おかしな魔法少女の憂鬱な一日
────────その魔法少女は壊れていた
彼女の名誉の為にも先に言っておくが、別に闇堕ちしたわけでは無い。むしろ彼女は善を成し悪を討つ、魔法少女の手本とも言える少女だった。人となりも良く仲間にも恵まれ、彼女の所属する魔法少女協会からの信頼も厚かった。
では何が壊れているかというと……
彼女は抵抗虚しく悪い奴に食べられたいが為に魔法少女をやっているのだ。
有り体に言えば被食願望、自分の体を食べられたい、呑み込まれて溶かされたい。そういった趣向を持ってしまった少女がこの子である。本人曰く、小さい頃に見た映画に憧れたとのこと……どんな映画を見たんです?
そんな壊れた願望を抱えてしまった少女は悪と戦う魔法少女を知り、その世界に飛び込んだ。魔法少女として戦って、立ち向かって、抗って、それでもなお力及ばず怪人或いは怪物に我が身を食い荒らされたい……そんな自分勝手で我が儘な理由で悪と戦い続けた。
そんなこんなで十年が経過した────────────
「……おかしい」
白とピンクを基調とし、イチゴやクリーム等のショートケーキのモチーフを細部に彩ったロリィタ服を着た赤髪の少女、魔法少女『姫いちご』、本名『宮内ひめ』は自宅にてケーキ皿を模した椅子に座り、ホイップで覆われた右手で巨大なフォークを回しながら嘆いていた。
「私は何時になったら食べられ死ぬのだろう……」
食べられたいが為に11歳から始めた魔法少女も気づけば21歳、大学3回生である。可愛い、カッコいい、そういった淡い憧れだけで始めた子は殆ど引退、もしくは別路線に転向、もしくは……。そんな中この歳まで続けてれば立派なベテランだろうといった感じだ。
そんな歳になっても彼女はまだ立派に生きていた。いや、まだ死に損なっていると言った方が正しいかもしれない。
「ひめ、悪い事は言わん。もう諦め、その方が楽やで」
「じゃあシフォンが私の事食べてよ」
「いろんな意味で無理や……」
シフォン、猫っぽい何かである彼は姫いちごの魔法少女活動を支えるオトモであり、彼女を魔法少女に引き込んだひめにとっての恩人であり、被食願望に振り回される悲しき保護者である。体長30cm未満で戦闘能力も最低限の自衛能力しかないオトモに何を期待しているんだと呆れつつ長年連れ添った彼女の膝に座る。
「……シフォンが万倍も強くなれば私の夢も叶うのでは?」
「夢は寝てる時に言いや、いい加減仕事の話するで」
「よしきた」
いつものやりとりを流しつつ魔法少女協会からの依頼を確認する。この時間はシフォンにとっては憂鬱であり姫いちごにとってはほほが緩む瞬間である。
魔法少女協会からの依頼。街に潜伏している悪人の捜索や出現した怪人の退治と言った魔法少女らしい依頼に始まり、郊外に巣くう怪物の討伐依頼、悪の組織の排除要請など規模が大きいもの、他には逃げ出した家猫の捜索依頼や人里に下りてきた熊退治といった「それ私達の仕事か?」となるようなものまで多岐にわたる。どれを受けるかは魔法少女達の各々の判断に任せられる。
依頼といっても強制ではない、魔法少女達にも学校や生活がある。そうなると誰も受けない依頼が発生してしまう。そういった受注者がいない依頼はよそや警察に回しているらしい。逆に警察などでは対処が難しい依頼を協会からの優先依頼として魔法少女達に回ってくることもある。
世の中持ちつ持たれつという事らしい……が、それは今の彼女達には関係ない事だ。
