灰色の子
「使い魔を作りたい? うーん……私は使い魔持ってないからなぁ」
「図書館なら資料置いてあるんじゃない?」
との言葉をもらい、ウェンディは学校に設置された魔術図書館へ足を運んでいた。
「お邪魔しまーす……」
――……ん? 誰か居る?
図書館は既に電気が付けられており、ノアが言うには司書は夜中にしか居ないのだという。
ウェンディは先客の迷惑にならないよう足音を殺しつう移動すると、「召喚・創生」と書かれた本棚を見つける。
「使い魔……使い魔……あ、これかな」
「使い魔の作り方」といういかにもなタイトルの本を手に取ると、目次のページを開く。
そこには”材料”、”魔法陣”、”契約”の三つの項目が書かれており、かなりのページ数が使われている。
「やっぱり材料いるんだ……」
「お、大きいものほど、特にね……」
「あー。じゃあ小さいのかなぁ」
――……ん?
ウェンディは一人で来た。
今いる本棚の列に先客はおらず、足音も移動した気配もない。
じっとりと汗が鳴付がれるのを感じながら、ウェンディはゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、血色の悪い少女の顔があった。
「あああああああっ!!」
「きゃあーーーーッ!?」
図書館に響く二つの悲鳴。
ウェンディと謎の少女は互いの声に驚きながらそれぞれが向かいの本棚に寄りかかり、相手の怯える顔を凝視する。
「……え? ……あっ……人?」
「うぇ? ……あ、はい! 人っ、人ですっ!」
背後に居たのがお化けではないと分かり、ウェンディは冷静さを取り戻す。
そのまま二人で長机に移動すると、向かい合って座った。
「ご、ごめん……。迷惑にならないよう静かに歩いたんだけど……」
「あー……」
――そのまま近寄られるとは……。気配の消し方上手いなこの子。
「君も境界科の生徒なんだよね。もしかして先輩?」
「え? あっ、いやいや! 違う! 私も一年生!」
「も?」
まさかの同級生発言に、ウェンディは疑問符を浮かべる。
新入生歓迎会で出会ったのはラマとノアとアザリエだけであり、目の前に座る血色の悪い灰色髪の少女の姿はなかった。
「君、歓迎会に居たっけ?」
「あ、えっと、歓迎会は……緊張でおなか痛くて……ずっとトイレに……」
「そ、そっか」
沈んだテンションで答えられ、聞いたことに妙な在韓を感じるウェンディ。
そんな彼女に、今度は灰色髪の少女の方から問いかける。
「あなたは……その、何で使い魔の本を」
「え? ああ……実は前の異界で死にかけて。いつでも呼び出せる味方が必要かなーって」
「死にかけっ!? そういえばこの前見なかったけど、そんな危ない所に行ってたんだ。なら、確かに居るよね、強い使い魔……」
――あれ、もしかしてこの子……。
思い出すのは、最初に聞こえた使い魔についての言葉。
その言葉は使い魔について知らなければ出て来ない言葉だった。
「ねえ、君、もしかして使い魔作ったことある?」
「え? あ、うん。あるけど……」
「よかったらさ、私の使い魔造り手伝ってくれない?」
「えっ。えっ?」
灰色髪の少女は百面相で答えを悩み、ウェンディはコロコロ変わる表情を楽しみながら黙って返答を待ち続ける。
喜怒哀楽のすべての表情を見せると、意を決したように口を開いた。
「いっ! ぃいよ……(声量ミスったぁ……!)」
「ありがとう。よろしくね」
「うん、よろしくぅ……」
精神ダメージを負った制作仲間を手に入れ、ウェンディの使い魔造りは一歩前進する。
「そういえば、名前なんだっけ?」
「アズレイユ。長いからアズって呼んで、ウェンディ」
「わかった、アズ――――なんで私の名前を知ってる?」
二コリと微笑まれただけで肝心の答えは返ってこず、乾いたはずの背筋に冷たい汗がつたった。