部屋の外
「悪魔?」
その言葉には聞き覚えがあった。
父の研究、そのための実験の一つで、私の一つ前に行われたものだと。
「なんで……」
私の言葉に呼応するように、ページの真ん中に書かれた文字が薄れて消え、新しい文字が浮かび上がる。
『部屋から出たいんだろう?』
「!」
『なら、私が外の世界に行く手伝いをしてあげよう』
「手伝い……?」
何故、悪魔が私の元に来たのか。
何故、悪魔が私の手伝いをしようとしてくれるのか。
何一つ分からず困惑する私の前に、真っ白なページに浮かび上がった金色の鍵が、本から浮かび出て現れた。
『この鍵で、扉を開けられる』
「……本当に?」
『ああ、本当さ。行きたいんだろう? 外の世界に』
その言葉に、私は逆らえない。
ずっと欲しかったものだから。
絵本の少女に、ずっと憧れていたから。
「ここに、鍵を……」
誘惑に従って、鍵穴に鍵を通す。
ガチャリと音が鳴って、ドアノブを回すと扉はゆっくりと開いた。
その先にあったのは、狭い通路と、長い階段。
慣れない足取りで、一歩一歩、滑り落ちないように登っていく。
その果てにも扉があって、今度は鍵がかかっていないそれを開けると−−−−
「「え?」」
声が、二つ重なる。
扉を開けた先に広がっていた広い廊下。
そこを通りがかった女性は、おそらく、お母さん。
「アズ……レイユ?」
「あ……ち、違っ……違くてっ……」
脳裏に、今までの恐怖が蘇る。
部屋に連れ戻されてしまう。罰を与えられてしまう。
そんな未来に恐怖して、必死に弁明しようと口を動かすも、言葉は詰まって出てきてくれない。
「ああ、なんてこと……!」
お母さんが走り寄る。
私は逃げることも、防ぐことも出来ない。
出来たのは、怖さにただ目をつむることだけ。
何も見えない中、体を腕で拘束される感触があった。
「やっと……出てきてくれたのね!」
「…………えっ?」
それは、『抱きしめる』という行為。
知識の中でしか知らなかったもの。
お母さんの瞳から滲み出た涙が、私の頬に垂れた。
「この瞬間を、どれほど待ったか! 偉いわ、偉いわよ、アズレイユ!」
「……お母、さん。……お母さんッ!」
もしかしたら、私にはお母さんが居ないと。
居たとしても、私に愛情なんて持っていないと、心のどこかで諦めてた。
だが、違った。
その温もりは本物であり、その涙は本音であり、私の内に湧き出た感情もまた、偽りのないものだった。
「ねぇ、アズレイユ」
「?」
「お母さんと一緒に来てくれる?」
お母さんは、私の手を引いて歩き出す。
最後のーーの部屋へと。