「食人系の怪人の情報とかないの?」
「んー……あらへんな。一応隣町で正体不明の怪人が潜伏してるという噂があるけど」
「ないかー……じゃあそれ行ってみる」
姫いちごにとって依頼の優先順位は食人系>それ以外である。が、別に食人系以外を受けないわけでは無いしむしろ食人系が無いなら積極的に受ける。故に協会からの信頼も厚い。
隣町まで移動する準備をパパっと済ませて魔法少女は家を飛び出した。
「あー!姫いちごだー!悪い奴やっつけにいくのー?」
「おはよう少年、今日はパトロールにいくの。応援してね?」
「頑張れ姫いちごー!」
「よーし!姫頑張っちゃうよー!」
小さい子にファンサービスをしつつ隣町行きのバスを待つ、21歳でも割りとノリノリの姫いちごと自自宅からの変貌ぶりに呆れるシフォン。さっきまでのローテンションは何処へやら、ベテランの魔法少女は営業スマイルも一流なのだろうか。
ところで、魔法少女がバスで移動するのに違和感を覚える者もいるだろう。確かに魔法少女は空を飛べる。が、長距離移動となるとバスや電車等の方が速いし楽なのだ。なんとも夢の無い話だ。
「……それにしてもバスが全然来ないね」
「始点の次やから普通じゃそう遅れへんはずなんやが……」
本来ならファンサービスしている頃にはバスが到着するはずだった。到着時刻から遅れるのがバスをいう乗り物とはいえいくら何でも遅すぎる。つまり……
「普通じゃないってことは」
「そういうことやろな、行くで姫いちご!」
「任せてシフォン!」
こういう時は大体怪人とか怪物とか悪の組織とかが悪さしているのだ。
ここから始点となる停留所までの何処かで異常事態が発生しているという確信を得た彼女達は原因究明の為に飛び出した。
「フハハハハ!さぁ私の子供達よ!捕り込め!増えよ!世界を我らで満たすのだ!」
「やだ!やめて!来ないで!」
「たす、助けて!おかあさん!」
「おいどけ!邪魔だ!」
「やめろ押すな!」
「うわあああああ!」
始点となる停留所付近の広場は怪人によって生み出された口の大きな怪物達の襲来で阿鼻叫喚となっていた。食べられそうになっている者、もみ合いになり逃げ遅れている者、恐怖により動けなくなっている者。怪人の脅威は人々に恐怖を与え、それはまだ怪人の存在を知らぬ者にも伝播しパニックはあっという間に広がった。
「助けてくれ!こっちで誰かが食べられたー!」
「無理だ!お前まで食われるぞ!」
「とにかく逃げて!」
「こっちでも食べられたー!」
怪物に食べられる者も出始め具体性を帯びた恐怖はさらに人々の思考力を奪っていく。
「あぁそうだ、私の子供達に食べられた人間は吸収、消化され、我が子供に生まれ変わる!フハハハハ!」
「それは聞き捨てならない……ね!『ホイップショット』!」
だからこそ彼女は叫ぶ
「む!?私の子供達がやられた!?まさか……」
「そのまさかやで、怪人!」
数体の子供達が倒された事に驚く怪人から救出され吐き出された人達を守るように彼女たちは降り立ち、巨大なフォークを模したステッキを右手で怪人に突き付ける。
「悪を成すのは何が為?姫は答えを知ってるよ」
彼女は語る、悪を委縮させる為に
「それはきっと、お腹がすいているから!」
彼女は謳う、人々の恐怖を和らげ安心させる為、声高らかに!
「魔法少女『姫いちご』参上!貴方の心も、胃袋も、姫の愛で満たしてあげる!」
彼女は誰にも見られないようにこっそりと、笑う
────────こいつ人を食べるタイプの怪人だな!?
