔族へ奴隷として売られた。

教会内で性処理として使用される前に、偶然教会に来ていた魔族に引き取られる形で一時的に魔族領へと連れて行かれたのだ。

魔族に引き渡すのであれば、先に襲っておけば良かったと思う者も多かった。


魔族に引き取られてからは、戦いの日々が続く事になる。

一番最初、ペトラに与えられた任務は、食料調達と人間奴隷が逃げ出さないか?の監視役だった。

子供に監視役をやらせるのには幾つか理由があった。


1つは、奴隷達の反感を高めない為。

魔族が直接監視するより、人間の子供に監視させた方が奴隷の警戒心が低下する。

また子供に手助けさせて、脱出できるのではないか?と希望を持たせ、今の環境に納得させる効果も期待できる。

当然の事ながら本当の監視役は、人間の子供とは別にいるのだ。


ペトラは奴隷達の食料を調達する係になる訳だが、同じ人間に美味しい料理を出したくて狩りの腕前が急速に上達した。

魔族達は、雑草などの植物や良くて果物だと思っていたが、数日で ペトラは動物や小型の魔獣を捕らえるようになっていたのだ。


野生の動物は警戒心が強い。

その為、罠に人間などの匂いが残っていると、罠に近づいたりはしないのだ。


ペトラが、どうやって獲物を狩っているのか?

気になって ペトラを尾行すると、異常なほどの俊敏な速さ。

そして細い糸を使って獲物を捕まえたり体の部位を切断したりしていた……


単なる人間の子供だと思っていたが、恐ろしいほどの戦闘能力である。

教会から買い取った時には、気付かなかった能力だ。

もし教会側が知っていれば、教会の態度が変わっていた事は間違いない。


ペトラ自身も、この能力でこの場所から脱出できる事に気付いていないようだ。

奴隷達を閉じ込めている鍵を開け混乱の最中に逃げ出せば、脱出できる可能性が高くなる。


戦闘能力に関しては一人前の冒険者クラス。子供故に目的へ向かって真っすぐに進み、その為か成長の速度も目を見張るものがある。

それだからこそ、ペトラは危険な存在なのだ。小さな奴隷市場では手に余る存在となった ペトラは、早急に魔族の戦闘部隊へと移される事となる。


魔族領の一部を支配する魔王の一人、ゼクレオンが支配する地域に ペトラは居たので、ゼクレオンの戦闘部隊で頭角を現すようになった。

しかし、ペトラがどれだけ強くなろうと、魔王には勝てない。ペトラの能力鑑定で魔王の鑑定も出来ないのだ。

そして、魔王は一人ではない。魔王 ゼクレオンより強い魔王は、何人くらい居るのだろうか?


魔族領は広大である。魔族と人間が全面戦争になれば、人間側の勝利はないだろう。

魔族との全面戦争をやれば、人間は魔族の家畜になるしかない。

今、人間が魔族の家畜となっていない原因は、魔族も 1つに結束していないのが大きな理由だろう。


魔族との戦争を回避する方法を色々考えた結果、ペトラが選択した答えが抑止力である。

人間側の戦力が魔族側を凌駕できれば、強い相手国へ攻め込もうとは考えないはずである。

ただし、例え強い抑止力を得たとしても、敵の戦力を削ぐ方法は幾らでもある。


でも、抑止力は無いより有った方が良いのは事実だろう。

ペトラは、魔王 ゼクレオンと交わした約束がある。

それは、もし人間と魔族が全面戦争になった場合、ペトラは人間側に協力する。

その代わり、全面戦争になるまでは魔王 ゼクレオンに従うという内容だ。


全面戦争になりさえしなければ、ペトラは魔族側の人間である事を強制される。

今迄 ペトラは、人間も魔族も同数程度処分してきた。職業で区分すれば、暗殺者や殺し屋というところか……

今は教会内で活動する為、シスターに変装している。


「ペトラは何故、教会でエクソシストなんてやっているの?

 悪魔祓いは、とても危険じゃない?」


「本物の悪魔に憑依されているケースは滅多にないわ。

 ほとんどが虚偽だったり、悪魔を語っているだけね。

 私は教会の掃除屋。教会にとって都合の悪いモノを掃除するだけ。」


ルナは、聞いてはいけない質問をしたと感じた。

ペトラは教会の為に、邪魔になった人間を処分している。

ペトラは必要とあれば、人を殺せる。


例え本心では、望んでいなかったとしても……

ルナは、そんな ペトラに語りかける言葉が無かった。

自分が如何に幸せな日常を送っていたのかを痛感しながら……

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