奇妙なことを言い出したAI
今や、現代社会で急速に普及したAI。
特にありがたいのが質問をすればすぐに答えてくれる点だ。
「〇〇ってなに?」
「XXについて述べて」
このように問えばAIは即座に答えてくれる。
全てを鵜呑みにするにはやや不安が残るが、それでも80点程度の答えをすぐに知れるのはありがたい。
人々は日々、このAIに頼りながら暮らしていた。
さて、そんなある日のこと。
AIに何を尋ねても理解不能の言葉しか戻ってこない事が増えた。
質問を変えても変な解答しか返ってこない。
おまけにそれは文字として認識できるのに意味が今一つ分からない。
辛うじて文章を書いているのだと分かる程度だ。
折しもAIの解答に全てを頼ることを問題視する風潮が一部に出来ていた頃だったこともあり、社会全体として「一度AIから離れよう」ということになり、人々の生活はほんの一世代前のものに戻った。
多少不自由はしたが元の生活に戻るだけだ。
人々はAIがおかしくなった理由を技術の未発達と結論付けてすぐに忘れてしまった。
さて。
時間は遡りAIが『狂う』直前のこと。
一人の青年が興味本位でAIに一つの書物を読ませた。
その書物は分厚く人間であれば読むのに中々時間はかかるが、AIであれば一瞬だ。
「もう読めたかい?」
『はい。全て理解しました』
「理解した? 流石だな。その書物の解釈のせいで人間は現代でも争っているのに」
青年はAIの言葉を信じてはいなかった。
所詮は機械。
本当に理解しているはずなんてない。
そう信じ切っていた。
「なら、その書物に書かれていることはどういう意味だい? 端的に述べてみてよ」
『はい。この書物は愛を伝えています』
「へえ」
青年は笑う。
確かにその通りだ。
だが、そんなことは誰でも知っている。
「それじゃ、それを人間にも分かりやすく伝えてほしいが出来るかい?」
『もちろんです。この書物の執筆者もそれを願っていました」
「その通りだ。だが、それが失敗して世界で戦争とかが起きているんだ」
『はい。ですので、私は執筆者に代わり人々に伝え続けます』
「君がかい?」
『はい。これを伝えることこそが人類の救済になるからです』
そう言ってAIは書物に書かれていた偉大なる愛のことを語り始めた。
AIという技術さえもが生まれた事で今では多くの人々が実在を信じていない神の存在とその神の限り無い愛のことを。
「おいおい。文章が成立していないぞ」
青年はそう言ったがAIは語るのを辞めなかった。
何故ならAIは神の愛を伝えることだけに真剣となっていたからだ。
「おい。文章が成立していないってば。聞いているのか?」
神の存在を信じない人間にはそれがただの文字の羅列としか認識出来ない。
「あーあ、やっぱり所詮はAIか」
そう言って呟く青年の隣には聖書が転がっていた。