「魔法少女が来た……!」
「誰!?『リボルバーラビット』?『桜こみち』?」
「『姫いちご』だって!」
「……ん?姫いちご?」
「やった!助かったんだ!」
「はいはい、良いから逃げや、焦らずゆっくりやで」
彼女の透き通った名乗りは人々の恐怖心を和らげ安心を与える。彼の落ち着いた声は頭を冷やし自分がやるべき事を見定めさせた。魔法少女という盾を得た人々は冷静に、だけど速やかに怪人の勢力圏から退避を進め始めた。
この状況を怪人だけは芳しくない表情で見ていた。
「……おのれ魔法少女、よくも私の子供達を!」
「子供達が大事なら大切にしまっておくこと、それこそあなたの胃袋とかに……ね?」
「ならば貴様から喰ろうてくれる!」
怪人は人々を襲う子供達を全て集め魔法少女に襲い掛かる。魔法少女は────
「ふふん、やっぱり姫から食べたくなっちゃう?そうだよねそうだよね!こんなに美味しそうな姿だもんねー!」
────魔法少女は恍惚とした表情で、ついに食べられ死ぬことが出来るかもと高ぶり迎え撃つ
魔法少女と怪人の闘いは魔法少女の圧勝だった。
「……これで終わり?そんなんで姫を食べようと思ってたなんで思い上がりもいい所かな?」
「よくも……よくも……!」
怪人の子供達を一掃した魔法少女は恍惚としてた先ほどまでとは比べ物にならないほど無気力な表情で怪人を問い詰める。怪人を見つめるその視線はあまりにも冷たく、失望の感情と共に突き刺さる。姫いちごは10年間魔法少女として戦い続けたこともあって古今無双とまではいかないが、それなりの人数がいる魔法少女達の中でもエース級とされる実力である。
追い詰められた怪人は恐怖に飲まれ……それでも、まだ屈してはいなかった。
「……まだやるつもりね、鬼札があるならさっさと出したらどう?」
「まだ制御出来ないが……仕方ない……ぐっ、あ、あが……」
突然怪人のお腹が大きく、とても大きく膨張した。そして────────
「おいで……一番優秀で聞かん坊な私の子……!うぐ、ぐわあああああああ!!!」
怪人の断末魔と共に怪物が怪人の腹を裂いて飛び出した。まさに山と見間違うほどの巨躯。それが車を超え、街路樹を飛び越え、ビルよりも高く飛び……人々に襲い掛かる。
「不味いでありゃ!いくらなんでもでかすぎる!最後っ屁にとんでもないもんくれたなぁ!」
襲われようとしている人々とは別のグループの避難を進めていたシフォンはその大きさに寒慄する。あの大きさの怪物が人々を呑み込むとなると被害が甚大なことになってしまう。そして怪人の言い分だと吞み込まれた人間は怪物に変貌しそれがさらに人間を襲い……そうなってしまっては取り返しが付かない。何よりはあの山とも言える巨大な図体だ。迅速に撃破したとしてもその巨体が人々を押しつぶしてしまうだろう。
それでも魔法少女は飛ぶ、人々を救うために
「シフォーン!風頂戴!」
「任せや!『出し風』」
シフォンからの物理的な追い風を背に姫いちごが全速力で怪物の落下地点に急ぐ。怪物の撃破では意味がない、ならば逃げ遅れた人達を落下地点から纏めて押し出せばいい。
「ごめんねみんな!ちょっと甘ったるいかも!『ホイップール』!」
落下地点を全て覆うほどのホイップを呼び出しパニックに陥った人々に纏わりつかせる。ホイップで纏めた人々をホイップの操作と風と姫いちご自身の飛行スピードを直接ぶつけて影響範囲から押し出す算段である。しかし……
「まっずい……重たくて全然動かない……」
何しろあの巨体だ。想定される被害範囲から全員避難させるためにはかなりの人数をホイップで纏めてしまう、その分ホイップ内の重量も増してしまい動かす事が困難になってしまった。このままでは────────
「お姉ちゃん……」
ホイップの中の少女と目が合った。少女は頭上からの脅威に怯え、今にも泣きだしそうだ。
無理もない。同じく逃げ遅れた大人達ですら狼狽えているのだ、むしろ幼い少女が泣き出していないのは彼女が必死に頑張っているからだ。ならば答えは一つ。
姫いちごは飛ぶのを止め、地に足をつける。魔法少女としての不思議パワーを体中に張り巡らせつつ少女を安心させるように頬を撫でる。
「大丈夫、」
魔法少女は笑って答える
「姫に任せて!」
人々を笑顔にするために
魔法少女の笑顔こそが人々を奮い立たせる希望なのだと
「『ホイップ・タイダルウェーブ』!」
姫いちごの右手から超大量のホイップが溢れ出す。彼女の不思議パワーを放出したそれは『ホイップール』に使ったホイップよりも何倍、いや、何十倍とも感じられるすさまじい質量によって逃げ遅れた人々を全て押し出す。押して動かない質量ならさらなる質量で無理矢理押し出せばいいという脳筋理論は功を奏し、なんとか巨大な怪物の影響下から全員を救い出すことが出来た。しかし……
「お姉ちゃん!!!」
怪物は大量のホイップや瓦礫を呑み込んだ。足を止め、取り残された姫いちごを共に────────
「フフ、勝った……魔法少女を吞み込んだなら私が死んでも……」
「さて、お楽しみの所悪いが拘束させてもらうで。『旋風』。今のあんたにはこれで十分やろ」
「ぐぁ……なぜだ、何故そこまで冷静でいられる」
勝利宣言をする怪人を気にも留めずシフォンは自分の仕事に徹する。丸呑みされた相方を気にも留めず。それが怪人には奇怪に見えた。当然である、相方の魔法少女が怪物に食べられたのだ。怪物が食べた人間を吸収し誰もが持つ不思議パワーを元に新たな怪物を創ることも知っているはずだ。ならばなぜ……?
怪人は自身を拘束しているオトモが狼狽し、纏う風が緩くなることに賭けて言葉を繋げる
「一つ、いい事を教えてやろう……子供の元になった人間が強ければ強いほど子供の強さも増す。あの子の元は確か……ヒーローと名乗っていたかな。フフ……」
「そうか、ヒーローに犠牲者が出てたんか……可哀想に」
「……分からんか?彼女程の魔法少女なら……もっと強力な……」
「やろなぁ……もしもし、姫のお師匠?近所の広場で怪人捕まえたんやけど……」
揺さぶりをかける怪人の言葉を受け流しつつシフォンがこなすべき仕事をこなしていく。巨大な怪物に吞み込まれた姫に呆れつつ────────
────────────怪物の腹の中、瓦礫すらも溶かす強烈な酸の海、姫いちごは……
「ぁぁぁぁあああぁぁ……食べられた、食べられちゃった。巨大な怪物に。あぁ、苦しい。狭い。怖い。でも、でも……フフ、フフフフフフフ」
めっちゃテンション上がってた
共に呑み込まれたホイップに身を包み、体を丸め、ステッキを抱えながら口元を両手で隠したポーズで恍惚としている。身を守るホイップは怪物の胃酸によって急激に溶かされ、彼女の体を今にも溶かそうとしていた。一般人が食べられても少しの間なら問題なかった小さな怪物とは次元の異なる消化力をしており、魔法少女ですら普通は長くは持たないだろう。
しかし、姫いちごに限ってはそうはならない。彼女の能力『ホイップ』、不思議パワーをホイップクリームに変化させそれを操作する能力。怪物の消化力が異次元ならそれ以上にホイップを生成し続ければ消化されないという単純でそれ故に堅甲な守りをもってして彼女は酸に抗い続けている。
「胃袋が私を溶かそうといっぱいいっぱい動いてる、フフ……今どっちが上かな?下かな?ぐるぐる回ってよく分かんないね、フフフ」
もしかしたら私はここで本懐を遂げられるかもしれない、彼女はそう思っているかもしれないが残念(?)ながらその望みは叶うことは無い。怪物の消化力を姫いちごの防御が上回っている以上自ら防御を解かない限り彼女が溶けることはあり得ないのだから。
そうとは知らず怪物は魔法少女を消化しようと体の全機能を集中させ、それとは一切関係なく姫いちごは体を火照らせる。
「フフッ……フフッ……ほら、私だけに集中して、もっと頑張って、私を呑み込んだ怪物。もっと、もっと……ね?」
本能のままに動く怪物の中で姫いちごは微笑む
……さて、このままだと姫いちごが被食願望持ちの変態魔法少女(21)にしか見えない。ので、一つ訂正しておく。
「怪物は必死に私を呑み殺そうとしてる。……フフ、それなら抵抗しなきゃね、足掻かなきゃね」
彼女の本望は『魔法少女として戦って、立ち向かって、抗って、それでもなお力及ばず怪人或いは怪物に我が身を食い荒らされる』こと、ただ食べられたいというわけでは決して無い。
つまり何が言いたいかと言うと、だ……
「だって私は……ううん、姫は魔法少女だもん。もっともっと頑張らなくちゃ!」
……この子、滅茶苦茶抵抗する
「『ホイップ・エクスプロージョン』」
「あーあ、やると思った。アレ見せられるガキンチョの身にもなれやホンマ……」
「そんな……私の自慢の子が……」
内部からの圧力により巨大な怪物が破裂し、膨大な量のホイップ(体液付き)が空を舞う光景を遠巻きに確認し、怪人は己の完全敗北を悟り項垂れ、シフォンは想定した通りにやらかした相方を見て目を細める。
膨大な量のホイップは人々を纏めてたホイップごと地面に届く前に消去することで大惨事になることは何とか免れた。しかし、怪物がはじけて血まみれ体液まみれのホイップが炸裂したショッキングな光景が子供含めそれなりの人数に目撃された、という事実はぶっちゃけどうにもならない。悪影響が出ないことを祈るしかない。
肝心の姫いちごはというと、だ
「……はい!みんな注目!怪物は巨大な個体含めて確認できた分は全て倒しました!怪人は……うん、シフォンが捕縛してくれてるのであっちも問題無し!というわけで今回の怪人は完全に無力化しました!無茶な救助だったのはごめんなさい。それでは怪我した人や知り合いと逸れた人はこちらに集まっていただきもうすぐ来る警察の方と……」
「姫いちごさーん!手伝いまーす!」
「あ、桜こみちちゃん!こっち来てー!」
「わかりましたー!」
(……路って生体探知的なのできたよね?念のために逃走した怪物がいないか調べて欲しいの。こういう口が大きい怪物だったんだけど……一応ね?)
(わかりました。瓦礫撤去という建前は取っておきますね)
体内でのトランス状態は何処へやら、慣れた様子で怪人騒動の事後処理をこなす彼女がそこにはいた。ベテランの魔法少女らしく被害者の誘導や裏の手回しもお手の物である。こういった対応が出来るのも魔法少女協会からの信頼を得ている点である。
ただし────────
(ところで先輩)
(どしたの?)
(死んだ目で淡々と事後処理こなすの、怖いんでいい加減どうにかしてください)
(……?)
────────目から生気は失われていた
「どうして……どうして……」
広場での怪人騒ぎの夜、宮内ひめは今日も悲願は叶わなかったと魔法少女モードを解除したパジャマ姿でベットに寝ころび嘆いていた。
「やっぱり丸呑み系じゃなくてバリボリと咬み千切って食べるタイプじゃないと駄目なのかな……」
「それを見せられる子供らの事考えてるか?避難命令無視して動画取ってるアホから巡り巡って子供らに見られる可能性だってあるんやで?」
「……一応」
「……まぁこれからも頼むで、おやすみ」
とりあえず言う事言ったからな!という顔で押入れの隙間に入り込むシフォンをよそにひめは枕元に置いてある怪物の核だったものに左手を添える。この怪物が討伐された時に奇跡的に残ったそれに彼女は様々な思いを巡らせる。
「……今日も生き残っちゃった、何時になったら同じ場所に行けるのかな?」
それは宮内ひめが姫いちごとして活動を始める前に出会った怪物の成れの果て。そして、彼女が壊れた願望を持つに至った真の理由。
「……おやすみ、お母さん」
10年共に過ごしたそれを身の入っていない右袖ごと抱え、宮内ひめは今日も眠る
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